第四十八話 新人 ドラゴン・テイマー
ドラゴン・テイマーへの転職の書を持ち、ラジットのもとにコジロウを連れて行く。
ラジットは転職の書の使い方を知っていた。同心円の魔法陣を描きコジロウを乗せる。
ラジットが厳かな顔でユウトに確認する。
「書を使えば失われますが、使ってよろしいですか」
覚悟は決まっている。
「コジロウをドラゴン・テイマーにしてください」
ラジットが一時間かけて書を読み上げる。
全てを読み上げると、本は青い炎を上げて燃え上がった。
炎はゆらゆらとコジロウの頭上に移動し、光り出す。
光が消えるとラジットがにこやか顔でコジロウに告げる。
「成功です。これで今からコジロウはドラゴン・テイマーです」
コジロウはとても嬉しそうだった。
ユウトは優しくコジロウに伝える。
「コタロウさんの体調が良くなったら技術を教えてもらってください」
コジロウは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。庄屋様」
小さな問題は片付いた。だが、大きな問題が残ったままだ。金をどうするかだな。
ロックに相談すれば貸してくれるだろう。だが、ロックに借りは作りたくない。
利子が付くし、きっちり回収もされる。となると、茶器の献上か。
一個はへそくりとして残しておきたかったが止むなしだな。
来客があった。オレンジ色の肌の老人で極東人だった。
どことなく顔立ちがコジロウに似ていたので、祖父のコタロウだと思った。
身体が完全ではないだろうにわざわざ礼を言いにきたのか。
コタロウは目をしょぼしょぼさせて頭を下げる。
「孫を竜士にしていただいてありがとうございました」
「礼には及びませんよ」
コタロウは喜んでいなかった。
「庄屋様にも立場がありましょう。でも、残酷なことをする」
孫を戦争に投じることになるから快く思っていないか。無理からぬことだ。
「決めたのはコジロウですよ」
コタロウは暗い顔で首を横に振る。
「これでコジロウは家に帰りたがるでしょう。外に出た竜士に帰る場所はもうないのに」
掟があるのかな。竜の飼育や運用は軍事機密で色々ありそうだからな。
「家の事情は存じません。望むならコジロウはこの村にいつまでもいてもいいのですよ」
コタロウの顔はどこまでも沈んでいた。
「竜士にとって、異国に出るとは簡単な話ではないのですよ」
あれ、これまずい流れか。
「では、コジロウにドラゴン・テイマーの技術を教える気はない、と」
「いいえ、孫には儂の持てる技術の全てを教えましょう」
ドラゴン・テイマーの新人をゲットだ。これで、村の戦力は強化される。
コタロウは素っ気なく尋ねる。
「庄屋様は献上金でお困りだとか」
コタロウに転職の書の代金を払えると思えない。
「気にしないでください。必要な投資ですよ」
コタロウはへりくだって申し出た。
「お礼にお助けしましょう」
なんだろう、龍が貯め込むお宝の在処を教えてくれるのか。だったら嬉しい。
コタロウはしずしずと進言した。
「乗れる竜を献上してはいかがでしょう」
がっかりだった。馬よりは珍しいが、乗用飛竜は金持ちなら持っている。
「飛竜なら珍しくもないですよ」
「いいえ、竜士が特別に調教した竜です」
村を襲った種類の大型竜か。対龍抗槍がなければ竜は恐ろしい存在だ。
権力の象徴としての贈り物なら、いいかもしれない。
「どうやって竜を手懐けるのですか?」
「野に生まれた竜の調教は不可能です。卵から育てます」
言うのは簡単だけど、そんなの売ってないぞ。あっても馬鹿に高いだろう。
「竜の卵なんて流通していませんよ」
「ですから、山に取りに入ります」
そういうことか。弟子となったコジロウが操る竜がほしい。
