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第二百二十回目 家族の形

 何事もなく夜になる。付き添いの人と警備の人間はいるが、気が弛んでいる。庄屋が殺されても庄屋のせいなので気持ちはわかる。


 マタイはフラリと出ていった。トイレかと思ったが、帰らないので仕事に行った。


 夜が更けると、人々の喧騒も消えていく。暇ではあるが暗殺者にばれる前提だからといって、あからさまな行動は取れない。マタイが残していった瓶に残った酒を飲んで寝る。


「明日も仕事がある。夜遅くまで起きていてはいけない」

 このまま寝たら目が覚めないのではないか、との不安はない。また忙しい日々が始まる。


 夜中にバタバタと音がした。眠気が酷く起きるのが辛い。少しすると止んだ。目を閉じてそのまま眠る。朝になったがユウトは生きていた。


「何かがあったようだが、誰も教えてくれないな」

 寝ているユウトを起こしてはいけないと考える優しい人間はここに誰もはいない。


 何かあれば情報共有はしてほしいところだ。部屋に食事を侍従長が持ってきた。パンとスープの軽食だ。侍従長のほうが良い物を喰っている気がするが、口には出さない。


 食事を運んだ侍従長が何も言わずに出て行こうとするので止める。

「昨日の夜に何か音がしましたが、何かありましたか?」


「皆、寝ていましたからな。何かあったのかもしれませんが、何があったかわかりません」


 完全なリラックス・モードだ。偉い人に同伴する旅は疲れる。休める時は皆で休もうの体制だ。街に全幅の信頼を置いていると、いい方向に考えておく。


 朝食を終えてしばらくすると、フブキがやってくる。次いで侍従長も来る。


 侍従長は真っ先にフブキに尋ねる。

「暗殺者の件はどうなりました? 始末できましたか?」


「対策責任者の話ですと成功です。マタイは罠に掛かったから回収してくると屋敷を出ました」


 暗殺者まだ生きています。捕り物中です、が本当かもしれない。だが、正直に侍従長に言うと嫌な顔をされるので、気を使った言い回しだ。


 侍従長に深入りさせないためにユウトが切り上げる。

「遊興は今日もあります。さっそく屋敷に戻りましょう」


 屋敷に行くと、パルテイーヤ、ダイダ、バルジットが出てくる。


 社交辞令的にユウトは詫びる。

「古く狭い場所で申し訳ない。食事も満足に出せたか不安でした」


 偉い人であるパルテイーヤは遠慮がない。澄ました顔で告げる。


「本当に古くて狭い部屋ですが、息子たちがいたので我慢できました。武僧料理に豪華さはないですが、たまの朝食にはいいでしょう」


 朝日を浴びるために厩舎からキリンが出てくる。バルジットが目を輝かせた。

「本当だキリンがいる」


 バルジットがキリンに触れようとするとキリンが嫌がる。


 ダイダが弟のバルジットに注意する。

「それではダメだ。キリンに乗りたくば三度平伏して許しを願え」


 ダイダの言葉にバルジットがキョトンとする。

「僕が頭を下げるの?」


 ダイダが兄らしく言い聞かせる。


「キリンに頭を下げるのは恥ではない。皇帝陛下も友となるキリンに乗るためにやったのだ。お爺様がやったのに、お前がやらないと不敬と噂されるぞ」


 バルジットは教えられた通りに三度平伏した。パルテイーヤは前回と同様に息子が頭を下げる様子を面白くなさそうに見ている。キリンがユウトをジッと見たので、ユウトはキリンを拝んだ。


 キリンが背に乗せてくれそうになったが、バルジットは止まった。

「やっぱり止めておくよ。キリンの背に乗れたのは兄様だけで充分だ」


 ダイダとバルジットの入れ替わりは昨日の夜に終わり戻った。

 家族の中で関係が変化した。


 ダイダがバルジットを不思議そうに見つめる。

「なぜだ? 俺がいいならお前も乗っていいだろう」


 穏やかな顔でバルジットは静かに語る。


「僕たちは兄弟だ。仲の良い兄弟だよ。でも、目下の弟が兄を敬う態度を変えちゃいけない。それが皇帝陛下の血を引く者としての義務だよ」


 バルジットが家族の中でどう振舞うか答えを出した。

 ダイダは意外そうだが、パルテイーヤがそっとダイダに告げる。


「貴方もお兄ちゃんなら、弟の好意を無駄にしないで、理解してあげて。貴方たち兄弟がずっと仲良くしていくためには必要な礼儀なのよ」


 少しばかりダイダが肩を落とす。

「全ては俺たち親子三人が仲良く暮らすために必要な礼儀なんだな」


 親子三人の間の距離が掴めた。家族間の距離は皇帝の一族として生きていく上での必要な知恵だ。

 ダイダがバルジットに告げる。


「キリンに乗れたのは僕だ。バルジットは乗らなくてもいい。でも、俺はお前の兄だ。困ったことがあれば相談しろ。助けもする」


 兄弟が皆に平等に扱われる危険性をダイダは小さくても理解した。


 下手に同列にすれば、後継者争いが起きる。そうなれば、お互いに嫌な想いをするだけでなく、殺し合いにもなる。母親のパルテイーヤも苦しむ。権力者の一族ならではの礼節だ。


 ユウトの傍にセンベイが寄る。センベイはそっとユウトに耳打ちする。

「暗殺者の死体がゴミ捨て場で発見されました。第一発見者はマタイ殿です」


 暗殺の危険はなくなった。暗殺者の死は遊興を楽しんでいる一家には教えなくていい。

「あとで侍従長にだけそれとなく教えてやれ」


 確認する術はないが、今回始末された暗殺者と去年殺された暗殺者の関係が気になる。ユウトは二人を相棒だと思っていたが、もしかして兄弟だったのではないかと感じた。


 光の内に生きる兄弟と闇に生きた兄弟。権力者と犯罪者の違いは大きい。心の内は大差がなかったのかもしれない。


「エンリコ兄さんとしばらく会っていないな、手紙でも書くか」


 その後、四日の逗留を終えて、お母様とお孫様の二人は帰って行った。二人はとても満足していたので、接待は終わった。


 街は新年に向けて冬に近付いてく。年明けには大イベントの第二回講和会議がある。講和会議の準備は着々と進んでいる。あまりに順調だと逆に気味が悪いが、不吉な事を口にすると本当になりそうなのが怖い。


 街が年越しに向けて浮かれるなかユウトは気を引き締めた。

【2026.1.2】今回はここまでです。別作品も書くので次回の更新は7月下旬くらいでしょうか。

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