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第六十七話 サイメイとの密約

 ユウトは既知の街の情報を尋ねる。質問は、政治、経済、法律と統治に必要な情報。

 サイメイはユウトの問いにすらすらと答えた。サイメイは街の状況をよく理解していた。


 街の役人として雇うには充分な回答だった。

 面接試験は合格点だな。三役として雇って、リシュールに文句を言われるような人材ではない。アメイが認める才女なだけはある。


 ユウトは気を良くした。

「会うので街の状況を勉強されたのですか?」


 あっけらかんとした態度でサイメイは認めた。

「庄屋様の人柄を存じていないゆえに調べました」


 俺の人柄と街の統治は関係ないような気もする。

 サイメイは微笑み、正直に告白した。


「つまらない人間との食事会になって話題が止まったら、せっかくの料理が台無しです。食事は美味しく食べたい人間なんです」


 嫌な上司と食べる飯は時間の無駄だと言いたいわけか。なんだろうな、はっきり言われたが、サイメイからは嫌味を感じない。本心なのもあるだろう。人間臭いせいもあるな。

 馬が合う。率直な感想だった。


 大勢の人間の生活が懸かっているので無能は困る。だが、いくら頭が良くても、利己的な人間では常に用心しないと安心できない。正義感の塊のような人間では上手くやっていけない気がする。現状ではサイメイぐらいの心意気でちょうどよい。


 サイメイを自分の軍師として迎え入れたいと思った。

 となると、今度はサイメイに俺が売り込む番だな。サイメイ級の人物なら金だけでは動くまい。金で全てを決められても困る。できれば、同じ未来を見たい。


「今度は貴女の番ですね。聞きたいことを教えてください」

 サイメイの顔は穏やかだった。だが、目には掘り出し物を見定める商人に似た気配があった。ユウトを試す気かもしれないが、ユウトには自信があった。


「庄屋様の目指す場所を教えてください。私なら庄屋様を王にだってしてあげられます」

 驕りや慢心ではないと直感した。


 サイメイは「自分なら、共に歩む人間をどこまでも引き上げられる」と自信を持っている。若い故の錯覚かもしれない。だが、サイメイはカクメイの傍にいて、多くの傑物たちを近くで見ていたはず。その上での発言だ。


 自分を偽る必要はなし。

「俺は庄屋でいいです。軍を率いて勝利に酔う。華やかに宮廷に出入りする。どちらも不要です。目の届く範囲だけ管理できればいいです。周りの人間を幸せにするとは大言は吐きません。ただ、避けられる不幸は、しっかり回避したい」


 サイメイは笑って評価した。

「私と年が大して違わない人間の言葉とは思えないですね。まるで、老人ですね」


 馬鹿にしている空気はない。ユウトも嫌な気分はしない。

 ロード職は強化対象となんらかの似た気質を有する。老人を強化する老婆・ロードなのもそんなユウトの性格が体現したのかもしれない。


「貴女が天下人の隣にいたいのなら、私の傍は少々つまらないでしょうね」

 ユウトは認めた。サイメイは若い。大志なり野望を抱くなら、それでいい。無理に自分の傍には置かない。どうせ、満足できなければ人は去っていく。


 サイメイは目をそっと細める。

「残念ですが、庄屋様の願いは叶わないでしょう」


 振られたか。残念だな。優秀な人材の登用は簡単にはいかない、か。

 サイメイは見逃すには惜しい人材だ。一回で諦める気はない。


 サイメイはお茶を優雅に飲みながら続ける。

「この地は荒れます。目の届く範囲を守りたいのなら、偉くならないといけません」


 すぐ隣は戦争の最前線。すでに荒れ模様だが、あえて指摘してくるところを見ると、なにか見逃しがあるのだろうか。それとも、覚悟が足りないと仄めかしているのだろうか。


 軽い態度でカクメイは促した。

「庄屋様、もし街を守りたいなら最低限、領主になりなさい」


 五万石の領地の領主ではできることが限られる。偉くなっても、消滅した旧王国出身者で実家が没落商家なのでは、風当たりも強い。権力者層には支配者層の苦労がある。仕事も変わってくる。ユウトは現状の待遇にも仕事にも満足していた。


「領主になれば権力は増します。でも、守りたい人々とは距離が離れ、遠くなる。私は庄屋でいいです」


 サイメイは少しばかり不機嫌になった。

「領主にしてあげるといっているのですよ? 私の能力をお疑いですか?」


「疑ってはいません。ですが、私には私でやりたい仕事がある。天下は広い。この地方だけでも手に余ります」


 サイメイは眉間に皺を寄せて数秒考える。

 ユウトはサイメイが去っていく予感がした。


「庄屋様、ならば私がこの地を治めましょう」

 サイメイの言葉に驚いた。何を言っているんだこのひと?


 揺るぎない自信を漂わせてサイメイは語る。

「庄屋様はこの地の十二村を経営する大庄屋になる。それなら良いのでしょう?」

「私がサイメイさんを登用するのではなく。サイメイさんが私を雇うのですか?」


 悪だくみをする庄屋のような笑みをサイメイは浮かべる。

「表向きにはそうです。ですが、実際は違います。この地方を裏で操る人間は庄屋様。貴方です」


 実現すれば完全に巨悪のポジションである。

 ただ、自ら望んで傀儡の領主になろうとする領主はいない。


 ユウトはサイメイが何を望んでいるのかわからず不安になった。

「私はそれでもいいですが、貴女のメリットが見えない。貴方は裏から支配される状況で何を得たいと考えるのですか?」


 サイメイは微笑み語る。

「私はただ純粋に権力がほしいだけですよ」


 嘘だ。いままでの言動と行動を見ていればわかる。サイメイの目的とは一致しない。サイメイはユウトが思っている以上に危険ないしは、馬鹿かもしれない。だが、マイナス評価はユウトが凡人だからこそ下す判定の疑いもある。


 この人、やはり只者ではない。だが、良いほうなのか、悪いほうなのか、まるで読めない。涸れたカクメイとは明らかに違う。


 だが、老人とだけ付き合っていては前に進めない段階に来ているのは確かだ。

「数日、考えてもいいですか?」


 ユウトの願いをサイメイは蹴った。ツンとした顔でサイメイは尋ねる。

「決断力がない男は嫌いです。いま、決めてください」

 尻を蹴とばしてくるタイプの女性だな。


「わかりました。俺が大庄屋で、貴女は領主で行きましょう」

 ユウトの即断にサイメイは喜んだ。

「話のわかるかたで良かった。さあ、冷めない内に料理を楽しみましょう」

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