第二百三回目 オーガ・ロード『弟』 対 ゴブリン将軍
2025.12.16【お詫び】同じ話が二話投稿されていて見直しました。結果、投稿し忘れていた話が一話、存在していました。抜けていた『第百九十七回 第二回講和会議の前(追加)』を割込みの形で投稿しました。
キリンが向かった先から戦闘音が聞こえてくる。逃げたはずのゴブリン隊とカワンが河原で戦っていた。ゴブリン隊は逃げる途中で渡河に手間取っていた。河を挟んで二手に分断されている状況だ。
結果、まだ河を渡っていない集団が後から来たカワンに追い付かれた。
「地の利だな。ゴブリンたちはこの辺りに来てキャンプを張って間もない。カワンは銀山にいて付近を歩いていたから、道に詳しいから差が詰まった」
ゴブリン隊も粗末ながらも革の鎧を着て、武器を手にしている。カワンもまた木の蔓でできた鎧を身に纏い、ハンマーを振るって戦っていた。
ゴブリン隊の大多数は河の向こう岸にいるが、仲間を助けに戻れない。
河は深くはないが流れがある。下手に急いで渡ろうとしたら危険だ。川底の石には苔が付き滑りやすい。向こう岸でゴブリンがあたふたしている内にカワンと戦っていたゴブリンは一人を除いて全部倒された。
残っているのはゴブリン将軍だけだ。ゴブリン将軍の体格はオーガ・ロードのカワンよりは小さい。だが、ゴブリン将軍の顔に怯えの色はない。河の向こうにいるゴブリンたちも逃げない。ゴブリン隊はゴブリン将軍の実力を知っており、負けると思っていない。
見た目はカワンが有利だが、戦闘経験はゴブリン将軍が上な気がした。武器を持っての戦いなら体格差による有利はあるが、決め手とはならない。
ゴブリン将軍を仕留められるのなら願ってもない機会だ。だが、カワンを失ったら痛手だ。武将同士の一騎打ちはやる方いいが、見る方はハラハラする。
闘志を剥き出しにしてカワンが尋ねる。
「名乗りは必要か」
「不要。どちらかが、死ぬだけだ」
カワンもゴブリン将軍も死ぬ気はない。相手を殺して生きるのみ。二人がジリジリを間合いを詰める。
カワンから先に仕掛けた。両手で振り上げたハンマーが大地を打つ。ゴブリン将軍はサッと避け、間合いを詰める。ゴブリン将軍の剣がカワンを横一文字に斬る。カワンの鎧が弾ける。
カワンがハンマーを振り上げた時にはゴブリン将軍がさっと間合いを取る。斬られたカワンだが、ピンピンしている。たかが木製の鎧と侮ったが、剣の一撃を防ぐに充分な強度はある。
「軽くて丈夫な鎧だな。見かけは悪いが、鎖を編んだ下手な鎧より防御力がある。カワンの鎧はどういう経緯で手に入れたか知らないが、商品化できないか」
一瞬勝負をユウトは忘れそうになった。頭を軽く振りユウトは現実に戻る。カワンのハンマーの一撃は重い。兜を付けているゴブリン将軍とて頭に当たれば一撃で勝負が付く。かといって、カワンが有利でもない。
ゴブリン将軍は足場の悪い河原で戦っているが、足取りがしっかりしている。ゴブリン将軍の剣は蛮勇の剣ではない。足場の悪い山で戦う経験から生まれた剣だ。
渡河のためにゴブリン軍は分断されたが足場の悪さはゴブリン将軍に味方している。
カワンが再びハンマーを振る。カワンは河原の戦いに慣れていないのか、上手く踏み込めていない。対してゴブリン将軍は紙一重でハンマーの間合いを避けて斬る。
先の一撃で仕留められなかったゴブリン将軍はヒット・アンド・アウェイで何度も剣を当てる。丈夫な木製鎧だが、攻撃がヒットすることで破損していく。遂には鎧が剥がれ落ちた。
オーガ・ロードのカワンの肉体は筋肉の塊である。だからといって、筋肉では剣を弾けない。このまま戦えば、徐々にカワンは傷を負う、さすれば、動きが悪くなり負ける。一撃が当たれば勝てる状況が逆にカワンの退く選択肢を奪っている。
