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第二百八回目 やることが尽きない

 今年の秋は短かった。夏の暑さが終わったら急に寒くなった。秋になったと思ったら、早くに初雪が降る。早い初雪はすぐに融けたがもう冬はそこまで来ている。


 サイメイが定期報告に来る。

「銀山からの報告です。アイアン・アントは見かけなくなりました。ゴブリン隊の姿も見えません」


 アイアン・アントは大きくても虫である。全滅しなくても、冬になれば外に出ない。ゴブリン隊もヤマンとカワンの実力を知り、無用な手出しを避けた。


 それでも密貿易品は届くのだから、今のゴブリン王は図太い神経をしている。


「会談の日取りが決まりました。年明けの三日です。マオ帝国では新年の祝いの最中ですが、山の民の新年はマオ帝国の二月に当たります」


 二月に新年を祝う風習は旧王国にも昔はあった。ユウトが生まれる頃には、風習は廃れていたが、山の民の中ではまだ存在した。


「山の民は新年の祝いと勝利の祝いを一緒にやりたいのか。でも、上手くいくかな」

「軍部は作戦続行を主張。宮廷は停戦派と継戦派が二対八くらいと聞いています」


 宮廷内が反戦一色なら違うが、現状なら戦争は続行だ。


「鋼糸の生産ですが、当初の予定数量を大幅に下回っています。西の村だけ突出して多いので理由があるはずです。技術者を派遣して養蚕業の知識を得ます」


 初年度から上手くいくことはないが、西の村で成功しているのならやりようはある。


「魔法のペンですが、予想以上に売れています。お一人様いくつまでと制限をかけるほどです。高額で運びやすく、旧王都まで持って行けば利益が見込めるため人気が出ています」


 実用的な高級土産物なら売れる。問題は魔法のペンは量産できないことだな。


「名人碌の販売実績も伸びております。職人や商人の一種のステータスであり、仕事に結びつくので好評です。類似品が作れないように法整備もしました」


 嬉しい誤算だ。利益が伴い名誉欲も満たせるのだからヒットした。類似品を作られないようにするのも正解だ。言われる前にやってくれるので、サイメイには感謝したい。


「新たな懸念事項が二つあります。一つ目です。皇帝のお孫様が母上様と一緒に近々ご逗留の予定です」


 しばらく来ていなかったから、献上竜のことなんてお孫様が忘れたかと思った。来るのだから覚えている。何を要求されるかわからないから、用心が必要だ。失敗すればマオ帝国がトリーネに言いがかりをつける口実にする。


 サイメイの報告が続く。

「もう一つは水の問題です。街の発展に伴い綺麗な水が不足しています」


 頭の痛い問題だ。こちらは放置すると街の人間全部が不満を持つ。

「水問題は解決しても、何度も出るな」


 水道を深く広くすれば、山から運べる量は増える。山から流れでる水の量には限界がある。水道を大きくしたら、水位が下がったでは工事費だけが無駄になる。かといって、無暗に井戸を増やすと、地下水の枯渇に繋がる。


