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第五十七話 名将の雄姿

 暑くなってきた。今年は天候に恵まれ米が豊作との知らせが入る。

 小麦も実入りがいいので収穫が期待できた。野菜も大ぶりなのが実る。


 穀物取引所では売り注文が入っており、価格は下がり続けている。

 軍には良いが、お百姓さんには辛い。


 ハルヒが一人のお婆さんを連れてきた。お婆さんは腰が曲がっており髪は白い。

 目は良く見えておらず、杖を突いていた。


 ハルヒがユウトを老婆に紹介する。

「メリカさん。こちらが庄屋様です」


 ユウトは目線を合わせて挨拶する。

「庄屋のユウトです。なにかお困りごとですか?」


 メリカはにこにこと笑う。

「今日からこの村でお世話になるので挨拶にきました」


 礼儀正しい人だな。

「第二の故郷だと思ってのんびりしてください」


 ハルヒが優しい顔で言い添える。

「困ったことがあったら遠慮なく相談してくださいね」


 いつものよくある光景だと思った。

 メリカが帰ると、ママルが複雑な顔で相談してくる。

「あの婆様。もしかして、憤怒のメリカではありませんか?」


 なんか物騒な仇名だな。

「お知り合いですか?」

「気性が荒く、怖ろしく腕が立つ魔術師です。ただ、死んだと聞いておりました」


 村に腕の良い魔術師がいないので本当なら嬉しい。だが、糠喜びはしたくない

「なら人違いでしょう。メリカなんてよくある名前ですよ」


 午後になると早馬がくる。ヨアヒムの部下だった。

 伝令は怖い顔で報告する。

「村の近郊にバジリスクが出ました。犠牲者多数」


 バジリスクも人里に出てきたか。義理兄の兵隊だけでは辛いな。

 伝令は宿屋で待機してもらう。


 バジリスクは強敵。複数出ているのなら冒険者も受けたがらない。

 困っているとロシェがやってくる。こころなしかロシェの顔色は悪い。


「夏風邪ですか?」

「これしきの暑さ、なんともない。我が故郷のほうがもっと暑い」


 強がっているがロシェも高齢。今年の暑さは厳しいのかもしれない。

 真剣な眼差しでロシェは語る。

「バジリスク退治は駐屯軍でやる。だから、安心しろ」


 ロシェは強い。だが、体調を崩しているのが気になる。

「村で金を出して冒険者を手配しましょう」

「庄屋殿には告げておく。儂はもう長くない」


 びっくり発言だった。

「身体の調子が悪いなら休んでください」

「帝国に捧げた身ならば、死ぬまで戦うのが武人だ」


 ロシェの顔には決意が滲んでいた。

 秋の戦までは生きていられないからこの地を守るために身を捨てるか。


 ロシェほどの将を失うのは痛いが、死に場所くらいは好きにさせてやりたい。

 ならば、ロシェが思う存分戦えるように俺も行くか。

「わかりました。なら、存分に働いてください」


 三日で準備を整えてロシェはユウトを伴って出陣した。

 駐屯軍、二百名が出撃する。


 外気温は高く、移動するだけでも体力を奪う。

 ユウトはキリンに乗り歩かないが、苦しかった。


 軍人さんも一苦労だな。こんな暑い中、出陣してくれるだけでもありがたい。

 馬も暑さに疲弊する。唯一元気なのはキリンだけだった。


 ヨアヒムの村に着くと村人は歓迎してくれた。冷やした甘露を食べながら休憩する。

 ロシェを労うためにヨアヒムが出てくる。ヨアヒムもロシェの出撃に感謝していた。


 ヨアヒムが困った顔で説明する。

「バジリスクは日中、涼しい森にいて気温が下がる夕方に人里にでてきます」


 魔獣もこの暑さは辛いか。でも、バジリスクは夜行性ではない。