他に戦える者がいたら、助太刀に入れただろう。だが、ユウトが加勢しても邪魔になるだけだ。ユウトはハラハラして見守っていると、カワンが再びハンマーを振るう。
カワンの鎧がなくなったのでゴブリン将軍が勝負に出た。いままで剣を当てることに集中していたゴブリン将軍が戦法を替えた。強く踏み込んでの殺すための一撃だ。
カワンが振り下ろされたハンマーから右手を離した。カワンが拳を突き上げる。
ゴブリン将軍の剣はカワンの体に届いた。だが、ゴブリン将軍はカワンからアッパー・カットを喰らう形になっていたので威力が乗らない。勝負あったと思ったが、ゴブリン将軍は倒れない。
よろけながらも後退した。信じられないがゴブリン将軍は寸前で首を逸らしてアッパー・カットの威力を半減させた。仕留めきれなかったとユウトは悔しく思ったが違った。
カワンがなんなく左手一本でハンマーを操りゴブリン将軍を追撃した。ゴブリン将軍は咄嗟に剣でハンマーを受けた。
カワンの一撃は剣で受けきれる威力ではない。グニャッと剣は大きく歪んだ。ゴブリン将軍は剣を捨てた。ゴブリン将軍は予備の武器として短剣を所持している。だが、短剣ではカワンは倒せそうにない。
勝負ほぼ有ったと思ったが、上空から見ているユウトは気が付いた。向こう岸のゴブリン兵が石弓でカワンを狙っている。ユウトは声を張り上げた。
「矢がくる」
ユウトの警告にカワンが気付いた。おかげで、カワンは石弓からの一撃を躱せた。ここでゴブリン将軍が河に向かう。カワンが背後から一撃を見舞おうとしたが、ゴブリン将軍は振り向きざまに短剣を投げる。
カワンが手で顔を庇った。カワンに死角ができた。別のゴブリン兵が石弓でカワンを撃つ。カワンの脇腹に矢が刺さった。カワンにできた隙にゴブリン将軍は河に入った。一目散にゴブリン将軍が下流に向けて泳ぐ。河の流れもあり追うのは不可能だった。
ゴブリン兵は指揮官が離脱できたのでそのまま走り去った。もし、ゴブリン将軍が逃げずにチャンスとカワンを襲ったのなら倒す機会はあった。
カワンを倒せた、は可能性である。逆にゴブリン将軍が討たれたかもしれない。
ゴブリン将軍は迷わず逃げることを選んだ。カワンを倒せなかったが、逃げられた。
状況判断の速さがゴブリン将軍を救った。ユウトが下に下りると、カワンが傷を河の水で洗っていた。
「残念でしたね。カワンさんが勝つと思いました」
不機嫌にカワンが応じる。
「その言い方だと、俺は勝っていない。負けたとの判断か」
カワンの指摘にユウトは詫びた。
「いえ、カワンさんの勝利です」
苦い顔でカワンはユウトの言葉を否定した。
「俺は負けた。勝てなかったから、負けじゃない。矢に毒が塗ってある」
カワンの言葉にユウトは驚いた。急ぎ銀山に向かって、パメラを探す。
パメラたちはアイアン・アントの死体を片付けていたところだった。
「カワンさんが敵の毒矢を受けました治療をお願いします」
カワンが動けなくなる事態を計算して飛竜を連れて行く。飛竜でも運べなかった場合を考慮してヤマンも連れて行く。カワンは河原でジッとしていた。すぐにパメラが診察を開始して治療を施す。
しょげた顔をしてカワンがヤマンに謝る。
「兄貴、俺もまだまだだな。不覚を取った」
「生きていればまた勝てる」
ヤマンがカワンをおぶって銀山に戻った。パメラからカワンの状態について説明がある。
「動かずにジッとしていたので、毒は全身に回っていません。投薬で助かるでしょうが、一週間くらいはまともに動けません」
銀山は守りきれたが、今回はアメイと運に助けられた面が大きい。銀山が止まれば街への影響が甚大だ。何か手だてを考えないと、次は銀山が落ちる。課題が次々と来るのでユウトは頭を悩ませた。




