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第二百回 銀山に迫る二つの危機

 人数は三人もいればいいが、準備期間が長くかかるかと思った。だが、三日で済んだ。

 あまりにも早いのでバルジャンに尋ねる。


「こんなにすぐに準備が終わるものですか?」


「お疑いなのもわかります。儂もこんなに材料がすぐ入手できると思いませんでした。ここは旧王都よりも人は少ないですが物は豊富です」


 ありふれた物で儲けようとするなら量がいる。需要はあまりないが、必要な品はある。必要とする職人や魔術師がいるなら、高くても売れる。


 小規模商人が儲け出すために変わった品物を運んでいた。おかげで蟻退治に必要な品物が市場で揃った。


 バルジャンは三人の冒険者の他にパメラを連れていた。バルジャンがパメラを紹介する。

「こちらは薬師のパメラさん、今回は殺虫剤の蟻有りコロリンを作ってもらうために同行します」


 パメラはク薬師である。薬に詳しいのだから毒にも詳しい。パメラが殺虫剤を調合するのなら、品質に間違いはない。


 パメラはユウトに微笑む。

「お久しぶりです、庄屋様。今回はよろしくお願いします」


「お知り合いですか?」と言葉にバルジャンが軽く驚く。


「庄屋といえど、椅子に座って仕事をするだけでは街は回りません。この街の庄屋は現場にも赴くんですよ」


 感慨深げにバルジャンが愚痴る。


「今どきの名ばかり教授共に聞かせてやりたい言葉ですな。あいつらはフィールド・ワークの重要性をわかっちゃいない」


 学者の愚痴はいい。急ぎたい。人間や異種族が相手なら襲撃に関してある程度予想が付く。昆虫の考えは読めない。カオリに飛竜を出してもらいバルジャン、パメラ、カオリと冒険者を乗せる。


 ユウトはキリンで飛竜の後を従いていく。追い風の影響も有り夕方には銀山に着いた。ユウトの姿を見ると、コボルドの族長は目を丸くして驚いた。


「ほんの少し前に異変を知らせるために役人が街に出立しました。さっきの今では速すぎませんか? それにパメラ殿までまだいる。怪我人は出ていませんよ」


 コボルドの族長はパメラを知っていたので、パメラにチラリとユウトは視線を送る。

「ここには年三回ほど薬を卸しています。使った分だけ料金を頂いて、足りない分を補充しているんです」


 個人では使用する量が少なくても、銀山全体ならそれなりに使われる。コボルドを相手にする人間の医者はいないだろうから、置き薬は重宝する。


 コボルドの族長が驚くのも無理はない。アメイの情報が速かったので、役人と入れ違いになった。報告が遅いと役人を責める気はない。少なくとも異変に気が付いただけマシだ。


「異変はアイアン・アントに異変が起きた件でしょう。俺の情報網に引っかかったので急ぎきました」


「庄屋様はそこまで御存知ですか。アイアン・アントの種類が変わったのですが、今の若い衆には見分けがつきません。儂の若い頃は……」


 この手の話は脱線する上に意味がなかったりする。かといって、遮って気分を悪くされても困る。適当に聞き流していると、銀山の守備を任せているオーガ・ロード兄弟のヤマンとカワンがやってくる。


 弟のカワンがコボルドの族長の話に構わず、語り出す。

「なんで報告する前に、庄屋が来ているんだ」


 兄のヤマンも口を出したので、コボルドの族長の話は強制終了となった。


「近くにゴブリンのキャンプができていた。いつもの貿易する奴らと違い品物を持っていない。また武装もしている。あいつらここを襲う気だぞ」


 勘違いであってほしいが、違う。

 貿易の現場に立ち会うオーガの兄弟の見立てなら間違ってはいない。


「襲撃はいつくらいにありそうですか」


 見立てをカワンが語る。


「キャンプ地の様子から判断して到着したのは数日前だ。いつ襲ってきてもおかしくはないが、まだ襲撃の気配がない。どうも奴らは何かを待っているようだ」


「アイアン・アントの動きはどうです」

「どうって普通だが、あえていえば巣の近くにゴブリンたちのキャンプ地はあるか」


 アイアン・アントが近々銀山を襲うタイミングを待っている気がする。銀山のパニックに乗じて強盗をする気だ。見方によってはアイアン・アントの種類が変わったのも、誰かの策略かもしれない。


 幸い襲撃前にユウトは到着したが、今回は護衛を連れていない。一般的な人間やゴブリンにとって飛竜は脅威ではある。だが乗れる飛竜は臆病な性格。アイアン・アントでもゴブリンでも数が多ければ、逃げ出そうとする。


 ここにママルかフブキがいれば話は違うが、このままでは犠牲者が出る。ユウトはカオリに尋ねる。

「今から街に行って応援を呼んでこれるか? コタロウと氷竜がいるだけでも戦力が違う」


 ユウトの提案に対してカオリは問題を指摘する。


「飛竜は疲れています。戻るなら向かい風の中を進む状況になります。飛竜にかかる負担が大き過ぎます。夜になると飛竜は目的と違う方向に進む可能性が高いんです」


 焦った時にこそ人は愚かな行動を取やすい。

「街に無事に着けるか怪しいのか、休ませて朝になってからのほうが確実、か」


 明日の朝になって助けを呼べば、明後日の明け方にはコタロウがやってくる。丸一日の空白が出るが、なんとかなるかと、ユウトは安易に考えた。


「それでは遅い」とヤマンはカオリの考えを聞いて唸った。

 弟のカワンは兄の言いたいことがわかったのか、説明する。


「ゴブリンたちは銀山を見張っているはずだ。今日ここに誰かが飛竜で来たのを知った。時間が経てば街から増援がくるとわかれば、計画を早める」


 カワンの言葉にユウトはドキっとなった。

「今晩にも襲撃があるというのですか?」


「俺ならしないな」とだけヤマンが短く応じる。カマンがまた説明してくれる。


「誰かは来たが、誰が来たかはわからない。飛竜が朝までいるのなら、誰が来たかを見極める時間がある」

 事態は把握したのかバルジャンが見解を伝える。


「アイアン・アントが活発に活動するのは陽が高い昼から夕方の間。仮にゴブリンたちがアイアン・アントを使うにしても夜では思い通りには動かない」


 無理をした結果、働かない蟻になるのならまだいい。けしかけた側が襲われるなら愚かである。気になるのでカマンにユウトが尋ねる。


「カマンさんとヤマンさんはゴブリンたちに勝てますか?」


 ヤマンがフンと鼻を鳴らして答える。

「勝って当然。アイアン・アントと一緒ならコボルドにはそれなりの犠牲が出る」


 カワンが付け加える。

「あとはある程度、略奪も許すことになる」


 コボルドに犠牲が出れば銀の採掘は遅れる。略奪まで許せば銀もなくなる。何よりも痛いのが銀山にはユウトの目が届かないと内外に教える事態だ。


 ユウトが迷っているとパメラがニコっとした顔で提案した。

「薬で誘導してアイアン・アントにゴブリンを襲わせて退治してもらいましょう」


 できれば理想だが、果たしてそんな策があるのかユウトは疑問だった。


 パメラの顔には不安も怖れもない。一般人なら「こんな老女に何ができる」と馬鹿にするかもしれない。老婆ロードの能力下なら、目の前にいるのは老いた薬師ではない。知識の塊である薬師だ。

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