第二十四話 龍の脅威
寒さが和らいでくる頃に代官と庄屋の親睦会が行われる。
去年まではなかったイベントだった。親睦会との名目だが実情は違う。
去年は近隣の村が結集した大きな反乱があった。
反乱の防止を目的にした領主たちが提案した集まりである。
領主は出てこない、だが、十二の村を支配する四代官と十二人の庄屋が集まる。
親睦会の会場は反乱に参加しなかったユウトの村になった。
参加した庄屋の中ではユウトが最年少。しかし、会場となった村の庄屋ということもあり、筆頭庄屋として扱われることとなった。
エリナも四代官の一人として参加していた。エリナも代官の中では最年少。
歳は若いが、開催した村の代官なのでエリナは大きな顔ができる。
互いに知り合いなのか、代官たちは和気藹々としていた。
対照的にユウト以外の庄屋は委縮していた。
気まずいなと思う。
それでも、ユウトは接待役として代官と庄屋の話を弾ませる努力をした。
ユウトの努力と料理の美味さもあり、話が統治の話題に及ぶ。
代官たちの話によると、帝国は快進撃を続けており、領土の拡大は続いている。
だが、恩賞として与える土地は不足しており、開墾が目下の急務であった。
ユウトたちが暮らす地域にはまだ開発の余地がある。
だが、水が少ない。生産力が高い土地は限られていた。
宴も終わりに近づく。
ユウトの村の東にある村の庄屋が暗い顔で発言する。
「実は山の様子がおかしいのです。なにやら異変が起きているようです」
担当地域の黒髭の代官があまり気にした様子もなく尋ねる。
「天変地異の前触れか?」
東の庄屋が首を横に振る。
「自然災害じゃありません。山のモンスターが騒がしいんです」
白髭の代官が笑った。
「モンスター共が山を降りて村を襲った過去はここ百年の中でも記録にないぞ」
ユウトは気になった。
百年前なら前のオーバー・ロードが誕生したくらいの年代だな。
ひょっとして、オーバー・ロードが誕生するたびにこの地は荒れるのか。
嫌な予感がしたので、提案しておく。
「現地でしかわからない情報もあります。ここは東の村に兵を置いてはどうでしょう」
東の村を預かっている黒髭の代官は馬鹿にして笑う。
「僻地に兵を置くだけ無駄だ。そんな兵があるなら戦に連れて行くべきだ」
黒髭の代官の言葉に、東の庄屋は落胆していた。
北東の村も南東の村の庄屋も表情は暗かった。
結局、そのまま親睦会は終わった。
翌朝、駐屯軍に金を払って馬を三頭買った。
ユウトは東の三村の庄屋に脚の速い馬を贈った。
「我ら庄屋は助け合わねばなりません。この馬を早馬としてお使いください」
馬を贈られた三人の庄屋はユウトに感謝した。
「ありがとうございます。ユウト殿。しかと受け取りました」
東の三村の庄屋は馬に乗って帰っていった。
これで異変があってもすぐにわかる。
異変がわからず、次々と村を落とされれば、困るのは俺だ。
東の三村からユウトの村まで馬で半日。朝に出れば夜には着く。
親睦会が終わって五日後、渋い顔のロシェがやってきた。
「庄屋殿に売った馬だが、今朝になって馬だけが厩舎に帰ってきた」
馬の特徴から東の村に送った馬に間違いなかった。
「馬が村から逃げ出した可能性はないですか?」
「その可能性もあるが、念のため若い者を派遣して様子を見に行かせておる」
「詳しい情報がわかるまでは、用心をお願いします」
嫌な予感がする。もやもやした気持ちで待っていると、夕方に一報が入る。
ロシェの遣いの兵は厳しい顔で告げる。
「隣村が凍っております。生存者はゼロです」
冬が終わる時期だぞ。東の村はユウトの村より寒い。
だが、村全体が凍り付くなんて明らかに異常だ。
「厳重警戒態勢をお願いします」
翌朝はいつにもまして冷え込んだ。
冬はピークを過ぎた。たまたま、寒気が居座ったならいい。けど、違うんだろうな。
食器を洗うのも一苦労だった。ハルヒたちは村の洗い場の湯を使っていた。
給湯器は高かったけど、買っておいて正解だったな。
銅鑼が激しく鳴り響く、何事かと二階の窓から外を見る。
真っ白な大きな物体が村にむかってきていた。
相手が近づくにつれて周りの気温がどんどんと下がって行く。
白い物体の正体は、大きな白い毛で全身を覆った空飛ぶ蛸のような生き物だった。
蛸の全長は三十mほどあった。蛸が村から五十mにまで近づく。
なんだあれは、と思っていると蛸が大きく息を吸い込んだ。
蛸が息を吐くと猛烈な冷気が噴き出される。
弱い柵は一撃で吹き飛んだ
「放て!」合図とともに矢が飛ぶ。だが、蛸には効いていなかった。
まずいぞ。一方的にやられる。
武僧の集団が大八車を押してやってきた。
大八車の上には重さ八㎏の鉄球が積まれている。
鉄球には紐が付いている。投擲用のハンマーか。
「はじめ」とママルが号令をかける。
武僧たちがハンマー投げの要領で振り回して投げる。
ハンマーが蛸に命中する。
投げた武僧のハンマーが蛸に当たった。
「破ッ」武僧が気合を入れる。
武僧の掛け声とともに、ハンマーが爆発する。
蛸に無数のハンマーが降り注ぎ、次々と爆発が起きる。
ダメージのほどはわからない。蛸は驚いていた。
蛸の上空に直径十mの魔法陣が展開する。
魔法陣から大きな火の玉が現れ、蛸の頭を直撃した。
蛸の頭の上でさらなる大爆発が起きる。蛸の頭から蒸気が立ち昇った。
蛸は慌てふためき、反転して逃げた。
防衛はなんとか成功した。だが、倒しきれなかった。
蛸は予期せぬ反撃に驚いたに過ぎない。
本気で村を落とす気なら危なかった。
蛸の息吹によって凍傷を負った人もいた。パメラが先頭に立ち温泉療法を試みる。
温泉はすぐに満員になった。
ユウトの家にカクメイがやってくる。
カクメイの顔に動揺はない。
「庄屋殿、今度は龍が相手ですな」
ユウトは驚いた。
「蛸にしか見えませんでしたよ」
「雪山龍と呼ばれるれっきとした龍です。もっとも儂も書物の中でしか見たことがなかった」
「伝説の龍…。次はドラゴン・テイマーが相手か」
カクメイが認める。
「おそらくは」
「雪山龍はドラゴン・テイマーに操られているんですか」
「いえ、『竜』を操れても『龍』を操るのは不可能です。誘導しただけでしょう」
雪山龍は是が非でも村を落としたい様子ではなかった。
「操れなくても、あの規模なら通り道になっただけで村は終わりますね」
「相手が龍ならば勝つのは難しいかもしれません」
カクメイが弱気になった。これ、まずいぞ。




