第四十六話 年越し ↑
年末が近づいて来る。年越しの準備に村が慌ただしくなった。
村での建築ラッシュに伴い、出稼ぎの大工の出入りが多くなった。
大工たちも村で年を越すので、酒や高級食材が多く運ばれてくる。
ハルヒとの年末の餅搗き大会の相談を終える。父のアンドレがやってくる。
アンドレはちょっぴり困っていた。
「取引所だが、少し箔を付けたい。金を工面してくれないか」
大商人や貴族への見栄か。無駄な気もする。
だが、ここらへんの心の機微の読み合いはアンドレのほうが得意だ。
金持ちの心を掴んでもらわないと、取引所は上手くいかない。
「ちょっとお待ちを」
ユウトは残っていたアンドレのコレクションの茶器を持って来た。
かつてこれを所有していた張本人であるアンドレはひと目で気づいた。
「これは総督に没収されたはず。どうしてこれがここに?」
「兄さんから貰いました。これを渡すので接待用に使ってください」
「他にもあるのか?」
「あと、二つありますが、それは俺と姉さんの分と考えてください」
父は固執するかと思ったが、気にしなかった。
「家族の役に立ったのなら、買っておいてよかったな」
茶器は本来接待用。倉庫で眠るより使われたほうが茶器も幸せだ。
予想以上の収穫にアンドレは満足して帰った。
明るい顔をしたロックが相談にやってくる。
「庄屋殿、領主様にお願いしてもらいたい議案があります」
これは良い話か。
「どんな儲け話ですか?」
「村に銀貨鋳造所の設置を認めてほしい」
銀座の設置か。マオ帝国といえば金の流通が主流。それなのに金貨ではなく銀貨か。
マオ帝国では金貨の鋳造は大貴族にしか認められない。だが、銀貨は一段ハードルが低い。
銀貨は地方通貨なので信用が低い。でもそれは、あくまでも現状ではの話である。
山が勢力圏になる、ないしは極東の国への入口になれば話は別。
山と極東では銀貨による取引が一般的。取引が始まれば金貨と銀貨の交換が必要になる。
銀行に両替の機能を持たせれば、また一段儲けられる。だが、肝心の銀はどうする。
ロックはにこっと笑う。
「秘密の話ですが、北の村のさらに北の山には銀が眠っています」
銀を精製して銀塊にする。村に運んで銀貨を鋳造するのか。
上手くいけば大儲けできるな。だが、話は簡単ではないぞ。
鉱山開発には金がかかる。失敗すれば大赤字だ。
ユウトが二の足を踏むと、ロックが囁く。
「領主様から採掘権を買ってください。転売していただければ高く買います」
なんだかやけに自信があるな。これは儲かるのか。ちょっと欲が出た。
「採掘権は村が持ちます。開発はお願いします。利益は分けましょう」
ロックは満足げに微笑む。
「お互い、上手いことやりましょう」
なんかこれ、時代劇だと成敗される流れだな。
銀山開発を目的とした採掘権の購入を領主に申請した。
今年は街で領主主催の新年会があった。
大庄屋であるユウトにも招待状がきた。しかし、村を空けるわけにはいかない。
「東に動きがあり。警戒が必要」と理由をつけてアンドレを代理に出す。
ロックが行きたがっていたのでアンドレの随伴者として連れて行かせた。
貴族に取り入る会話が上手いアンドレなら問題ない。
権力者や金持ちの集まりならロックの顔も繋いでおきたい。
銀行設置、穀物取引所の開設、水道事業、銀山開発と話題もことかかない。
きっと、話下手のユウトがいくより富裕層も喜ぶ。
ユウトは世話人たちと餅搗き大会をしてのんびりした時間を過ごす。
近隣の村には希少な餅米を贈った。南方人が多く入植した村では餅は好評だった。
今年は本山から若い僧が新年の挨拶にきた。とはいっても、形だけだが。
重鎮が来ないため、ママルは機嫌が悪い。
若い武僧はキリンを珍しがった。また、老武僧の心技体の強靭さに驚いた。
新年の挨拶は簡単に終わった。だが、若い武僧はすぐには帰らない。
学ぶことが多いと知った武僧は寺で稽古を受けることになった。