「畑の野菜を食べて、陽が落ちる頃に森に帰っています」


 バジリスクは肉食ではなく雑食。

 身近に野菜や小麦があるうちは村を襲わなかったのか。

 ただ、大喰らいなのであらかた食い尽くしたら人間に手を出す。


 ロシェが決意を持って決断する。

「わかった、さっそく迎撃の準備じゃ」


 休憩が済むと弩の準備が進む。櫓や家の屋根の上に兵士が昇る。

 ユウトの元に兵士がやってくる。

「抗石化薬です。バジリスクが見えたらお使いください」


 石化を治す薬は高い。予防薬はもっと安くできる。

 薬は兵士の全てにいきわたったとみていい。


 ユウトはキリンに乗ってバジリスクの石化攻撃が届かない村の上空から見学する。

 夕方近くになると風がでてきた。


 同時に全長四mの緑の大蜥蜴が森から出てくる。数は八頭。

 バジリスクだった。バジリスクはもうなんども村の畑を荒らしているので怯えない。


 ずんずんと歩いてきて我先にと甘露やトマトを貪る。

 甘いのが好きなのか、水分が欲しいのか、小麦は踏み付けるだけでえ見向きもしない。


「放て」の合図で弩が発射される。矢の雨がバジリスクに降り注ぐ。

 バジリスクは動かなくなった。


 あっけないものだなと思うと、今度は灰色のバジリスクが出てくる。

 体格も一回り大きい。数も十六と倍。


 さっきのは幼体か、ここからが本番か。

 バジリスクは怒っていた。餌を無視して突進してくる。


 再び弩が放たれるが、今度は倒れない。体から血を流しながら接近してくる。

 危険を感じたので抗石化薬を飲んでおく。


 バジリスクが高さ八mの村の柵に衝突した。

 柵の四か所が破れバジリスクが侵入してきた。


 兵士たちが武器を手に果敢に挑んだ。

 石化効力を持つバジリスクの閃光が放たれる。


 事前に薬を飲んでいたおかげで被害は軽微。

 バジリスクの肌は硬いが、大勢で囲んで攻撃すれば問題なかった。


 これは兵士を揃えなければ村は危なかったな。

 森からシャーと大きな叫び声がした。嫌な予感がした。


 倒したのよりさらに一際大きいバジリスクが出てきた。

 大きいバジリスクが突進する。


 軍馬の突撃のように早い。柵にぶつかると一撃で柵が吹っ飛んだ。

 屋根の上から弩が発射されるが、今度は全て弾かれた。


 兵士の攻撃も通らない。光ったと思うと、兵士が石になり転がる。

 薬の効力を上回る石化の攻撃。大きいバジリスクが口を開く。


 紫色の毒ガスが撒かれる。

 家畜も人もバタバタ倒れる。普通なら兵士は恐慌をきたして総崩れ。

 だが、経験も練度も高いロシェの兵は踏みとどまった。


 ロシェが方天戟を振り回しバジリスクの脇腹を叩く。

 バジリスクはここで初めて顔を歪めた。


 ロシェが流れるような攻撃で脇や腹を攻め続ける。

 兵士が叫ぶ。

「上は硬いが下は柔らかいぞ。閣下に続け」


 喉、脇、腹に攻撃が集中する。

 バジリスクが弱点を庇うと、銅鑼が鳴る。

 油の詰まった壺がバジリスクの背中に落ちる。


 いまだと思ったのでキリンに頼む。

「落雷を頼む」


 キリンが発光すると雷がバジリスクの背中に命中して油が発火した。

 バジリスクがたまらず地面に体をこすりつけようとして仰向けになる。


 隙を見逃さずロシェの一撃がバジリスクの首を搔っ切った。

 勝ったと思った瞬間、バジリスクが爆発した。


 バジリスクの毒を含んだ大量の体液が撒きちらされた。

 大勢の兵士が巻き込まれる。ロシェも巻き込まれた一人だった。

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