表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

151/220

第百五十一回 ロシェが認めた者

 邪教徒は館から百mの距離で止まった。弓で武装している邪教徒の姿がある。だが、人数は十人だけだった。


 矢は飛ばすだけなら二百mは飛ぶ。当てようとするなら百m以内。素人の弓ならさらに近寄る必要がある。


 武僧は力が強く、弓も使い慣れている。強い力でなければ引けない弓なら矢は遠くへ飛ぶ。今の武僧が手にしているのは即席武器なので、精度がとても悪い。当てようとするならもっと引き寄せないといけない。


 弓の有効射程距離は互角とユウトは見ていた。現状では百mではお互いの矢は届く。だが、まともに当たる距離ではない。


 邪教徒から四人が進み出る。二人は金髪の青年と黒髪の年配の女性を連れていた。


 邪教徒の指揮官と思わしき年配の男が叫ぶ。

「トリスタン卿の息子とドリエルと妻のアイラだ。庄屋よ、門を開けて出て来い。出て来たら二人を解放する」


 提案は百%嘘だ。だが、交渉開始の合図としてユウトは受け取った。


 ユウトは叫び返す。

「俺はドリエルとアイラの顔を知らない。二人が本物の証拠はあるのか?」


「庄屋の元にはトリスタン卿の娘のメアリとリリアがいる。二人に確認させろ」


 敵の矢が当たる位置ではないので、二人に見せても問題ない。それに、ドリエルとアイラが本物かどうかの確認はユウトにとっても必要な作業だ。ユウトは武僧の一人に頼む。


「メアリさんとリリアさんを連れてきてください」


 救出した女性のうち赤毛の女性だけがやってきた。ライエルとユウトは階段を下りて会った。

女性は毅然とした態度でユウトに挨拶した。


「先ほどは気が動転していて、挨拶が遅れました。私はトリスタンの娘のリリアです。ユウト様にお願いあります」


 ドリエルとアイラを助けてくれと頼まれると思ったが違った。

「こうなったら、仕方ありません。兄様と母様の死も覚悟します」


 ユウトはビックリして、ライエルの顔を見る。ライエルもまた驚いていた。


 厳しい顔でリリアは続ける。

「姉のメアリが弓で母様と兄様を捕えている敵を物見櫓から狙撃します。二人が館に向けて走ってきたら、敵は追ってくるはずです。敵を射殺してください」


 ユウトはリリアの言葉に耳を疑った。

「物見櫓からなら、敵までは矢が届くでしょう。でも、当たるとは思えない。外れれば敵は激高して、ドリエルとアイラ夫人を殺しかねない」


 ユウトは反対したがライエルは賛成した。

「リリア嬢の提案に乗りましょう。幸い風が吹いていない。狙撃にはもってこいだ」


 ライエルの言葉は信じられなかった。リリアの提案を採用すれば、みすみすドリエルとアイラ夫人を殺す。


「無理でしょう。物見櫓から矢を撃って当てるなんて」


 ライエルの考えは違った。

「敵もできないと思っているから警戒していない。片手を失っていなければ俺だって当てられますよ」


 歴戦の傭兵のライエルならできる。とても、女性にできる技だとは思えない。


 ユウトがゴーサインを出せないと、リリアがキッとユウトを睨む。

「庄屋様はトリスタン家の人間をできもしない事をいうほら吹きだと思いですか? であれば侮辱です」


 リリアの自信がどこから来るのかわからない。だが、失敗すれば人質は二人とも死ぬ。 ユウトが躊躇っているリリアは強く主張する。


「メアリお姉様は八歳の頃から弓を握っています。お姉さまは今年で十八歳。弓のキャリアなら十年を超えるのです」


 才能がある者が十年も訓練したのなら、可能かもしれない。だが、本当に任せても大丈夫なのか? 


