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第五十九話 激怒するマリク

 領主様から通知がきた。村は今日より街になった。街の名前はヨウロ。ヨウロは領主様の先祖の義士・ヨウロからとっていた。ユウトはヨウロの名前には聞き覚えはなく、業績も知らない。


 きっとマイナーな武将だったのだろう。

 ユウトの役料はぐんと上がった。ユウトは自分だけ待遇が良くなるとやっかみもあるだろうと予測。村の世話人、役人の給与も上げた。他の村には自腹で祝いの餅米を贈る。餅を作らせて祝った。


 街も人が増え経済が活況になる。商人、職人、軍人も集まる。建築も進む。街は豊かになった。表から見れば華々しい成功だった。


 裏から見れば違う光景が見える。度重なる出費により、街の財政は借金運営に転落寸前。秋の大戦に負けようものならたちまち焼け野原である。


 ユウトは執務室でリシュールにお願いする。

「学校ですが、私立の小学校で行きましょう。お金は俺の財産から出します」


 ユウト個人の貯えを全部放出しても学校は建たない。されど、街の庄屋が先頭を切って出資すれば、お金は集まる。戦争の結果によっては街がなくなる。敗戦時に財産を全て持って逃げるのは不可能。ならば、茶器だけを残して投資したほうが良い。


 小さくても小学校が建てばハルヒも喜んでくれる。

 小学校の規模が大きくなければ街の財政を圧迫はしない。


 リシュールは机の上に広がる書類を鞄にしまう。

「庄屋殿、ラジットが何やら動いておりますね。東の村に行きましたよ」

「なんだろう? 何も頼んではいないけど」


 リシュールは微笑み、推測を述べる。

「街に昇格したお祝いでしょう。きっと、良い知らせが届きますよ」


 なんか意味ありげだね。でも、良い知らせならほしい。

 リシュールが帰ると、廊下をドカドカと歩く足音が聞こえてきた。


「庄屋はいるか!」

 怒声と共にマリクがドアを蹴り開けた。


 態度もそうだが、マリクの顔を見ただけでもわかる。マリクはかなり怒っている。

 マリクがなぜ起こっているのか心当たりがない。


 鬼のような顔でマリクはユウトの前に進む。

「庄屋! いますぐ処分を撤回しろ」


 はて? なんの件だ。さっぱりわからない。

 東の村にラジットが出向いた、との報告はさっき聞いた。なにかやったのか。


 バルカンはマリクが働かないと愚痴っていた。

 ラジットがマリクを動かしたのかもしれんが、何をした?


 庄屋は軍人でも支配者層でもない。できる嫌がらせなんてたかが知れている。

 なんだろう、マリクの怒り方は尋常ではない。子供でも人質にとられたようだ。


 ここで正直に「知らない」と真実を告知すると、馬鹿をみる気がする。

 ユウトはラジットを信じて芝居に出た。

「そうは怒鳴られましてもね。こっちにも事情があります」


 マリクは吐き捨てる。

「やり方が卑怯だぞ。貴様は人の皮を被った悪鬼か」


 かなりの罵倒されようだ。ラジットはいったいなにをしたんだ。

 ユウトは気取った態度で威圧的にでる。


「それで、具体的にどうしてほしいんですか」

「とぼけるな、カレー粉をよこせ」


 香辛料は街に入ってきている。量は多くないが、種類は豊富だ。

 スパイスをミックスして作るカレー粉も当然ある。


 でも、カレー粉を止められたくらいで、大の軍人がここまで怒るかな?

 疑問はあるが、口に出すほど馬鹿ではない。


 代わりに踏ん反り返って答える。

「市場の円滑な取引は庄屋の役目。国の防衛が軍人さんの務めと同義にね」


 マリクは目を吊り上げてユウトを睨む。ユウトも負けじと睨み返す。

 先にマリクが折れた。

「口の減らない庄屋だ。いいだろう、義務は果たす。だが、カレー粉の恨みは忘れんぞ」


 マリクは大股で帰った。マリクが帰るとママルが入ってくる。

 ママルさん、心配して部屋の外に控えていてくれたのか。


 ふん、と鼻を鳴らしてママルはマリクを批難する。

「なんと鼻っ柱の強いルシャ人の小僧だこと」

「よくわからなかったのですが、カレー粉ってそんなに大事ですかね」


 ママルはあっけらかんと教えてくれた。

「ルシャ料理にカレー粉は欠かせません。異国人には臭いほど料理に香辛料を入れます」


「でも毎日は食べないでしょう」

「いいえ、ルシャ人はカレーを食べないと死ぬと揶揄されるほど、毎日、食べます」


 マリクたちにとってカレー粉は、日本人にとっての醬油や味噌みたいなものなのかな。

 異国に派遣された兵士たちは、慣れない環境下でストレスに曝されている。せめて食事だけは食べ慣れた物を用意できないと、不満もたまるか。


 マリクだけなら我慢できた。だが、部下には余計な苦労をさせたくないんだな。

 どれ、マリクの怒りを緩和しておくか。


 兵を統率する以上、剣だけ振るっていればいいわけではない。気苦労があるんだな。

 ユウトは基本、街から動かないが、六村の庄屋なので各村の状況は入ってくる。


 北の村では、小規模ながら玉葱を作っている。

「お使いをお願いします。玉葱を東の村に届けてください」


 カレーには玉葱だろう。かってな思い込みかもしれないが贈る。

 鞭と飴だ。ロシェ亡きいま、マリクとは喧嘩しないほうがよい。

【そわそわ】

当方、俗物なので評価が気になっております。だいぶ続いているので、未評価の方には判定の意味を込めて評価してほしいところではあります。面白かったら、評価をお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いよ 更新楽しみにしてた いつかは来ると思ってましたが、ロシェの死は悲しいですね。 長い付き合いで庄屋側のことも考えてくれる心強い人でしたが 力のある人がが亡くなり、今後どうなるか楽…
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