老武僧も若い者に触発され、気合が入る。良い交流が持てた。
職業安定所にも若者が途切れることなく来ており、技術を学んでいた。
村のお年寄りは街の最新技術と熟練の技とを交換していく。
結果、村の技術水準はつねにアップ・デートされていった。
共に学び、共に成長する。この村には学ぶ喜びがあった。
来年もこんな平和な年越しができるといいな。
年が明ける。一番寒い時季になった。温泉は連日に賑わう。
ロシェが訪問してきた。ロシェは明るく挨拶すると用件を切り出す。
「王族がこの地にやってくるぞ」
王族といっても上から下までいる。上ならおもてなしに困る。
「誰ですかね?」
「第三王子ダイヤパット様の長男ダイダ様だ」
皇帝の孫か、大物だな。こんな遊ぶ場所もない村に来る目的はキリンか。
キリンに人間の権威は通用しない。ダイダ様が横暴な振る舞いをしなければいいが。
「我が家で最高の歓迎をしましょう」
ロシェが帰って数日後にミラから手紙が届く。
中身はダイダのご逗留だった。くれぐれも失礼がないようにと釘を刺された。
訪問は冬が終わり温かくなるころだったので、準備の時間は充分にあった。
さっそく、大浴場の湯釜番に貸し切りになることを伝えておく。
歓迎の準備をしていると、アメイが村に戻ってきた。
「ご無沙汰しておりました、庄屋殿。実は頼みがあって参りました」
「お世話になったアメイさんの頼みです。なんなりと言ってください」
「老人一人と子供一人をこの村に置いてください」
なんとなくわけありだと思った。だが、言いたくないのなら深くは聞くまい。
「いいですよ。いつからですか?」
アメイは申し訳ないとばかりにお願いした。
「実はもう来ているのです」
ユウトの村は家の建設を進めている。だが、最近は人口の増加に建設が追い付かない。
どうにか、空き家をやりくりしている状況だった。
「俺は六村の庄屋ですが、この村でなくてはダメですか?」
「この村でお願いします。この村なら寒くてもお年寄りが元気に暮らせる」
お年寄りの体調が良くないのか。仕方ない、家をやりくりするか。
アメイを宿屋に待たせて、ハルヒを呼ぶ。
「アメイさんの知り合いが困っています。家を一軒空けてください」
ハルヒは顔を曇らせる。
「朝に息を引き取った方がいるので、確保は可能です。でも、順番が崩れますよ」
居希望者はできるだけ平等に扱いたい。だが、功労者には報いなければ村が回らない。
「公平性に問題あるのはわかります。ですが、そこをなんとか、お願いします」
「庄屋様の頼みなので従います。ですが、あまり無理を通すとお年寄りに嫌われますよ」
家の確保はどうにかなった。だが、住居と水の改善は村の課題だな。
ハルヒを返すと、大工の棟梁のダンがやってくる。ダンもまた困っていた。
「庄屋殿、ちと気になる動きがある。建材の値上がりだ。木材が上がるぞ」
木材の上昇は織り込み済みのはずだ。想定以上に上がるのか。
価格を訊くとかなりの値上げだった。
木材の産地は北西と南西の山の近くの村だ。
西の山はモンスターの出ない安全な山。
おかげで、西の山では林業が盛んで木材の産地になっている。
言い方を変えれば農業に不向きで、林業しかない。
村は転封で来た騎士が治めている。値上げして、収入増を計ったか。
わかるけど、こっちは迷惑だな。
ダンが尋ねる。
「西がダメなら東はどうだ? 東から木材を運べないか」
東の山の麓には森がある。森の向こうは荒涼とした山だ。
森は山と帝国を隔てる場所にある。少しなら山の民も目を瞑るかもしれない。
だが、大規模伐採となれば、おそらく黙ってはいない。
ミラには春までは現状維持と釘を刺されている。
ここで強引に木を伐りに行って戦争となれば、注意では済まない。
「検討します」と役人的な言葉で乗り切る。
ダンは落胆して帰った。
ユウトは十八歳になりました。




