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第七十四話 貧しきを救い街を守る

 冬が来た。雪は降らず、気温も氷点下までは下がらない。暴食龍は解体され、氷竜の餌になった。貴重品である皮、骨、内臓は高値で売れた。ちょっとした臨時収入にユウトは喜んだ。


 キリクたちも、暴食龍がいなくなったので安心してアース・ワームを狩る。グリフォンの越冬の準備は進んだ。武僧の新年会の仕切りは、サジに任せる。


 平和だな、と思ったところでエリナの村から報告が届く。山にはやはり魔獣がいた。吸血鬼もいた。両方が村を窺っている、との知らせだった。


 太鼓は効果抜群だった。太鼓を鳴らすと、吸血鬼は逃げ出す。なぜか、魔獣も太鼓の音を嫌っていた。両方とも夜行性なので、日のある内に輸送を済ませれば被害はない。


 冬に入り陽が短くなってきた。雪が降れば、隊商の速度は落ちる。商人は冬の商売を不安視していた。冬の軍事行動は避けたいところだが、今年の冬は雪が遅れている。


 駐屯軍を動かしての戦闘を覚悟するか。レルフ中将には気持ちよく動いてもらいたい。兵糧を買う準備をする。


 南西の村の庄屋が訪ねてきた。庄屋はぺこぺことへりくだった。

「ユウト殿、金を貸してください。このままでは、身売りする娘が村から出る」


 穏やかではない。ただ、南西の村では、きちんと小麦が実っている。穀物価格下落の煽りを受けたが、困窮するはずではないはず。災害発生の情報も入ってきていない。

「どうしたんです? 何か問題が起きたのですか?」


 庄屋は弱った顔で申告した。

「実は、騎士様に内緒で作っていた隠し畑が見つかって、追徴課税を受けました」


 わからない話ではない。貧しい村が言われた通りに税を払えば潰れる事態もある。だから、脱税用の隠し畑を作って皆で分けていたのか。前の統治者は気付かなかった。だが、領地を貰った新任の騎士は気が付いたか。


「いくらの追徴課税を受けたんです?」

 庄屋が口にした額は貧乏村にとっては大金だ。しかし、ユウトの街では支出できない額ではなかった。だが、困っているからといって、返ってくる当てのない金は貸せない。


「弱りましたねえ」

「スッポンも売れなくなり、騎士様はお金に困っている有様でして」


 これは俺も無関係ではないな。悪徳スッポン業者は商売変えをしたか、逃げたな。

 南西の村には蟹の件で助けてもらった過去もある。困った時はお互い様だ。

「スッポンを産地直送で売っては、どうですか?」


 庄屋は弱々しく首を横に振った。

「気温が下がったといっても、スッポンは輸送が難しいんです。街までの運ぶ間に死んでしまう。それに冬ではそんなに量が獲れるわけではない」


 高級品だから摂り過ぎて絶滅しても困る。だが、水産物の需要は街にある。

「他の水産物は、どうです? 鯰や鯉を売ればいい」


「同じです。時間が掛かり過ぎて鮮度が落ちる。馬で輸送する最中に悪くなります。それに安定して獲れないでしょう」


 馬で運べなくも氷竜なら速く運べるな。子竜でも二俵(百二十㎏)は積める。

 褒められないが、お孫様の氷竜も使えば四俵(二百四十㎏)はいける。


 輸送手段があるとなると目いっぱい運びたいが、魚は全く獲れない日もあろう。

「いつも獲れるものは、ないですか?」


 庄屋の顔はどんよりと暗い。

「シジミならどっさり獲れますが、やはり輸送の問題があります」


 河でシジミが獲れるんだ。街には多くの国の人間が来ている。だとすれば、シジミを食べる食文化を持った人間もいる。シジミのスープは二日酔いに効くと宣伝すれば売れるな。


「流通は問題ないですよ。我が街の氷竜で運びましょう。街でシジミを中心に水産物を売りましょう」


 庄屋の顔は渋い。態度は後ろ向きだった。

「シジミの旬は冬ですが、シジミなんていくらにもならないでしょう」


 庄屋の思い違いだ。山の清流で獲れたスッポンは街では八倍でも売れた。流通の問題さえクリアーできれば、他の水産物も高くても売れる。冬限定だが、がっぽり稼ごう。


 胸を張って堂々たる態度を示した。

「俺が数々の商売を当てて村を街に発展させた功績は御存知でしょう。その俺が断言します。シジミで大儲けできますよ」


 コジロウに話を持っていくとコジロウは快諾した。

「ちょうど氷竜の長距離飛行訓練を始めたいと思っていたところです。重りを積むだけではもったいないな、と思っていました。やりますよ、水産物の運搬」


 南西の村の庄屋とコジロウは打ち合わせをする。

 朝に獲れた水産物を街の中央市場に運んで売る。


 初日、日が暮れる前に店を覗くと品物が何もなかった。

 運搬に失敗したのか? 何がいけない。


 南西の村人は、にこにことして教えてくれた。

「大庄屋様の読みは当たりです。高めの値段設定ですが、全て売れました」


 売れるとは思った。肉が高いのだ。同じ動物タンパク質の魚や貝が売れないわけがない。

 ただ、シジミまで含めて完売とは思わなかった。


「どんな人が買っていきました」

「最初は料理人の人が魚だけを買っていきました。ですが、最後にレルフ中将が軍の料理番を連れてシジミを全部、買っていかれました」


 レルフ中将の地元ではシジミを食べるのか。シジミは身体に良いと知っていたな。

 百㎏のシジミがあっても、千人分の味噌汁にしたら、一回でなくなる。


 冬のシジミ漁は大変だ。だが、氷竜で運べる量を完売できるなら、良い儲けになる。追徴課税分くらいは春までに用意できる。


 それからも南西の村から朝獲りした水産物が運ばれた。シジミ以外の漁は安定しない。だが、全ての水産品を売り切っていた。


 水産物の儲けは隣村と街で分ける。ユウトは街の取り分から特別手当として竜舎に払った。

 レルフ中将に会いに行くと機嫌が良い。すぐに会ってくれた。

「南東の村が魔獣と吸血鬼に怯えています。討伐軍を出してください」


 レルフは澄ました顔で承諾した。

「吾輩も気にはしていた。だが、近隣といえど軍が動くとなると時間が掛かる」

「タダとは言いません。早くに軍を動かしてくれるなら、米五百俵を寄進します」


 レルフは少しばかりユウトの申し出を疑う。

「殊勝な心掛けだが、南東の村は豊かではない。本当に出せるのか?」

「提供するのは街です。最近、シジミで儲けているものですから、帝国に還元します」


 兵糧提供の裏付けが取れたと、レルフは判断する。

「シジミは身体だけでなく、懐にもよいのだな。いいだろう、年明けには軍を動かす」


 危険は未然に、金のあるうちに防がないとな。エリナの南東の村は街を護る壁役にもなっている。滅びれば、街が危ない。

ここで第二部が終了です。評価はいかがでしたでしょうか? 物語は第三部に続きます。

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