第二百二回目 オーガ・ロード『兄』 対 将軍蟻
2025.12.25 間違って同じ話を二話、続けて投稿していました。修正しました。
眼下ではアイアン・アントがゴブリンの死体をバラバラにする、アイアン・アントはゴブリンたちが放棄していった荷を荒らし、食料を咥えて引き返す個体が出た。他の蟻たちはもっと他に食料がないか探している。
「ゴブリンではなくアイアン・アントに略奪を許したな。コボルドの鉱夫に被害でなかっただけマシか」
サイメイからラジットを連れてきていたら結果は違ったかもしれないが、いない人間の話をしても仕方ない。こうなると、半分に減ったアイアン・アントの始末をどうするかだ。
飛竜が上で旋回している。予定と違いゴブリンがいない。判断に困っていたが、薬を投下した。
アイアン・アントが暴れ出して同士討ちを始めた。将軍蟻も凶暴化して周りの個体を攻撃している。
これでもいいかと思ったが、事態は悪い方向に動いた。興奮したアイアン・アントによる暴走がコボルドの住む宿舎を破壊していく。物的被害が拡大していくが止めようがない。また建て直しだなとガックリした。坑道の扉を開けて、ヤマンが出てくる。
「出て来るのが早すぎる」
ヤマンが犠牲になると冷っとした。アイアン・アントがヤマンに襲いかかる。ヤマンの振るう大剣の一振りでアイアン・アント三体が吹き飛ぶ。突如、現れたヤマンにアイアン・アントが襲い掛かる。ヤマンは雑草を鎌で刈るように薙いで行く。
凶暴化で精細を欠いたアイアン・アントの攻撃はヤマンに当たらない。近付く傍から吹き飛ぶ。蟻の体液でキレなくなった大剣が金棒となり、蟻を潰していく。並みのアイアン・アントでは勝負にならない。
「鉱山の護衛として雇っておいて正解だったな」
最後に将軍蟻一体が残っていた。蟻の考えはわからないから、推測するしかない。
「将軍蟻は逃げそびれたわけではない。ヤマンとの戦いを見越してヤマンを観察していた。ヤマンが疲れるのを待つために他のアイアン・アントが死ぬまで待っていた」
将軍蟻はヤマンを敵と認めたのか姿勢を変えて立った。立ち姿は思ったより大きい。オーガのヤマンと変わらない立派な体である。
将軍蟻には鋭い牙があるが、武器を持っていない。だが、言い知れぬ不気味さがあった。ヤマンが蟻の死骸を踏みつけながら近付いた。大剣の間合いになる。ヤマンが大剣を振り上げる。将軍蟻は動かない。
ヤマンの大剣が将軍蟻に振り下ろされた。将軍蟻は大剣を牙で受け止めた。将軍蟻の首と顎の強さは異常だった。ギリギリと金属が擦れる音がする。バキっという音と共にヤマンの大剣の刃が砕けた。
将軍蟻の牙は鉄をも砕く。将軍蟻に噛まれたら人間の頭でも砕ける。ヤマンは刃が砕けた大剣を振る。将軍蟻の胴体に剣が命中する。攻撃が当たり、軽くよろけはしたが、将軍蟻は倒れない。
「想像以上に硬い。また重い。ヤマンさんに勝てるのか?」
将軍蟻がヤマンより肉体的に強かったとする。それでも毒を使えば将軍蟻は始末できた。毒殺するにしても戦っているヤマンが死んだ後の話になる。今ならキリンから雷を落とし続ければ将軍蟻は倒せる。
「手を出したほうがいいのか?」
ユウトが助けようかと考えていると、キリンが首を小さく横に振った。「手出し無用」の意思表示だ。キリンは野生育ち。将軍蟻がヤマンを餌にすることも道理と考えてもおかしくはない。それでは銀山の管理運営を任されているユウトは困る。
上空のことなど構わず、地上では戦いが続く。二振り、三振りとヤマンが攻撃するが将軍蟻には通用しない。遂には牙で大剣は捕えられ大きく折れた。
「見ちゃいられない。助けないと」
ヤマンが折れた大剣を捨てた。ヤマンは両手を挙げ格闘戦の構えを取る。ヤマンの背に亡きチョモ爺がダブって見えた。
ユウトの考えは変わった
「助けは不要かな。チョモ爺なら負けない気がする」
将軍蟻がヤマンに組み付いた。ヤマンは将軍蟻と力比べになる。将軍蟻は力でヤマンを組み伏せようとした。ヤマンの上体が後ろに反った。ユウトはヒヤリとしたが、ヤマンの姿勢は崩れない。
将軍蟻が四本の脚で踏ん張る。将軍蟻はヤマンを押し倒そうとする。それでもヤマンは下半身の力で体を支えている。
ヤマンはチョモ爺との相撲勝負で負けた。あれから鍛えていた。今のヤマンはチョモ爺に匹敵する力を持っている。将軍蟻は強いのだろう、だが人間と力比べをした経験はない。似たような体勢になれば今までは将軍蟻の勝ちが確定していた。
「将軍蟻は自分と力が同格の二足歩行の生物との組み合いには慣れていない」
押し切ろうとする将軍蟻に対して粘り続けるヤマン。一見、ヤマンが不利だが負けるとは思えなかった。勝負が付かない事態に将軍蟻が動いた。温存していた牙で噛みつきに出る。
ヤマンはこのタイミングを待っていた。姿勢を低くして頭を下げて将軍蟻の懐に入る。下から力任せに体を伸ばす。牙を躱されて将軍蟻は投げられた。将軍蟻が立ち上がった時にはヤマンは目の前にいない。
ヤマンは将軍蟻の背後を取る。ヤマンは将軍蟻の首を絞めた。蟻に対して締め技は有効かどうかユウトにはわからない。将軍蟻は首を振りヤマンを背から落とそうとする。将軍蟻の動きが緩慢になった。将軍蟻の首が不自然に曲がっていた。
「将軍蟻の強靭な首を力で折ったのか!」
嚙み付きを武器とする将軍蟻の首は猛獣よりも強い。その首をへし折るのだから、ヤマンの力は更に上だ。
ヤマンとチョモ爺が再び戦うチャンスがあったなら、チョモ爺が勝つか疑問だった。
「ヤマンはチョモ爺に勝つために鍛えていたのか。チョモ爺に勝ちたいのならここまでできないと無理だ。そういうところまでヤマンは自分を追い込んでいた」
先の敗戦がよほど悔しかったと見える。悔しいで終わらず、勝てるところまで持っていくところに戦士の誇りを感じる。
「惜しむべくはチョモ爺が既に他界しているところか」
ヤマンがチョモ爺の死を知っているのか不明だった。ヤマンが再戦を希望しているのならもう敵わない。キリンが首を軽く上げる。ユウトが何も命じないのにキリンは移動を開始した。
キリンの行き先はわからないが、見せたいものがある。キリンが駆けて行く先にユウトはむかった。




