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第三十九話 幻影の威力

 奇襲の言葉が頭に浮かぶ。

 ロシェが怖い顔で確認する。


「数はどれくらいじゃ」

 兵士が困惑した顔で告げる。

「一体です。ただ、空高く飛んでいるので弓が届きません」


 ロシェは苛立った。

「小癪な。儂が射落としてくれる」


 慌ててユウトは止めた。

「待ってください。交渉の使者かもしれません」


 ユウトは村の外に出る。

 門の外に出ると、空からホークが降りてきた。


 ホークは安堵した。

「庄屋殿が出てきてくれて助かりました」


 こちらの疑念を打ち明ける。

「今こちらは山の民の中立を疑っております」


 ホークが困った顔で教えてくれた。

「それなんですが、山のハーピィたちが極東の国に弱みを握られました」

「まさか、山の民は極東の国に味方するんですか?」


「いいえ、味方するのはハーピィだけです」

 山の中の勢力図はわからない。


 だが、どこか一つでも極東の国に協力すれば、帝国は山全体を敵と見る。

「まずいですよ。帝国は山の民を一つの勢力として見ている」


「トロルやゴブリンと領主は貿易をしていますね」

「だったら、なんだと言うんです」


 ホークは真摯な顔で指摘する。

「ならば、ハーピィにだけ極東の国と取引するなとは言えない」


 理屈はわかる。だが、貿易は密貿易で帝国が認めたものではない。

「それでは困る。展開によっては山が戦場になりますよ」


 ホークは表情を曇らせて頼んだ。

「だからご相談に来たんです。人間の戦争は人間で解決してほしい」

「山の民で城を落とすことはできないんですか?」


「各族長の意見が纏まらないので、難しいでしょう」

 ユウトとしては山の民が城を落としてくれれば助かった。


 けれども、山の民にしてみれば人間が解決することを望んでいる。

 互いに互いを当てにしてはいけない。やりたければ自分で動かないと危険だ。


「ハーピィたちを寝返らせることは可能でしょうか」

 城の補給路はハーピィが握っている。ならば、ここを調略すれば城は落ちる。


 ホークは残念だとばかりに首を横に振った。

「無理ですね。極東の国に肩入れすると決定してから、ハーピィは覚悟を決めています」


 城を落として、早急にこの地方から極東の国の影響を排除する必要があるな。

 マオ帝国強し、となればハーピィの態度も変わるだろう。


「わかりました。山の民の加勢は当てにしません」

 ホークは飛び立ち、空に消える。


 ロシェにホークから得た情報を教える。

「信じられんな。山のモンスターは敵になったと考えたほうがよい」

「味方にはならないでしょう。だが、下手に刺激して敵になられると困ります」


 昼になると、キョウが訪ねてきた。

 砦を失って帰路に着いたと思ったが戻ってきたのか。


 キョウの顔は芳しくない。

「庄屋殿。兵糧をわけていただきたい」


 密貿易用に貯めておいたから食糧はある。

 ゴブリンとの貿易はしばらくストップだから渡してやってもいいだろう。


「いかほどですか」

 キョウの要求量は千人の兵を二十日間、養える量だった。


「いいですよ」

 ユウトの言葉にキョウは驚いた。


「いままで国家の要請を聞かなかった庄屋殿が、なぜ態度を変えられたのですか」

「誤解ですよ。私はマオ帝国が憎いわけじゃない。貴女を困らせたい訳でもない」


 キョウは戸惑っていた

「ならいいのですが」


 キョウが帰ると、不機嫌な顔をしたカフィアがくる。

 来客の多い日だ。


「帝国軍が協力しろと踏ん反り返って命令してきた。タダ働きに近い額でだ」

 急ぎ集められるだけ集めて短期決戦を挑む気か。


 一歩間違えば無謀な戦だな。

「それでなんと返事をしたんですか?」

「今は村との契約中なのでできないと答えた」


 模範的な回答だ。俺の後ろには領主がいる。

 村の金で雇っているなら領主の兵だと答えられる。


 領主からは出撃命令は来ていない。

「戦争ですが、いざとなったら頼むかもしれません」

「秋になってないから雇用契約は有効だ。ただ、城攻めをするなら手当がほしい」


 カフィアの要求額は思ったほどではなかった。

 金があるとは良いものだ、急場を凌ぐに役に立つ。


「手当は約束しましょう」

 翌朝、村に討伐軍五百人の兵がやってきた。


 夜になると、厳しい顔のロシェが面会にきた。

「城攻めを強行する。庄屋殿にも兵の負担をお願いしたい」


「領主様からの命令はないですよ」

「総督から領主殿に打診中だ。だが、返事を待っていては歩調が合わない」


 各個撃破されると問題だからな。

「幻術を破る太鼓が届いてからでいいですか?」

「司令部からは即刻、出撃して撃破せよとの命令だ」


 急ぎ過ぎだな。でも、相手が百名に満たないなら勝てるか。

「わかりました。協力しましょう」


 一日の準備期間を置いて、兵は出撃と決まった。

 陣形は凸型。正面に討伐軍四百。右翼に駐屯軍二百、左翼に傭兵二百の編成だった。

 残りの百名は村の守りに残してきた。


 司令官はロシェ、参謀役としてラジット、ユウトの護衛としてダナムが従軍する。

 夜明けとともに帝国軍は村を出た。昼前には城が見える丘に差し掛かった。


 すると、妙な霧が出てきて視界を塞ぐ。

 ロシェが警告する。

「敵にはイリュージョン・マスターがいる。幻に気をつけろ」


 ゆっくり進むと急に霧が消えた。

 四百体のアンデッドの大隊三つに囲まれていた。


 戦闘が開始された。アンデッドは数がいたものの、弱かった。

 ほとんど犠牲者を出さずに勝った。だが、陣形は崩れ、円形になっていた。


 円陣を囲むように炎の壁が出現する。炎は熱いので幻術かどうか戸惑った。

 炎の壁がじりじりと近づいてくる。


「術を破ったぞ」

 誰かの声が聞こえ、そちらを向くと、一方向の炎が消えていた。


 炎の壁に空いた穴から討伐軍が逃げようとする。

 ユウトも逃げようとした。だが、怖い顔をしたダナムに止められた。


「待て、怪しいぞ」

 逃げた先の地面が陥没して、兵が飲み込まれる。


「あれも幻術ですか?」

「違う、落とし穴だ」


 兵の断末魔がこだまする。

 炎の壁にさらに三か所の穴が空いた。今度は誰も出ていこうとしない。


 迫りくる炎壁に触れた兵士が絶叫する。

 誰かが叫ぶ。

「壁の炎は本物だぞ」


 恐慌をきたした兵が逃げようとして壁の穴から逃げる。

 案の定、落とし穴があり、またも兵が地面に飲み込まれる。


 炎の壁が消えた。すると、今度はみぞれが降って来る。

 寒さで歯ががちがちと鳴る。


 兵が寒さを避けようとして密集した。

 激しい音と光と共に落雷が落ちた。


 討伐軍は恐慌状態になって逃げだした。

 霧が出てから落雷が終わるまで、三十分に満たない時間だった。


 だが、ここで討伐軍は半分を失った。

 駐屯軍の精鋭には老婆・ロードの精神安定効果が働く。


 傭兵団にはカフィアのウォー・ロードの士気向上能力が作用する。

 冷静だった駐屯軍と傭兵団に出た被害は軽微だった。


 ダナムが苦い顔で舌打ちする。

「城に近付く前に四分の一も兵を失った」


 近付くのすら無理かと思っていると、進軍の銅鑼が鳴り響いた。

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