 水の問題は根本的な解決策がない。水が東の地の発展を妨げてきた理由である。


「人が増えれば水の利用も増えるから仕方ないな。テルマが考案した空気から水を取り出す装置を作れないかな」


 テルマの発明は軍事機密である。ユウトにしてみればボヤキにも似た言葉だった。


 サイメイが困った顔で教えてくれる。

「今なら可能でしょう。カラヤン様が仲介してもいいといっています」


「カラヤン様はおとなしくなったのか」

 孫の嫁として傍にいるサイメイはしっかりとカラヤンを見ている。


「いいえ、なんかギラギラしています。人脈を構築していますね。成り上がりをする気が満々です。何か計画もあるようです。下手に力を借りると高く付きますね」


 手を貸せと頼めば、貸す。だが、当然に見返りがいる。野望を抱いたカラヤンがすぐに死ぬのならいいが、あと二十年も生きたら大変である。


 この街で年寄りを馬鹿にしてはいけない。ユウトに老婆・ロードの力がある以上、老人はこの街では死ぬまで成長していく。


 サイメイも警戒するほどカラヤンは優秀であり、実績もある。同じ時代、同じ場所に生まれたなら、カラヤンは競いたくない人物だ。


 本来なら出遭わないはずだった。ユウトが得た老婆・ロードの力の弊害なので受け入れるしかない。

「カラヤン様とは一度合う必要があるな、年が明けたら話し合いをもとう」


 ユウトの目でも一度、カラヤンがどういう人物か確かめておく必要がある。


 サイメイの報告が続く。

「これは懸念事項ではなく。軍の動きですが、近々駐屯軍のトップがレルフ中将から別の方に変わります。レルフ中将は退役です」


 軍内部で起きた反乱は誰かが責任を取らなければいけない。処分者は複数人必要となった。ここにレルフ中将も入れられた。レルフには悪いが、慢性的人材不足のユウトにはいい話だ。水もそうだが、街が大きくなるほど優秀な人材も必要となる。


「レルフ中将には街の役人になるように接触してくれ。レルフ中将の腕なら是非にもほしい。あと、レルフ中将の後任は誰かわかっている?」


「人選で揉めていて決まっておりません」


 軍部内の権力闘争が起きている。戦争が落ち着いてきたので、武功を上げる機会はずっと少なくなっている。結果として、軍部内でポストが不足している。


 軍内部人事には口出しできない。肩書だけ立派で役に立たない人が来ない未来を祈ろう。

 サイメイが帰るとママルも報告にくる。


「神前試合の日取りが決まりました。形式は二十一人による戦いです。先に十一勝したほうが勝ちです。それで誰を出しましょう」


「実力重視でママルさんが決めてください」

「承知しました。この勝負、厳しい戦いとなることはお覚悟ください」


 天徳派にはママルの目から見ても優秀な武僧がいる。だからといって、勝負を先には伸ばせない。アモンとはここらへんで面とむかって対話しないといけない。


 神前試合が決まってもユウトは出ない。


 日々の仕事をしていると、暗い顔のコタロウがやってくる。

「申し訳ありません。体の弱い氷竜が亡くなりました」


 夏を越せたから大丈夫かと思ったが、氷竜が亡くなった。竜といえど幼いなら、竜士が見ていても亡くなる時は亡くなる。


 コタロウはユウトに方針を尋ねた。

「氷竜の亡骸はいかかがいたしましょう」


 氷竜の解体をして競りに出したいのがユウトの本音だ。街の財政は外から見れば豊かだが内情は違う。コタロウもサイメイから街の財政について聞いている。


 コタロウとしても不本意ながらの方針確認だ。コタロウの気持ちを汲んで、ユウトは命じる。


「竜士の里ではどうやって竜を葬っているのか知らない。今後の知識として埋葬の手順を残そう。竜士の里と同じ方法で葬り、記録を残してください」


 ユウトの答えを聞いてもコタロウの表情は暗いままだった。

「よろしいのですか、埋葬して。亡骸といえど買いたいと希望する者がいます」


「竜舎を預かるのはコタロウさんです。であるなら、竜舎を預かる人間として、竜に関する祭祀の記録を残すのも仕事です」


「ありがとうございます」とコタロウはホッとしていた。


 氷竜といっても、人より価値があるものではない。死ねば物と変わらない。大事なのはコタロウで物ではない、人である。街を支える人である。竜を大事にしなくても街は滅びない。昔、竜は街にはいなかった。


 人を大事にしないと、あっけないほど簡単に滅びる。竜を弔うのはコタロウへの手当だ。


 冬に向けて準備をしていると、ユウトに手紙が届いた。差出人はハーメルだった。内容は会談の申し込みだ。ハーメルの上には山の有力者である凶主がいる。山の民とマオ帝国の会談前なので、ここにきて動きが出た。


 ハーメルにはいい思いがまるでない。かといって、冷たくして下手に不興を買うのは得策ではない。ハーメルはユウトにとって不利益しかないような馬鹿な話はしない。ユウトは返書を書いて、ハーメルとの会談を決意した。

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