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第四十九話 雪山にて

 逆風が吹いていたので、飛竜の速度はあまり上がらない。

 それでも、飛竜の強靭な翼により空を進む。森を抜け、山に入る。


 先頭を行く飛竜を操るコジロウには迷いがなかった。

 どこに氷竜が巣を作っているか知っているようだ。


 途中で休憩をとり、三時間で雪が積もる山に到着する。

 飛竜を管理する三名を残して、準備する。


 氷竜の卵を入れる籠はコタロウとコジロウが背負った。

 子供には籠は大きすぎた。


 だが、ドラゴン・テイマーたるもの己が乗る竜の卵は己で取らねばならなかった。

 コタロウが厳しい顔で注意する。

「雪崩には気を付けてくれ。飲み込まれたら終わりじゃぞ」


 一団となり雪山を歩く。ユウトは最後尾でキリンに乗って移動する。

 キリンは霊獣なだけあって、浮遊している。雪に足跡を残さない。


 歩くこと一時間。山中に空いた大きな横穴があった。穴は直径が二十mある。

 コタロウが険しい顔で辺りを窺う。


「コジロウのみ従いてこい」と命令して、横穴に入る。

 五分ほどで、コジロウだけが戻ってきた。


 コジロウが緊張した顔で告げる。

「竜を眠らせることに成功しました。五人だけついてきてください」


 ダナムがすぐに指示を出す。

「俺と庄屋殿、あと、お前とお前、それにお前が来い」


 冒険者がランタンを点けようとした。

 コジロウが慌てて注意する。

「氷竜の棲み処で火はダメです。刺激します」


 別の冒険者が剣に光の魔法をかける。

 六人で洞窟の中に入る。洞窟は三十m先で行き止まりだった。


 奥には枯れ木でできた巣がある。周りには毛や骨が落ちていた。

 ブラコや山の獣のものだった。


 全長十七mほどの雌の氷竜が寝ていた。

 氷竜は火竜より小柄なんだな。


 氷の竜の傍には白い卵が六つあった。卵の重さは二十㎏はありそうだった。

 コタロウが、良い卵の見分け方をコジロウに伝授する。


 ユウトは氷竜が目を覚まさないかひやひやした。

 コジロウとコタロウが卵を一つずつ籠に入れる。


 冒険者がコタロウに提案する。

「六つもあるんだ。もっと、持って行こうぜ」


 コタロウはギロリと冒険者を睨む。

「ダメじゃ、必要最低限だけにする」


 冒険者が未練がましく異議を唱える。

「竜の卵なんてめったに流通しない。お宝同然、持って行けば儲かるぞ」


 ダナムが怖い顔で命令する。

「指揮官には従え。でないと斬るぞ」


 はっきり「斬る」と明言された冒険者は黙った。

 入口に待つ冒険者と合流した。飛竜の待機場所まで歩いていく。


 犠牲者が出るって釘を刺されたけど、問題なかった。

 ユウトが安心すると、冒険者の一人が呟く。


「従けられているな」

 振り向くと危険なので、平静を装う。


 山の民かと思うが、気配がない。

 ダナムが厳しい顔で断言する。

「ブラゴだな。十はいる」


 竜の卵は栄養価が高く、山の獣にとって御馳走そのもの。

 そんな物を持った人間が歩けば襲いたくもなる。


 なにせ、春はまだまだ先、餌は少ない。

 いざとなればユウトはキリンで空に逃げられる。


 だが、卵を割られては任務失敗。領主には多額の献上金を出さねばならない。

 冒険者は武器をいつでも手にかけられるように注意していた。


 風が吹いた。同時にブラゴの集団が襲い掛かってきた。

 冒険者が円陣をとってコジロウとコタロウを守る。


 ユウトは迷わずキリンで空に逃げた。

 ブラコはユウトをちらりと見て吠える。


 だが、卵を持っていないと知ると無視した。

 予想通り、ブラコの狙いは竜の卵だった。


 わらわらとブラコが湧いたように出てくる

 地上では三十近いブラコに囲まれた冒険者がいた。


 思っていたより数が多い。

 まずい、このまま包囲が続けば身動きができなくなる。いずれは卵を割られるぞ。


 ユウトはキリンを飛ばして飛竜の待機場所まで急いだ。

「大変だ。仲間がブラコの集団に襲われた。至急、迎えにいくぞ」


 待機組が飛竜を操って現場に急ぐ。

 現場ではすでに三人の冒険者が倒されていた。


 コジロウとコタロウは無事だった。

 飛竜の一頭が無理やり着地する。


 ダナムが緊迫した顔で叫んだ。

「コジロウ、コタロウ、早く乗れ。長くはもたん」


 二人を乗せて飛竜は飛び立つ。

 コタロウが怖い顔で飛竜の操縦者に命令する。

「撤退する。村まで急げ」


 飛竜の操縦者が声を上げる。

「仲間の回収がまだだ」

「ダメだ。もう助からん。我らは村まで直行だ」


 飛竜の操縦者が躊躇う。コタロウは苛々していた。

 残り二頭の飛竜がどうにかブラコの隙を突いて着地する。


 ブラコが飛竜を襲おうとした。

 地上の冒険者は倒れた仲間の回収をするべきか迷った。


 ダナムの怒声が響く。

「負傷者は捨てて行く。飛竜がやられたら全滅だぞ」


 非情な決断だった。戦場で幾度となく状況判断を迫られたダナムにはわかっていた。

 冒険者は諦めて飛竜に乗った。ブラコに囲まれ殺気だった飛竜が飛び立った。


 飛竜の卵を逃したブラコたちだが、下には動けない人間がいる。

 ブラコたちは我先に人肉を喰らわんと争った。


 氷竜がブラコを餌にする。人間が氷竜の卵をとる。ブラゴが人間を襲う。

 自然の中での循環が目の前にあった。


 犠牲者は出ると覚悟していたが、実際に見ると嫌なものだな。

 帰りに山の民に出会わなかったのが幸いだった。


 卵の採取から撤退までが早かったおかげだ。

 コタロウが金を冒険者に渡した。


 冒険者は辛そうな顔をして去っていった。

 二つの卵がコタロウの家に運ばれる。


 コタロウが卵に耳を当てた。コタロウは安堵していた。

「中の幼竜に問題はない。きちんと面倒をみれば孵化する」


 コジロウの顔が輝いた。コジロウがコタロウに確認する。

「一頭は俺が貰ってもいいんだよね?」


 コタロウがこちらを見たので念を押す。

「いいとも。だが、献上竜が死んだら話は別だぞ」


 コジロウは明るい顔で請け負った。

「両方ちゃんと育てるよ」


 コタロウが頭を下げてお願いする。

「孵化から幼竜までの飼育は家でできます。ですが、健康に育てるには竜舎が必要です」


 冒険者が命を懸けてまで手にした竜だ。惜しむ理由はない。

「竜舎を建設しましょう。なにせ大事な献上竜ですからね」


 二週間で二つの卵が孵化したと知らせがきた。

 竜の雛を見たい気もした。だが、今は大事な時期とコタロウからやんわりと拒否された。


 無理を通して、献上竜が病気にでもなったら一大事だ。

 献上竜入手の報告を送ると領主はいたく喜んだ。


 皇帝からすれば金は金蔵に唸るほどある。珍しい乗れる氷竜のほうが受けは良い。

 お犬様ならぬ、お竜様だった。


 建設現場ではダンに無理を頼み建設スケジュールを変えてもらった。

 竜舎の完成を優先させた。

 竜舎が完成する頃には冬も終わり、春の足音が聞こえていた。

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