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第三十五話 三人の傑物

 国家功労者の三人がやってくる日が来た。

 三人は空飛ぶ車でやってくる。入村こそ仰々しかった。


 だが、三人を降ろすと役人たちは素っ気なく帰って行く。

 見ただけで、誰が誰だかすぐにわかる。


 筋骨隆々、禿げていて髭面で酒臭いのがダナム。

 若い女性の世話人をにやけ顔で眺めまわすのがラジット。

 車椅子で運ばれてきて、「あー」とか「うー」とか呻いてるのがリシュール。


 ダナムは南方人。ラジットとは旧王国人。リシュールがハーフだった。

 三人とも七十五歳を超えていた。


 ハルヒが笑顔で三人を迎える。

「よくおいでくださいました。今日からはここが皆さんの家です」


 ダナムが不機嫌に答える。

「ここが姥捨て村か。かつての猛将も形なしだな」


 ダナムがふらふらしているので世話人が支えようとする。

「不要!」と怒鳴られた。ダナムの目は荒んでいた。


 世話人はおろおろしながらダナムを連れて行く。

 ラジットがハルヒを見る。

「儂は支えてくれてかまわんぞ。足腰が弱いからの」


 ラジットはハルヒに触れたがっていた。

 ハルヒが謝る。

「私はリシュールさんの担当です」


 ラジットの担当は入ったばかりの若い男だった。ラジットは露骨にがっかりした。

 男の世話人に付き添われ、ラジットは家に向かう。


 最後にハルヒがリシュールの車椅子を押していった。

 リシュールは「あー」「うー」としか言わない。


 目の焦点も合わず、口からは涎が垂れていた。

 入村の顔合わせは終わった。さて、どうなるか。


 三日後、女性の世話人が青い顔をして庄屋の家に飛んできた。

「大変です。ダナムさんが酒場で暴れています」


 ダナムはロシェより強いとの話、相手のお年寄りが危険だった。

「すぐにロシェさんを酒場に呼んできて」


 一人では危険なので、ママルと一緒に酒場に行く。

 すると、ダナムが膝をついていた。


 相手はダナムと同じくらいの大柄の老人。

 名前は知っている。チョモ爺だ。


 チョモ爺は図体ばかり大きいだけの、ただの百姓のはず。

 だが、ダナムに勝っていた。


 これは嬉しい誤算だな。村にはこんなに強い人材がいたんだ。

 チョモ爺は不機嫌そうにダナムを見下ろしていた。


 ダナムはふらふらと立ちあがる。

「俺はまだやれるぞ」


 明らかにダナムには酔いが回っている。

 背筋をぴんと伸ばしたチョモ爺には勝てそうにはない。


「やめい」と怒声がする。声の方向にはロシェがいた

 ロシェは大股で近づくと、ダナムをぶん殴った。

 躱しそこなってダナムは転倒した。


「このうつけが」

 先輩軍人らしい制裁だった。


 ロシェの強烈な一撃が入ったにも関わらず、ダナムは立ち上がった。

 厳しい顔のママルが近寄る。


 ママルを払いのけようとしたダナムはそのまま一回転。見事に投げ飛ばされた。

 ママルが微笑む。

「若いの、まだやるかい」


 酔っ払いのダナムだが、分の悪さは理解したようだ。

「やめておく、一日に三回も負けた。今日は厄日だ」


 ダナムが出て行くと、ロシェがチョモ爺に謝る。

「儂の後輩が迷惑をかけた」


 チョモ爺は気にしていなかった。

「酒場の喧嘩なんて珍しくもないさ」

「許してくれると助かる」


 その場は収まった。

 次の日、世話人がまた血相を変えて飛び込んでくる。

「ダナムさんが兵舎に向いました」


 ロシェに仕返しする気か、ママルを連れて兵舎に向かった。

 兵舎ではロシェと共に訓練をするダナムの姿があった。


 ママルが鼻で笑う。

「日に三度も負けたのがよっぽど悔しかったのでしょうな」


 ダナムの顔には村に来た時の荒んだ目はなかった。

 ママルがにこりとユウトを見た。

「それぐらい負けん気が強くないと男は強くなれん」


 ダナムの性格に問題はある。だが、これからは大丈夫な気がした。

 家に帰ると、ラジットが訪ねてきた。


 ラジットがにこにこした顔で頼む。

「庄屋殿にお願いがあってきた。役料を上げてくれ」


 まさか四日で賃上げ要求がくるとは思わなかった。

 役料は村で暮らすには困らないだけ渡している。


 だが、いきなり断るのも芸がない。

 カクメイのように村の未来を見据えての頼みかもしれない。

「なにか必要なものがあるんですか」


 ラジットは素っ気なく言った。

「八人で暮らすには収入が足りない」


 ラジットは妻を亡くして独り身だ。身内はいない。

「どういう意味ですか?」

「もう一度、結婚したい。結婚するからには子供もほしい。じゃから足りん」


 面食らった。いくつになっても恋愛は自由だけどさあ。

 いきなり、いない子供の手当てまで求められても困るよ。

「いまからお子さんを六人も作られるおつもりですか?」


 ラジットがあっけらかんと答える。

「子供は六人もいらん。妻が一人、妾が二人、子供は四人で充分」


 まさか、妾の分まで要求されるとは思わなんだ。

「国家功労者でしょう。国から退職金は出てますよね?」


 ラジットは恥らうことなく語る。

「女に貢いだらすっかりなくなった」


 無一文になって捨てられて村に来たのか。

 ある意味一番どうしようもない年寄かもしれない。


「でもいきなりの増額は無理です」

「わかった、なら役に立ったら払ってくれ」


 随分と強気な発言だな。

「いいですよ。いつになるかわかりませんけど」


 ラジットは意味あり気に笑った。

「いや、ここは場所が良い。儂はすぐに役に立つぞ」


 なんだ、この地の情勢を知っているのか。

 そんなわけはない。現地にいる俺だってよくわからないんだ。


 外から来たラジットには容易に把握できまい。

 ラジットが帰るとハルヒがやってくる。


 ハルヒは困った顔をして頼んだ。

「庄屋様、お願いがあります。リシュールさんに薬を買ってくれませんか」


 実際に会ったが、リシュールの状態は酷い。薬でよくなるとは思えなかった。

 でもいきなり拒絶はしたくはない。ハルヒとの関係は大事だ。


「おいくらですか?」

 ハルヒが告げた額は高額だった。


 リシュールに払う役料の三年分にもなる。

 一般的な常識論でお茶を濁す。

「特定の村人だけに高い薬を買い与えるのも、ちょっとねえ」


 ハルヒは悲しみを帯びた顔で頼み込む。

「お願いです。パメラさんの診立てでは薬さえあれば治るんです」


 リシュールは脳をやられている。普通なら信用できん。

 だが、パメラは腕の良い治療術師だ。信用してもいいか。


 このまま役に立たないより、投資して役立ってくれるほうに賭けよう。

 それに、金なら密貿易でじゃんじゃん入ってくる。


 人材発掘費用と思えば安い。

「パメラさんとハルヒを信じるよ。薬の代金はこっちに回して」


 ハルヒはとても喜んだ。

「ありがとうございます。庄屋様」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 老人を活かすっていう能力は目新しくて面白く感じています。 [気になる点] 今のところ、ハルヒが単に要求だけをするキャラにしか思えなくて、残念。
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