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第二十九話 変わる情勢

 火竜撃退に協力した褒美が出た。褒美は金ではなく、火竜の亡骸だった。

 きちんと処理をすれば、火竜の肉は喰える。鱗や骨は武器や防具の素材になる。


 幸い元解体屋と武具職人の老人がいたので、下処理は終えていた。

 元解体屋と職人がいなければ、褒美と称してゴミを押し付けられるところだった。


 砦に物資を運ぶ輜重隊が頻繁に村を通る。職業訓練所にも人がやってくる。

 寺院に名僧ありとなると、修行僧もやってくる。人が来れば物が売れる。

 村は姥捨て村から発展の兆しをみせていた。


 だが、村を支えるのはお年寄りである事実をユウトは忘れない。

 墓地は綺麗にして、世話人の数を揃えた。

 情勢が不穏になったので、定着してもらうために世話人の給金も上げた。


 人が増えたことにより食料自給率は落ちた。だが、近隣の村が農村なので問題はない。

 近隣の村はユウトの村が小麦や野菜を買うことで、現金収入が増えたと喜んだ。


 ユウトの村は着実に大きくなっていた。

 ヨアヒムがやってきた。ヨアヒムは上機嫌だった。


「義理弟よ。俺はついに領地持ちに返り咲いたぞ」

 本音をいえば代官をやって便宜を図っていてほしかった。


 だが、領地持ちになるのが夢だった以上、本音はしまい込んでおく。

「それで、どこの村ですか」

「ここの北東の村だよ」


 そこは他の領主の領地だったはず。

「転封だよ。この地一帯、十五村は我らが領主様のものとなった」


 まだ、情報はまわっていないから、内示だな。中央も地盤を固めるのに忙しいのか。

 ここは東の僻地だが、十五村を合わせると人口は一万人を超える。


 生産力なら三万石クラス。江戸時代ならぎりぎりの城持ち大名。

 総督の軍が東の砦にいても、この地の庄屋としては領主の格に不安になる。


「義理兄さん、気を付けたほうがいいですよ。ここより東に不穏な動きがあります」

 ヨアヒムは全く気にしていなかった。

「政情不安おおいに結構。手柄を立てるチャンスだ」


 ユウトは心配だったが、ヨアヒムがやる気だったので黙っておいた。

 廻状がきた。領主は転封で与えられた十五村のうち八村を家臣の騎士に与えた。


 残り七村は三人の代官で管理する。

 八村を与えられた騎士の中にはきちんとヨアヒムの名があった。


 村を与えられた騎士の中にはエリナの名もあったので出世していた。

 新代官がやってきた。新代官は女性だった。名前はミラ。年齢は三十くらい。


 髪は黒く肌が白い。南方系と旧住民のハーフだと思われた。

 ミラの表情は沈んでおり目の下には隈がある。


「お疲れですか」

 ミラがむっとした顔で答える。

「こういう顔です。老けていて悪かったですね」


 見た感じ陽気な性格ではなかった。ちょっと問題があるかもしれないね。

 ミラは数字には強かった。帳簿をさっと見ただけで村の現状を把握した。


「庄屋殿は経営の才がおありのようだ。収支が着実に改善している」

 褒められて悪い気はしない。


「ありがとうございます」

「では、もっと税を納めてください」


 ミラの言葉に凍り付いた。

 代官ってこんな人ばかりだよな。お金があるとすぐに持って行く。


 ミラが告げた額は村の余剰金の七割にも達した。

 多額の臨時課税に抗議する。

「重すぎるでしょう。何かあったときに対処できません」


 ミラはつんとした顔で突っ撥ねた。

「領主様は城を建造します。この村は人を出せないのでお金を出してください」


 初めて聞く計画だった。

「築城? どこにですか」


 ミラは南西の果ての村の名を告げる。城は東の盆地と街を繋ぐ要衝にあった。

 村々がある盆地から街に出て行くための街道は二本。そのうち、北西の果てには古城がある。

 南西に城が完成すれば、古城と新城を閉ざす対応で盆地を孤立させられる。


 新城を建設すれば極東の国が東を平定しても中央へ進む軍の防壁となる。

 皇帝は極東の国がこの盆地を平定するとでも思っているのか。


 城の建設は嬉しくない。城が役に立つ時はユウトの村は戦火の真っただ中だ。

 村の防衛に役に立たない施設に税金をごっそりもっていかれるのは辛いな。


 ミラはにたにたと不気味に笑う。

「城持ちになることは領主様の夢です」


 偉い人の夢に村人の金を持っていかれるのか。

 こういう時に逆らえないのが被支配者層なんだよな。


 ミラは金を持って気分よく帰っていった。

 国宝の切り売りにも限界ある。ヨアヒムなら裏金を作っても目を瞑ってくれた。


 でも、ミラはダメだな。きっとめざとく見つけて根こそぎ持って行く。

 問題は立て続けに起こるもの。ミラが帰った翌日にハルヒがやってくる。


 ハルヒは動揺していた。

「庄屋様、取引を望む商人が来ています」


 別に珍しい状況ではなかった。

「何か問題でも」

「それが、その、背中に羽が生えた商人です」


 東の山の民か、それとも極東の国の異種族人か。どっちにしろ初めてのお客だ。

「俺が対応しよう」


 村の門の入口に行く。相手は細身の若者だった。髪は白く、肌も白い。

 ただ、羽だけは対照的に黒かった。

 服装は旅商人とは変わらない。目には風よけのゴーグルを掛けている。


 背中に商品が入っているのか、大きな背嚢を背負っていた。

 バード・マンと呼ばれる種族だった。バード・マンは微笑み語る。


「旅商人のホークです。今日は商売でこの村に来ました」

「手を見せてもらえますか?」


 ホークが手を差し出すと、弓を扱うタコがあった。

「商人にしては荒れた手ですね。まるで弓兵のようだ」


 ユウトの言葉に兵士とハルヒの顔が変わる。

 ホークは気にしない。


「旅は危険が多いので、弓の訓練が欠かせないのです」

 嘘だな、こいつは山の民の兵士だ。


 肝の据わった男だな。

「それで何を売りに来たんですか」

「売りにではなく買いにきました。メアリを売ってください」

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