第五十五話 ビースト・テイマー
野兎の苦情は村人に任せた。肉は処分してよく、税の一部は皮で納めていいと通知した。
革の加工場は北の村にはない。ユウトの村には職人がいて小さいながらも皮市場がある。
問題は価値がないネズミだな。地元ではネズミを食べる。
されど、ネズミの肉も皮も市場価値はとても低いので値はほとんどつかない。
お年寄りに協力を頼むか。ハルヒを読んで尋ねる。
「ネズミの食害で困っているんですが、誰か対処できる人を知りませんか」
「村の入居者にオリバさんがいますね。ビースト・テイマーです」
獣使いか。ネズミ対策をしってるかもしれない。
「どれくらいの腕前ですか」
「昔は魔獣を飼いならして野を駆けていたそうです」
魔獣を飼いならすとはかなりの腕前だな。
ユウトはお菓子を持参してオリバを尋ねる。
オリバは痩せた老人だった。金色の髪に白い肌なので旧王国人。
書類によると年齢は六十八歳だった。
オリバの家に行くと愛想よくユウトを迎えた。
「ネズミの食害で苦労しています。何か対策はありませんか?」
オリバは目をぱちくりさせる。
「なぜですか?」
言葉が通じないのか? でも、俺の老婆・ロードの力が働いているはずだが。
「食害ですよ。農作物がやられ困っています」
「捕まえて毛皮を売ればいいでしょう」
オリバの言葉を疑う。
「ネズミの毛皮なんて売れないでしょう」
オリバは納得した顔をする。
「そういうことですか」
「わかるように教えてください」
「昔の習慣で市場に持ち込まれる動物は気にしています。南の村のネズミはチンチラです」
「ネズミと、どう違うんですか?」
「価値です。チンチラは高級毛皮です。街の毛皮工房に持ち込むと良い金になります」
誰も教えてくれなかった。儲かるから秘密にされたのか。
目の効く商人がこっそり買い付けているな。今から抑えにいって間に合うかな。
ユウトが席を立とうとすると、オリバが不思議そうな顔をする。
「チンチラが人里まで出てくるのは珍しい。普段は山にいる生物なのに」
ここでも異変か。だが、今回は良いほうに出たな。
市場でチンチラの値段を調べると、下手な農作物より高価だった。
早馬でチンチラの毛皮を安く売ってはいけないと村人に教える。
家に帰ると北の村から早馬が来ていた。
「野兎狩りに出た百姓に死者が出ました。怪我人も多数出ました」
ウサギ相手に死者が出た、だと。
伝令は袋を持っており、中にはウサギが入っていた。
中を開けると、体重五㎏はある小さな角の生えた茶色のウサギが入っていた。
ウサギだが角がある。これ普通のウサギとは違うぞ。
伝令を休ませて、オリバの家に戻る。
オリバはのほほんと訊く。
「庄屋殿、忘れ物ですか」
「これを見てください」
オリバにウサギを見せる。オリバはウサギを一目見て即断する。
「悪魔ウサギですな。小さくても魔獣の一種です」
「魔獣? 人を襲うのですか?」
「こちらから襲わない限り攻撃してきません。ですが、一般人では対処できません」
苦々しく思った。判断を誤ったせいで村人に犠牲者を出した。
北の村人は入植者だ。ここいらの魔獣の情報を知らなくても無理はない。
「急いで冒険者を派遣しないと」
「それはもったいない」
ちょっぴり欲が湧く。
「もしかして、これも高く売れるんですか?」
「肉は臭みがあります。皮も加工しづらいわりに傷みやすい。安いですよ」
もったいない、の意味がわからなかった。
「では、何の価値があるんです」
「悪魔ウサギの天敵はスノー・ウルフと銀狐です」
スノー・ウルフは夏には涼しい山にいる。銀狐は聞いた覚えがない。
オリバがお茶を飲みながら答える。
「銀狐の肉は竜の好物。皮はチンチラと同等の値がつく」
「銀狐は発見の報告はないですよ」
「夜行性ですからね。狙って狩らないと狩れません」
もしかすると、ひと手間を掛けると儲かるのか。
「さっそく、狩人を手配します」
「待ちなさい。せっかくだから、銀狐を呼ぶ笛を上げましょう」
「おいくらですか」
オリバは笑って金を辞退した。
「タダでいいですよ。ただし、ハルヒさんには、よくしてあげてください」
ハルヒの人気が高いな。普段の行いの良さか。
家に帰って伝令に伝える。
「冒険者を派遣するから。それまでウサギに手を出さないでください」
伝令は不安な顔で質問する。
「もうかなり畑に被害が出ています。税はどうなるのでしょう」
銀狐がどれくらい獲れるかによるが、安心させるか。
「減免を考えます。だから、無理しないでください」
伝令はほっとして帰る。
さっそく、酒場で求人をでして狩人を募集する。
酒場のマスターには銀狐を呼ぶ笛を渡しておく。
「これで銀狐を呼べるので引き付けて狩ってください」
帰るとエリナの使者が来ていた。
「村で蝙蝠が異常発生。家畜に被害が出ております」
次は蝙蝠か。吸血鬼が来る前触れとか止めてくれよ。
オリバの家に急ぎ戻る。
「庄屋殿も忙しいですな。今度は何です?」
「大量の蝙蝠です。なにか対策がありませんか」
オリバは自信たっぷりに答える。
「蝙蝠が嫌う音を出す太鼓の作り方を教えましょう」
歳の功だね。何でも知っている。
ユウトが感心すると、そっけなくオリバが訪ねる。
「お金をかければ吸血鬼が嫌う音を発する太鼓にもできます。どうします」
オリバも吸血鬼が気になるのか。だが、ここら辺で吸血鬼の目撃情報はない。
山に吸血鬼が住んでいない保証はない。蝙蝠は斥候かもしれない。
村が救援を求めるまもなく吸血鬼の集団に落とされたとする。
戦局によっては山に進攻中の部隊は退路を塞がれる。
「使う素材は貴重なものですか?」
「この村なら揃いますよ。ただ、単なる蝙蝠よけと比べて制作費は二十倍です」
具体的な価格を訊く。軍馬が三頭は買えた。
吸血鬼がいるかも、でも領主も国も金を出さないからな。
密貿易が止まるので金は惜しい。毛皮も売ってみないとわからない。
今後は資金的には綱渡りになるな。いいか、なくなったらその時に考えよう。
太鼓の作成をオリバに頼んだ。
家に帰って待たせた使者に決定を伝える。
「吸血鬼すら嫌がる音の太鼓を発注しました。完成まで待ってください」
ユウトの言葉を聞き使者は安堵する。
「実はですね。吸血鬼が山の中に出るとの噂があるんですよ」
「そういう情報は早く教えてよ」
使者は申し訳なさそうにする。
「噂は噂なんです。村人に被害がなく、闇に光る赤い目を見た者がいるだけなんです」
不確定だから領主のエリナは言いふらさないように釘を刺したか。
でも、気になるね。赤い目。吸血鬼は困る。
けど、夜行性の魔獣だったら太鼓が効かない。
「調査はしていますか」
「冒険者を雇って山に入れましたが。明後日が帰還予定日です」