 メアリは諦めずにユウトを説得した。


「メアリお姉さまはロシェ閣下と弓で競った経験もあります。惜しくもロシェ閣下に一歩及びませんでした。ですが、ロシェ閣下には才能を認められました」


 ユウトの心は動いた。ロシェだったら百mの距離なら外さない。武人のロシェが認めたなら、メアリの腕前は達人級だ。


「やりましょう。二人が逃げてきたら門を開けて中に入れます」


 ユウトの提案にライエルが乗った。

「門を開けるのは本来なら止めたいところです。ですが、門の幅は馬車一台分しかない。門の付近なら取り囲めば敵は数の利を活かせない」


 敵が多いなら押し切られる。だが、五十名を狭い場所で迎撃するなら可能との判断だ。


 敵の数と練度を知るライエルはいけると判断していた。

「武僧の腕前なら、迂闊に敵が踏みこめば全滅です」


 勝ち筋がユウトに見えた。

「よしやりましょう。失敗した時はトリスタン卿からの責めは俺が受けます」


 一見すると無謀かもしれない作戦が決まった。ライエルが上の足場を見ると、武僧たちも頷く。


 武僧の一人が物見櫓に手振り身振りで何かを伝える。隠密作戦のためのハンドサインが武僧にあると知った。


 ユウトとリリアが壁に備え付けた足場に上がる。


 リリアが大声で叫ぶ。

「お兄様、ここからでは顔がよく見えません。もっとこちらに近付けませんか?」


 リリアの問いに敵の指揮官が叫ぶ。

「ダメだ。これ以上は近付かん。本人確認をしたいなら、本人しか知らない質問で確認しろ」


 敵にしてみれば当然の発言だ。距離は矢が当たらない位置にいると思い込んでいる。ここから、近付けばユウト側の射程に入る。


 リリアが叫ぶ。

「では、お兄様に質問です。お兄様のオネショが止まったのは何歳ですか?」


 場がシーンとなる。確かに家の者しか知らない秘密だ。だが、これは本人が答えづらい質問ではないのだろうか? 場の空気から緊張が解けた時だった。敵に隙ができた。


 矢が飛び、アイラ夫人を捕えていた敵に当たる。

 敵が倒れアイラ夫人が自由になる。アイラ夫人は門に向かって走り出した。


 敵の指揮官が慌てる。

「捕まえろ」


 指揮官の命令で邪教徒が走り出した。アイラ夫人を援護するために武僧が矢を射る。射撃により敵が怯んだ。アイラ夫人と敵の距離が開く。


「開門」とライエルの声が響いた。門が開き始めると、敵が一斉に動き出した。門が開いた隙に館の中に攻め入る気だった。


 アイラ夫人が駆けこむ。槍を構えた武僧が門の内側で半円の陣形を展開する。


 ライエルの予想通りに敵が次々に飛び込んだ。だが、飛び込んだ先で次々と武僧の餌食となっていく。指揮官は門の内側が見えていないので、突撃を止めない。


 二本目の矢が物見櫓から射られた。矢はドリエルを捕えている敵に当たった。


 ドリエルも逃げる。ドリエルは館の入口に向かわない。斜めに走る。ただ、物見櫓から死角にならないように壁とは距離を取っている。


 残っている敵がドリエルを追う。だが、すぐに物見櫓からの矢で射殺される。


 門が開いたので指揮官は人質が不要と判断したのか叫ぶ。

「ドリエルを弓で殺せ」


 声が響くとドリエルの走りがジグザグに変わる。止まっている的を射るのは容易い。素早く動く的には当てづらい。敵の矢はドリエルに当たらない。


 三本目の矢が物見櫓から放たれた。矢は指揮官の頭に命中する。指揮官が倒れた。指揮官が倒れると、突撃を止める者がいない。門を潜った敵は次々と倒されていく。


 半分以上、倒されたところで敵はまずいと気が付いた。逃げに転じようとした。だが、後ろから来る味方のせいで素早い撤退ができない。結果、武僧に背を見せて討たれていく。


 逃げ出せた敵は十名くらいだった。武僧は深追いしない。物見櫓から放たれる矢は一人また一人と敵を殺していく。


 勝負はあったが、気を緩めてはいけない。敵にはまだ少ないが兵力が残っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんなにバトル展開が続くのは珍しい気がします。魔法先生でもこんなにはなかった気がしますが、楽しみながら読んでいます。 世の中のバトル物は長ったらしくてくどくどした描写が多いですが、作者様の独特のリズミ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