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第四十話 老婆・ロード 対 イリュージョン・マスター

 駐屯軍に押されるようにして、帝国軍はぐんぐんと前進する。

 城の百m手前に来ると、門が開いた。


 てっきり幻の敵がわんさと出てくるかと思った。

 だが、予想に反し人っ子一人すら出てこない。


 この様子を見て、討伐軍の指揮官とロシェの間で話が行われる。

 ユウトの傍にはラジットが馬で寄ってくる。


 ユウトは確認した。

「城に入ってはいけないんですよね?」


 ラジットの顔は厳しい。

「帝国軍はわかっている。だが、入らねば任務を達成できん」


「どうしますかね?」

「危険な仕事は傭兵団に回すじゃろうな」


 どこの世界も嫌な仕事は下請けに回ってくるのか。

 バルカンが馬を降りる。三名の傭兵を引き連れて城に入った。


 残りの部隊は城の外で待つ。

 一時間後、バルカンと傭兵は無事に帰ってきた。


 中の様子についてカフィアに報告する声が聞こえた。

「団長、城は張り子も同然。見せかけの壁と砦の残骸でできています」


 カフィアが厳めしい顔で質問する。

「トラップはどうだ? あるか?」

「可燃物が仕掛けられています。下手に入ると煙に巻かれます」


 大勢で入城すると、一酸化炭素中毒で死ぬ恐れがある。

 トラップはともかく、城についてはラジットの読みがおおかた当たったな。


 わかっているなら、未然に防止できる。

 ロシェがカフィアのもとに馬を進める。


「城は焼く。中心部の可燃物に火を放ってきてくれ」

 傭兵団の工兵が松明を持って入城する。


 焦げ臭いが辺りに充満し始めたころに、工兵が戻ってきて報告をした。

「団長、着火を完了しました」


 火は見る見るうちに燃え広がる。城壁に偽装された木の壁は燃え崩れた。

 焼ける城を見ながら昼食を取る。


 ダナムがつまらなさそうにごちる。

「終わってみればあっけない戦だ」


 目標は達成した。だが、イリュージョン・マスターの姿は確認できていない。

 イリュージョン・マスターを討ち取れなかったのが気になった。


 あまりにも上手くいき過ぎるので不安になる。

 まさか、こっちに兵を集中させるのが目的で、村を襲う作戦ではないよな。


 帰還すると、村の入口には縛られた八人の兵隊がいた。

 なにごとかと思うと、兵を見張っているアメイがロシェに告げる。


「閣下、味方に化けて侵入しようとした間者を捕まえました」

 敵の目的は帝国軍に敗残兵を出させ、それに化けて村に潜入することだったか。

 下手をすれば兵糧庫や兵舎が焼かれていたな。


 ユウトはアメイを褒めた。

「よくやってくれました。敵の策を未然に防げました」


 アメイの表情は硬い。

「全てはカクメイ様の読み通りです」


 アメイの表情があまりにも渋いので気にかかった。

 カクメイは、村になくてはならない人材だ。


 元気になったらお礼の品を贈ろう。

 家に帰ると、ハルヒが待っていた。


「カクメイさんから手紙が届いています」

 不思議な気分だった。なんだろう、改まって。


 手紙を読んで驚いた。


『庄屋殿。この手紙を読んでいる時、私はすでにこの世にいないでしょう。私の死を隠し、ママル殿を私の看病にと派遣してください。最後の策でイリュージョン・マスターを討ち取ります』


 カクメイが死んだ。病気はそれほどまでに悪かったのか。

 信じられないが、悲しむ時ではない。



 ママルを呼び、手紙を見せる。

 険しい顔で手紙を読んだママルは「わかりました」と答えて家を後にした。


「行軍で疲れたから」とユウトは断り、一人で部屋に籠る。

 カクメイにはとても助けてもらった。カクメイはまさに村の防衛の要。


 極東の国も、カクメイがいてはこの地は奪えないと踏んで作戦に臨んでいた。

 今後、カクメイなしでやっていけるだろうか。


 翌朝、ママルがやってくる。

 ママルは悲しみを帯びた顔で告げる。


「カクメイ殿を暗殺にきたイリュージョン・マスターを討ち取りました」

 敵のマスター級の英雄を討ち取った。だが、嬉しさはない。


「カクメイさんが亡くなっていたのは本当ですか?」

 いまだにカクメイの死が信じられなかった。


「家に行った時にはまだ息はありました。ですが、もう話せる状態でありませんでした」

「まだ生きておられるのですか?」


 最期に感謝をこめて挨拶したかった。

 ママルは項垂れる。

「夜明けと共に息を引き取りました」


 最期の瞬間まで村に尽くしてくれたのか。

「お仕事、ありがとうございます」


 カクメイは村の功労者なので盛大に送ってやりたかった。

 だが、カクメイの遺言で、近親者のみでの葬儀となった。


 長年の友を失い、ロシェはがっくり落ち込んだ。

 カクメイの遺体は荼毘に付しお骨にする。お骨はアメイの手により家族の元に戻った。


 今回の件で、老婆・ロードの能力では寿命が延ばせないことを改めて認識した。

 同時に村の弱点を知った。


 お年寄りには残された時間がない。

 積極的に人材を登用していかなければ人材不足になる。


 カクメイの葬儀のあと、ユウトはラジットを家に呼ぶ。

「約束通りに役料を上げましょう。まずは二人前です」


 ラジットは感謝し頭を下げた。

「二倍ですか。ありがたく頂戴します」


 昇給の紙を渡して訊く。

 カクメイの死を悲しんでばかりはいられない。


 村民に対して責任がある。

「これから、この地はどうなると思いますか?」


 聡明さをにじませラジットが穏やかに語る

「今年は大丈夫でしょう。ですが、来年の秋口が危険かと思います」

「何が起こるのですか?」


 ラジットは真摯な顔で断言した。

「マオ帝国は山に侵攻します」


 山は広く深い。侵攻作戦はよい案には思えなかった。

「成功しますか?」


「帝国には優秀な人材が溢れています。国力もあります。兵も強い」

 カクメイとラジットの考えは違うようだった。


「まさか、山が落ちるのですか?」

 ラジットは自信に満ちた表情で自慢する。


「帝国には三人、ずば抜けて頭の良い者がおります。彼らが動くなら山を征服できるでしょう」

 ラジットは最近まで宮廷にいたため、最新事情にも詳しい。


「村はどうすべきだと思いますか?」

 ラジットはユウトに微笑んだ。


「戦争を支援すべきです。上手くいけばこの地を治める領主にはなれるでしょう」

 国境沿いの三万石クラスの大名か。苦労が多そうだな。俺は庄屋で充分なんだけど。


「俺は今の暮らしに満足していますよ」

「なら、なおさら上を目指すべきです。基盤が弱くては状況に流されるだけです」


 ざっと計算する。マオ帝国の人口は四千万人。

 一人当たりの生産国石が三~五石。


 四石として計算しても生産力は一億六千万石にもなる。

 大庄屋になっておかないと無理がきかないのかな。


 村の危機は去り、遠征軍は帰った。

 夏の終わりが近づく。小麦のできはまずまずだった。南方では米が豊作だった。


 米の価格が下がり、それに引きずられて小麦の価格も下がるだろうと予想された。

 ユウトの村は密貿易に加担している。


 観光も介護事業も順調なので、小麦の価格低下は問題なかった。

 商人の流れを見ていれば、どこに金があるのかは誰にでもわかる。

 近隣の村はユウトの村がいくらで小麦を買ってくれるのか気を揉んでいた。

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