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第六十一話 戦時地方債

 レルフからお礼の手紙が届いた。レルフは氷結晶の出所を問わなかった。

 氷結晶が敵地の特産品とは知らなかった? それとも、あえて気付かぬ振りをしたのか。どちらにしろ、余計なことは口にしない。


 街では商いが活発になり、貨幣の需要が増えた。銀座で銀貨を鋳造しているので、経済が停まる問題は起きない。銀行は両替で儲けていた。


 戦争に負ければ街は消える可能性がある。街が消えれば銀行も潰れる。なので、銀行の定期預金の金利は高目に設定されていた。ハイリスクな投資だが、預ける大口預金者は多い。潤う預金を貸し出しに回すので収益もあがる。銀行には街も出資しているので、冬には街に纏まった配当金が入る。


 戦争の勝敗が街の未来を大きく左右する。山の民との戦いはもう始まっている。

 日々、勝った、負けたの噂が、酒場に入る。どちらもまだ主戦力を投入していないので、諍いの域を出ない。


 ミラが村にやってくる。ここまではいつもの視察。だが、今回はボンドも一緒だった。

 珍しい組み合わせだが、歓迎はできない。ボンドには脱税で検挙されかけた。


 ユウトは心の内で苦虫を嚙み潰す。顔では愛想笑いを浮かべる努力をする。

「お代官様、今日はどのような御用ですか?」

「羽振りはいいそうね。地方債を発行するわ。銀行に引き受けさせるのよ」


 ミラの用件はわかった。でも、なぜ税務署のボンドが一緒なのだ。

 マオ帝国では税務署の上級省庁は財務省。ボンドが税務官から出世して、財務省の役人になる展開はある。国債なら国の借金なので、財務官僚が動く。


 されど、ミラは地方債と発言した。領主の借金と国の借金は別だ。

 領主は旧王国の貴族。マオ帝国にとっては外様貴族だ。国が領主の債務保証をするとは思えない。


 ボンドが領主に引き抜かれただけならいいが、本当にそうなのか?

「お代官様、ボンドさんと領主様はどういうご関係ですか?」


 ミラは突き放して命じる。

「お目付け役よ。庄屋は知らなくてよい情報よ。言われたことだけしてちょうだい。この一戦には領主様の未来が懸かっているのよ」


 ミラの顔は厳しい。

 領主はこの一戦で勝負に出るか。勝って権勢を増す気だな。


 戦には勝ち負けがある。マオ帝国の上層部は勝てると予想している。ラジットの話ではマオ帝国の優秀な頭脳が出した結論なので、馬鹿げた話ではないと判断していた。


 地元の庄屋であるユウトの考えは違う。異種族が暮らす山岳地帯の平定する仕事は容易ではない。ユウトにとっては、勝利より負けない結果が大事だった。


 地方債の発行はよい。勝てば償還も可能だろう。だが、引き分けた時が問題だ。

 街は残ったが、地方債が不良債権と化したら銀行が潰れかねない。銀行が破綻したら街が受ける影響がでかすぎる。資本家のロックは抜け目がないので、危ない話には手をださないとは思うが。


 不安なのでボンドに尋ねる。

「戦争は勝てるんでしょうか?」


 ツンとした顔でボンドは素っ気なく答える。

「私は財務と税制のプロです。軍人ではないので、戦争の勝敗はわかりません」


 ピンときた。地方債の正体は迂回融資だ。総督は領主に借金をさせて、戦費を賄う。

 負ければ領主を切り捨てて、債務を踏み倒す気か。


 領主は国の思惑に気付いている。それでもかまわないと、あえて危険を冒した。

 領主が破産するのはいいけどさあ。銀行が潰れると街が困るんだよな。


 引き受けたくはなかった。されど、ミラの白い顔はユウトが断るとは露ほどにも思っていない。これは一層、街の運営に注意が必要だな。


 ただ断ると馬鹿を見る。一旦は引き受けた態度を取るか?

「頭取のロックを説得しましょう」


 ミラとボンドが帰ると、お客があった。

 ロックが自らやってきた。このタイミングなので偶然ではない。


 ユウトから切り出した。

「実はお願いしたいことがあります」


 自信満々の顔でロックが応える。

「地方債引き受けの話ですね。いいですよ。銀行は引き受けます」


 ロックは先回りして情報を集めていた。

 これは銀行を潰さない秘策もすでに用意しているな。


 頼もしいともいえるが、なんだか怖くもある。

「戦争の先が見えないのに、投資して大丈夫なのですか?」

「この世に絶対安全な儲け話はありません。ですが、みすみす損をする気もありません」


 ロックの頭の中に興味が湧く。

「どんな計画があるのですか?」

「儲ける話は教えられません。庄屋殿ができるのは、私を信じるか、信じないかです」


 ロックの言葉、なんか言い方が詐欺師ぽいな。いいのかなー、信じて。

 露骨にロックはユウトを持ち上げた。


「庄屋殿は六村の管理を任された大庄屋です。現状は素晴らしい」

「含みのある言い方ですね。もっと上を狙え、と」


 ロックは不気味な笑みをたたえる。

「私なら充分にお役に立てますよ」


 悪い笑顔だな。

「現状には満足しています」


「何もしなければずるずると後退していきますよ。停滞は衰退の初まりです。悪い時も、良い時も、同じです。現状維持したければ進まないといけません」


 ロックの説得はする必要がない。細かい条件はボンドとロックで詰めてくれればよい。

 だけど大丈夫かな。周りが「行け行け、どんどん」の状況って危険な予兆がするんだけど。かといって、大きな流れに逆らっては酷い目にも遭う。


 展開を見てなにか策を講じていくか。

「今回は協力をお願いします。銀行で地方債を引き受けてください」


 ロックはニコニコしていた。

「そうこなくては、やりましょう。もっと街を豊かにしましょう。お互いのために」

 ロックはユウトの部屋を足取りも軽く出ていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 賢い主人公好き。 [一言] 大局の流れに逆らわないけど、損切りと決断のできる主人公ブームこい。
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