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第四十七話 帝国歴元年

 雪がちらつく中、カフィアが訪問してきた。

 カフィアは軽く世間話を終えたあと、軽い調子で頼んできた。

「安く馬を貸してくれ」


 東の村とユウトの村を結ぶ輸送経路はある。運搬業者もいる。馬は必要ないはずだ。

 まさか、森に手を出す気か。あり得る話だった。


 カフィアは密貿易に手を出していない。それに、村の畑は大きくないので収入は低い。

 手っ取り早く森から木を伐って金にできるのなら当然にやりたいはずだ。


「林業に手を出すのですか?」

「木材の値が上がっている。現金収入がほしい」


 カフィアやバルカンは有能な軍人だ。だが、経営は苦手らしい。

 村人も生死を共にした仲間とあっては厳しく出られないか。

「森に手を出すと山のモンスターを刺激しますよ」


 カフィアは楽観的に考えていた。

「村で使う建材や薪は森から得ている。木を伐っても襲撃はない」


 量によるだろう。生活のためなら目を瞑る。

 だが、金儲けのための大量伐採なら怒る。


 山への侵攻ルート確保のためと見做されれば即、戦争だ。

 カフィアに確認しておく。

「領主様から春までは現状維持と命令されているでしょう」


 カフィアはむっとする。

「なんでもかんでも従えばよい訳ではない。私は封じられ貴族だ」


 自立心旺盛はいいけどさあ、庄屋としてはやってほしくない。

 かといって、カフィアを満足させられる代替案はない。


 馬を貸さないでいると、賃料が高い業者に儲けをもっていかれるんだろうな。

 カフィアへの影響力を確保するために、決断する。

「いいでしょう。村の馬を貸しましょう」


 カフィアは安堵した。

「よかった、これで部下たちを飢えさせなくてすむ」


 すぐにでも木材の売却を行いたかったのか馬を借りにくる。

 木材の寡占体制が崩れると、建材の値段も緩やかに下降した。


 東の村にはよい大工がいないので、丸太のまま出荷される。

 ユウトの村での加工となるので木工職人にも職がまわってきた。


 廻状がやってくる。皇帝はナンダ・シヴァ・マオと改名。

 今年をマオ帝国歴元年とすると発表した。


 ここまでは良い。だが、建国元年を記念して貢物を納めよと通達された。

 あったま、痛いわー。突然の出費がここにきて出た。


 皇帝に良い顔をしたい領主の気持ちはわかる。

 ここで貢物を出せないと、宮廷で悪評が立つ。


 だが、領主は去年、築城に乗り出している。城に余剰金はない。

 だからと、下にしわ寄せは困る。金は湧くものではない。


 ヨアヒム、エリナ、カフィアも同じ気持ちだろう。

 そう思っていると、三人からほぼ同時に手紙が届く、中身は同じ。

『金を貸してくれないか』


 秋に手柄を立てるチャンスの戦争がある。ここで余計な出費はしたくない。

 うちもちょっとねえ。今は時期が悪いんだよな。


 ヨアヒム、エリナ、カフィアには自力でなんとかしてもらうとする。

 金蔵の余剰金を出せば、ユウトの村の上納金はどうにかなる。


 だが、ユウトは自分の村の他に二村の庄屋である。

 南と北の村の村人に泣いてもらうのは忍びない。


 天哲教は大きな宗教法人なので金がある。

 人徳派の本山を頼る方法もある。だが、ただで助けてくれるお人好しではない。


 どうしたものかと困っていると、困った顔のハルヒと子供がやってくる。

 アメイが連れてきた子だ。オレンジ色の髪と肌なので極東人だった。


 子供は真剣な顔で頼む。

「庄屋様ってお金持ちなんだろう。だったら、頼むよ。俺を買ってくれ」


 人身売買は表向きには違法である。

 ハルヒを見ると説明してくれた。

「お爺さんを助けるためにお金が必要なんです」


 ハルヒが困った顔で言葉を続ける。

「そうしたら、庄屋様に自分を売るって聞かないんですよ」