だが、ただほしいと頼めば高く付く。
なので、皇帝に献上する名目で、ついでにコジロウの分も入手するわけか。
老獪だな。だが、竜を持たないドラゴン・テイマーなんて鷹のいない鷹匠だ。
前回襲撃があったので、山には間違いなく竜がいる。
森で木を伐ったあげく、戦略兵器扱いの竜の卵まで取ったら完全に山の民を怒らせる。
少し早いが戦争を覚悟しなければならんのか。
「山の中にいるのはちょっと面倒ですね」
コタロウは頭を下げて献策した。
「人員と飛竜を用意してくれれば、山の民を刺激せずに卵を取れます」
気になったので確認する。
「犠牲は出ますか?」
「出ます」とコタロウは断言した。
だよなあ、そんなに簡単に取れるなら、竜が絶滅する。
どうしよう、犠牲者を出す覚悟でやるか。
乗れる竜なら六村合同の贈り物として献上できる。
重要事項なので確認しておく。
「竜の繁殖期は春でしたよね」
「火竜は春ですが、氷竜は今です。献上は氷竜にするのがよいかと思います」
「帝国の首都は温かい土地です。氷竜は献上には不向きでしょう」
「竜士がいなければ、どのみち竜は飼えません。村で預かり育てるのです」
競走馬のようなものか。地方で飼育してレースの時だけ運ぶ。
権力者は竜に乗って前線で戦うこともない。時々、遊びで乗りに来るくらいだろう。
下手に火竜に拘って犠牲を出した上に卵を取れなかったら、馬鹿みたいだ。
やるか、氷竜の卵取り。
コタロウには最高の状態で仕事をしてもらいたい。
ならば老婆・ロードたる俺が行かねばなるまい。
「卵を持ち帰るのにどれくらいかかりますか?」
「飛竜を使うので往復で一日です。ただ、飛竜を借りるとお金がかかります」
山の民の支配地域で重い荷物を持ってうろつくのは馬鹿者だ。
それに、冬山で冷たい雨でも降られたら危険だな。
さっさと取って帰ってくるに限る。
金で危険を回避できるなら、予防しよう。
「一日で帰ってこられるなら俺も行きますよ。金も出します」
どんな装備と人材が必要かわからないので、調達はコタロウに一任した。
金の代わりに六村で皇帝に乗用の氷竜を献上すると領主に手紙を出す。
ユウトが管理している村にも氷竜の献上の計画を伝えておく。
負担はユウトの村持ちだと記載する。
ヨアヒム、カフィア、エリナから計画を了承する手紙がきた。
現金なものだな。献上金を払わなくていいなら即決だよ。
他の二村も追従した。
コタロウの動きは早かった。七日で十人の冒険者と飛竜三頭を手配した。
早朝に集まった全員はしっかりと寒さ対策をしていた。
ユウトもブラゴ製の高級防寒着を着る。
現場に行くと、ダナムとコジロウの姿もあった。
武人のダナムが一緒なら心強い。
「ダナムさんも竜の卵取りに興味があったんですか?」
ふんと鼻を鳴らしてダナムが答える。
「酒代だよ。俺の役料は低いからな。存分に飲むにはバイトせにゃならん」
暗に賃上げ交渉か。成功したら役料を上げてやるか。
「氷竜の卵を取ってこれたら、役料を上げましょう」
ユウトの傍にキリンがやってきた。
キリンは乗れと命じているようだった。
飛竜よりキリンのほうが速い。小回りも効く。いざという時は一人で逃げられる。
ずるいようだが、村の運命は俺に掛かっている。俺が倒れるわけにはいかない。
「俺は飛竜ではなくキリンで行きます」
コジロウは目をキラキラとさせていた。
ただ、あまりはしゃぐと馬鹿にされると思ったのか平静を装っていた。
無理もない。竜の卵取りはドラゴン・テイマーの仕事。
仕事を学ばずして一人前にはなれない。
コタロウが出発前に釘を刺す。
「ここから先は儂の命令に従ってもらうがいいな」
誰も異議を唱えない。
飛竜についた籠に乗って、一行は飛び立った。




