第二百十四回目 お母様とお孫様
フブキを中心にお孫様の警備対策チームを作る。お孫様とお母様に面識があるラジットにも入ってもらった。
お母様は気位が高く身分の低い者には当たりが強い。また、権威や評判を気にする。お孫様の元家庭教師で宮廷にいたラジットなら権威と名声があるので物が言える。
リシュールも宮廷にいたのでお母様に意見をいえる。だが、年明けには非農業部門での申告と徴税がある。総責任者であるリシュールはよほどの事がない限り動かしたくない。
その点、ラジットは決まった仕事がないので頼める。
訪問日程が早まった件に関して、フブキの表情は苦い。
「予定が狂いましたが、対応するしかない。冒険者は腕は立つが、マナーまで修得している者は少ない。その点を考慮して人員を配置します」
暗殺は絶対阻止したいが、だからといって接待相手を怒らせても失敗である。
「要人警護の経験はありますか?」
「ありますよ。痛いくらい経験しましたから」
苦労があったとわかる言葉だ。剣で倒せる敵より、剣で倒せない味方のほうが厄介だ。との想いが伝わってくる。
偉い人のお出迎えなので、小雪がちらつくが整列して待機する。駐屯軍にも訪問日程が早まる知らせがいっているはずだったが、門衛はユウトのたちの姿を見て驚いていた。
「庄屋様、大勢を引き連れてどちらかに遠出ですか?」
駐屯軍の指揮命令系統が上手くいっていない。表面的には平常運転だが、内部はまだ混乱している。門衛には一声掛けておく。
「聞いておりませんか? お孫様の訪問日が早まったのです」
門衛は目を見開いて、集まり相談する。誰もが「聞いていないぞ」の狼狽えようだ。
そうしているうちに、要人が乗る空飛ぶ黒い車が到着する。門衛も取り繕って整列してお出迎えする。
お母様であるパルテイーヤは少し疲れた感じが見える。
パルテイーヤの第一声は不満のこもったものだった。
「寒いわ。こんなところの何がいいのかしら?」
宮殿は南にありパルテイーヤも温かい地方の出身だ。寒さは辛い。サッとお付きの方がコートを掛ける。
皇帝のお孫様であり、パルテイーヤの息子のダイダが車から飛び出してくる。ダイダは元気ハツラツだ。子供は成長が早い。前に見た時はおっとりしていたが、雰囲気が随分と明るくなった。
「お母様、雪だ。雪が降っている」
コートを羽織っても不満があったお母様だったが、息子の笑顔にはニコリとする。
「良かったわね。遊びにきて正解だわ」
お母様は来たくはなかったが、子供が喜ぶならと我慢している。
車からもう一人子供が下りてくる。こちらはダイダより少し幼い。
「ダイダ兄様、雪が見たいなら窓から見ればいい。寒いのは好きではありません」
パルテイーヤの子供はダイダ一人のはず? ではもう一人のお子様はどなた?
ユウトの疑問にラジットが教えてくれる。
「ダイダ様のお母様であるパルテイーヤ様には妹君がおりました。妹君は亡くなりましたが、一人息子であるバルジット様が残りました。姉であったパルテイーヤ様が遺児を預かり息子として育てています」
皇帝一家だから妻も複数おり子供も何人もいる。家庭環境が複雑になるのもわかる。
パルテイーヤの態度からバルジットとは距離を感じる。どうも親子関係は上手くいっていない。気持ちはわかる。弟のバルジットは妹の子で、兄のダイダは実の子だ。パルテイーヤは実の子が可愛いのだろう。
ユウトはまずはゆっくりして貰おうと宿に案内しようとした。
「旅のお疲れもありましょう。まずは温まってください。宿にご案内します」
「そうするわ」とパテイーヤが答えるが、ダイダは違った。
「俺は氷竜が見たい。俺の竜だ」
お母様はガクッとなってから命じる。
「竜舎へ連れて行って」
休みたかったオーラがパルテイーヤから出ているので、ユウトは気を回した。
「お母様は宿にお連れしましょうか?」
ユウトの申し出をパテイーヤは頑と拒否した。
「いいえ、私も竜舎に行きます。息子に何かあったら困ります」
過保護ぶりは変わっていない。宿で息子が見えない状況にあるより、寒くても辛くても息子が見えたほうが安心なのか。
別々に行動されるより警備は楽だが、お母様の目があると対応に気を使う。
「僕は宿でいいかな」と控えめにバルジットが言うと、ダイダが否定した。
「ダメだ、先に竜を一緒に見に行こう。バルジットも兄に付き合え」
諦めた顔でバルジットは意見を変えた。
「兄様の勧めなら僕も行きたい」
竜舎に行くとコタロウが応対する。ダイダは大きくなった氷竜を見て喜んだ。
「少し見ない間に随分と大きくなった。これなら空を飛べるな」
ダイダが氷竜に近付く。氷竜が齧りはしないかと不安に思ったのか、パルテイーヤの顔も険しくなる。氷竜はそっとダイダに顔を寄せる。襲う気配はない。
ダイダは氷竜を撫でると氷竜も気持ち良さそうにする。
「よしもう乗れるだろう。氷竜を飛ばそう」
パルテイーヤの顔が嫌悪を示す。
「危険だから止めなさい。落ちたらどうするんです」
止められるとダイダはムキになった
「嫌だ。氷竜に乗る」
どうしようかと、お付きの人の顔を見ると、ユウトからソッと顔を背けた。
いつまでも可愛い子供を心配する母。成長するにつれ自己主張が強くなる子供。どこの家庭にもある状況である。であるなら、お付きの人も対処が可能なはず。ユウトはお付きの人間の対応に違和感を持った。
竜舎内で言い争いになる前にコタロウが口を挟んだ。
「ダイダ様の氷竜は気性が穏やかです。訓練もされているので、竜士の私が一緒なら安全ですよ」
パルテイーヤはカッとコタロウを見るが、ダイダは止まらない。
「竜士よ竜に乗るぞ。バルジットも乗れ」
バルジットはビクッとした。明らかに予想外の展開だった。
「なんだ怖いのか、臆病だな」と、ダイダがバルジットを揶揄う。
煽られたバルジットがムキになって言い返した。
「別に怖くなどありません」
「じゃあ決まりだな、一緒に空の上に行こう」とダイダはニコっとする。
バルジットも氷竜に乗る経緯になったが、パルテイーヤは止めない。だが、バルジットはどうなってもいいというようには見えない。
三人のありようを見てユウトはこの時なんとなく理解した。パルテイーヤはバルジットが嫌いなわけではない。母親なのだが、遠慮がある。実の母を亡くしたバルジットもパルテイーヤとの間に壁を作っている。
ユウトは確認のためにパルテイーヤに話し掛ける。
「安全なのですからお母様も氷竜に乗られますか? ご家族の旅の想い出になりますよ」
「私はいいわ。こういうのは男の子だけのほうが楽しめるでしょ」
嫌いで乗らないのではない。自分が参加すると息子たちが楽しめないから、乗らない。
ダイダはパルテイーヤとバルジットの関係を知って、どうにか仲を取り持ちたいのではないか?
ダイダは子供だが子供なりに苦労をしている。複雑な親子関係に他人が入る余地はない。せめて東の地での逗留中は楽しんでもらいたいとユウトは願った。プランは状況に応じて変更していく必要がある。