 お金が必要な理由はわかった。だが、なんで俺なのだろう。

 子供が気負って発言する。

「庄屋様って悪人なんだろう。俺、悪いことでもなんでもするよ」


 子供の言葉にハルヒはびっくりした。

「なんで庄屋様を悪人だと思ったの?」

「タダで家や飯をくれる奴はいない。きっと裏があるんだ」


「でも、それだけで悪人って決めるなんて」

「庄屋様は金貸しや貴族とグルで、悪いことするから村に金が貯まるんだよ」


 完全に時代劇の悪徳庄屋のイメージだな。

 でも、急激に成長する村を見れば、俺を良く思わない人もいるだろう。


 この子を追い返すのは簡単だ。

 だが、ここまで思い込みが激しいと、彼は本当に悪の道に進むかもしれない。


「君、名前は?」

「コジロウ」と威勢よく答えた。


「わかった。コジロウ。君を買おう。ハルヒさん、薬を買ってあげて」

 ハルヒはユウトの言葉に驚いた。

「そんなのダメですよ。庄屋様」


「いいから、薬を買ってあげて。コジロウは俺の部下として危険な仕事をさせる」

 ハルヒは目を白黒させる。だが、コジロウは喜んだ。


「ありがとうございます。庄屋様」

 コジロウは一刻も早く薬が欲しいのか、ハルヒをせっついて外に出た。


 夕方になって、渋い顔のアメイが会いに来る。

「庄屋殿、コジロウを買ったとは本当ですか?」


 もう情報がいったのか、早いな。

「ああでも言わないと本当に悪の道に走るでしょう」


「では、危険な仕事をさせる気はないのですね」

「コジロウは子供。仕事は無理でしょう」


 アメイが躊躇いながら語る。

「教えるかどうか迷いましたが、コジロウは竜士の家系です」

「こちらでいうところのドラゴン・テイマーですね」


 悲しみを帯びた表情でアメイが教えてくれた。

「コジロウは当主の子でした。ですが、先天的な竜士ではなく放逐されました」


「一緒にいた老人も竜士ですか?」

「コジロウの祖父でコタロウといいます」


 孫を不憫に思って一緒に出てきたのか。

「コタロウさんは長くはないのですか?」

「病気と老齢で冬は越せないと医師に言われていました」


 しっかり投薬し、俺の近くで生活していれば、一年や二年なら生きられるかもしれない。

 なら、コジロウをドラゴン・テイマーにすれば技術を継承できる。


 老婆・ロードの能力は凄い。だが、頼りすぎるのは危険だ。未来に投資しておくか。

「実は俺、ドラゴン・テイマーに転職できる書を持っています」


 アメイはびっくりした。

「コジロウに与えるつもりですか?」

「ダメでしょうか?」


 アメイの表情は暗い。アメイは転職がなにを意味するかを理解していた。

「コジロウは喜ぶでしょう。ですが、タダではないのですよね?」


 大事なことなのではっきりさせておく。

「転職の書はタダではあげれません。ここは今年、戦争になります」


 アメイは非難の視線をユウトに向けた。

「コジロウはまだ十一歳。戦争にコジロウを向かわせるのですか?」


 ユウトはアメイの視線を受け止める。

「村の守りには使いたいです」


「酷い庄屋殿ですね」

「決めるのはコジロウです。話をしてもらえますか?」


 アメイは迷っていた。

「この村に連れて来たことがコジロウにとって吉なのか凶なのかわかりませんね」

「今は乱世です。子供が子供でいられない時代です」


 朝になるとコジロウが駆けてきた。コジロウの顔は輝いていた。

 コジロウは深々と頭を下げた。

「庄屋様。俺を竜士にしてください。お願いします」


 憧れの竜士になれる。うまくいけば両親の元に帰れる。

 そんな期待がコジロウの顔にあった。


 俺は村のためにコジロウの気持ちを利用しようとしている。

 これじゃコジロウが指摘した通り、悪い庄屋だな。

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