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第二百十六回目 救世主 対 皇帝の孫

 お孫様御一行が宿に入ったので、ユウトは屋敷で対策会議を開く。

「お孫様同士の間に入れ替わりがある」


 ユウトは気にしていたが、ラジットはまるで動揺しない。

「旅先で心が弾んでいるでしょう。楽しんでいるのなら何よりです。こういう悪戯が楽しめるのも子供の特権ですな」


 フブキも同じような考えだった。

「身分の高い方は色々と考えられますね。こういう類いはこちらが気を使うと返って不機嫌になります。その点は注意が必要ですかね」


 対策に当たる二人が自然に態度だと、慌てる自分が間違っている気がしてくる。

「接待上問題ないのか?」


 ラジットがサラっと確認する。

「お母上様、お二人のお孫様、誰もが楽しんでもらうなら影響ないでしょう。庄屋様は身分や立場上、誰を優先的に喜ばせたいとかありますか? あるなら事前に教えてください」


 ご逗留のご家族三人に分け隔てなく楽しんでもらいたい。

 フブキもラジットと同じように動じていない。


「全員無事にお帰りいただく。ならば、別にお孫様方がふざけて入れ替わっても問題ないでしょう。身分の高い方の御遊興は予定外の行動をするのが普通です」


 会談や訪問はスケジュールが重視だが、遊びなら予定外の事をする。


 要人の警備をしてきたフブキが言うのなら、マオ帝国では普通だ。ラジットやフブキの言っている内容はもっともな話でもある。 


 こうなると、秘密に気付いて狼狽えているのは、接待役の庄屋だけの気がしてきた。

「悪い。なんか俺だけ舞い上がっていた」


「わかればいいです」とラジットとフブキにシレっと言われた。


 フブキから報告がある。

「暗殺者ですが、どうも母上様かお孫様のどちらかを狙っているようです」


 誰が殺されても困る。ユウトが殺されなくても、失脚に繋がる。

「対策はあるのか?」


「警備はしていますが、万全ではありません。ですが、暗殺者側も困っていると思いますよ」


 予定より早く来たのだから、早く帰る可能性もある。待ち伏せしようとしても、気分で行き先を変更する。お孫様のどちらかがターゲットだったらもっと状況は悪い。ターゲットは思いつきで入れ替わる。


 守る方も殺す方も、予定通りにならず苛々する。対応力の勝負なら暗殺者に庄屋が負ける気はしない、負けてもいけない。日々、予定外の事に振り回されてるのが庄屋業だ。


 朝になった。本来の予定では竜舎に行って、午後から舞台を見学の予定だ。竜舎にはもういったので、これはキャンセルだ。舞台鑑賞は午後から始まるので時間が空いた。


 朝食後、ダイダから依頼があった。

「昨日、街の人間に噂を聞いた。この街に救世主が現れたそうだな」


 誰の事を言っているかわかるが、「それ私です」と名乗るのは危険だ。

「似たような話は聞いております。東の地は不安定な場所。救世主誕生を望む民衆の声から出たのでしょう」


「救世主は皇帝より偉いのか? だとしたら会って勝負をしてみたい」


 予想しない展開が来た。まず重要な事実だけを認める。

「この世に皇帝陛下より素晴らしい人はいないでしょう」


「なぜ、お前にわかる。お前は救世主ではないだろう」


 ピンと来た。ダイダは昨日、入れ替わりを見抜いた件でやり返したい。ユウトが救世主を知らない振りをしたので正体を暴きにきた。


 正体が露見するようにして、参りましたと、するのは簡単だ。それではいけない。見え見えの接待勝負と同じだ。逆に相手を怒らせる。


「救世主が見つかったとしましょう。それでどんな勝負を挑むのですか?」

「剣術はどうだろう?」


「どうだ」ではなく「どうだろう」と尋ねている。剣術勝負ならユウトが強くても負けるしかない。ダイダもそれがわかっているから、ユウトがどう反応するか試している。


 剣術勝負なら、勝っても負けても庄屋としては敗北。勝負を避ける選択肢を提示する。


「剣の力なしに世が治まらないのは事実。世に偉大な皇帝がいるので剣は充分に足りていると救世主は感じているでしょう。救世主は剣を学ばないから剣は苦手でしょう」


 バルジットが口を出す。

「救世主の得意な事はなんですか? 金儲けか? 人を従える力か? それとも知恵か?」


 お孫様方はユウトをやり込めて勝ちたいと考えている。勝負内容はユウトに任せてくれる。ただ、確実にどちらが勝つ、どちらが負けるとわかる勝負はダメだ。


 勝つか負けるかわからない勝負をする。その上で全力でやり負けるのが庄屋としての最良。


 偉い人とは困ったものだ。お孫様と勝負するのはいいが、パルテイーヤの考えもおろそかにできない。パルテイーヤはお孫様を微笑ましく眺めている。これは下手に勝てばパルテイーヤの機嫌を損ねる。


 ユウトが困っているとラジットから提案があった。


「救世主なる者が本当にいるかどうかわかりません。ですが、ダイダ様とバルジット様のお気持ちはわかります。でしたら、街にいる人に皇帝と救世主どちらが偉いか聞きましょう」


 ラジットの狙いがわからない。皇帝一行に「どちらが偉い?」と問われ、救世主と答える人間が街にいたら馬鹿である。仮に山の民でも極東の人間でも「皇帝」と答えないと身が危ない。


 子供とはいえバルジットも同じ考えだった。

「それでは勝負にならないぞ。皆が皇帝陛下と答える」


「こう思うと、こうだったは、違います。それでもお疑いなら、私と勝負しましょう。四人の人間について、皇帝陛下より救世主が偉いという人間が一人でもいれば私の勝ちです」


 ダイダが挑戦的な顔で尋ねる。

「ラジットが誤っていたらどうする」


「その時は私が過ちを認め、何でも一つ願いを聞きましょう」


 ダイダはやる気を見せたが、バルジットが慌てて止める。

「兄様、これは罠だ。ラジットはする賢い。何か企んでいるぞ」


 バルジットの中身はダイダだ。ラジットはダイダの家庭教師だった。ラジットの性格とやり口を知っているから、何かを仕組んでいると警戒している。


 ユウトだって同じ考えを持つ。ラジットは何かイカサマをする。だが、問題は勝っても次の難題がやってくるだけ。ラジットの策が読めない。ラジットがニコっとすると、ダイダはやる気になっていた。

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