表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

140/220

第百四十話 菜っ葉

 実りの秋が訪れた。村々では小麦の収穫がすっかり終わった。冬になる前に保存食を作るための塩が町に運ばれる。東の地には海がない。塩は輸入品であり、昔は貴重品だった。


 村が町に発展したので塩の流入量が増えていた。持ち込む人間が多ければ、塩の値は下がる。

 ムドウが消えたあとハルヒは落ち込んでいた。だが、今は立ち直っていた。


 ハルヒの立ち直りは空元気かもしれない。ユウトはそっと見守るしかなかった。


 ある日、ハルヒが館を訪れた。

「庄屋様、西の三つの村から届くキャベツが減っています。今年はキャベツが不作です。北と南の村で収穫される小松菜も不作です。お年寄りが漬物を作るのに不自由しています」


 夏は気温が高く、雨も充分に降った。町の東側の小麦は豊作だが、西側の野菜が凶作だった。小麦や米等の穀物は税に大きく関係しているから注視していた。葉物野菜には目が届いていなかった。


 北西と南西の村は貧しい。何か手を打っておかないと、村はすぐに困窮する。冬には新鮮な野菜は手に入らない。冬が本格化する前に野菜を使った保存食が充分に確保できないと、影響が出る。


「漬物の件は動いてみるよ。あと、北西の村と南西の村にも手を入れて困窮しないようにするよ」


 ユウトの食卓には漬物は普通に出ていた。情報を得るためにユウトはママルを呼んだ。

「家では漬物が出ていますよね。漬物はどこで買っていますか?」


 ママルはユウトの言葉を訝しむ。

「漬物を売る店はありますが、自分たちで漬けたほうが美味しいですよ。町では漬物用の塩、麹、野菜を売る店も多いです」


 台所に立たないからわからないが、町では自家製造が主流だと知った。


 ユウトが現状を理解すると、ママルが言葉を続ける。

「漬物は私が漬けていますが、味が変でしたか」


 ママルの漬物は美味しい。塩抜きが上手なのか塩味がちょうどいい。

「いいえ、町で漬物用の野菜が不足していると聞きました。現状を知りたかったんですよ」


 ママルは不思議そうな顔をする。

「野菜不足とは聞いておりませんが」


 ハルヒが間違った情報を持ってくるとは思えない。

「キャベツや小松菜が品薄ではないのですか?」


 ユウトの言葉を聞いて、ママルは納得した。

「それなら値上がりしていますね。でも、玉葱、人参、大根、茄子、南瓜は市場にふんだんに出ていますよ」


 文化の違いだ。旧王国人は葉物野菜の漬物を好む。だが、マオ帝国人は根菜類の漬物を好む。マオ帝国領は東の地より温暖なので、葉物野菜が出回る時期が旧王国領より長い。


 結果、葉物野菜を秋に漬物にして、保存する文化が発展しなかった。

「葉物野菜の漬物が作りたい場合はどうしたらいいですか?」


「葉物野菜の漬物は私は詳しくないですが、メリカの店で売っているのを見ましたな」


 憤怒のメリカと呼ばれていたが、今のメリカは総菜屋として暮らしている。魔法の腕は一騎当千だが、漬物の腕はどれほどのなのだろうか。


 メリカの総菜屋は繫盛している。ピーク時に行くと邪魔になる。夕方前の売り切れる頃を見計らって、メリカの店に行った。店に着いた時にはもう店仕舞いが始まっていた。


 相変わらずの繁盛ぶりだ。ユウトが顔を出すと、メリカがいた。

 白い帽子にエプロンをしていると、完全に総菜屋のおばちゃんだ。


 ツンとした態度でメリカはユウトを見る。

「なんだい庄屋か、もう総菜は完売だよ。総菜以外のことなら御免だよ。さすがに、戦場に出る齢ではない」


 機嫌が良くない。だが、戦いの話ではないのなら相談に乗ってくれる。

「今日は漬物の相談に来ました。町の住人が漬物用の葉物野菜が足りなくて困っています。何かいい知恵はないでしょうか」


 話題が戦闘関連ではないとわかったせいか、メリカの表情が和らいだ。

「確かに今年の葉物野菜は高いね。でも、野沢菜、芥子菜、白菜なら市場にあるよ」


「なんだあるのか」と、わかるが疑問に思った。

「じゃあなんで漬物を作らないんですかね? キャベツの代わりになるのに」


 目を丸くしてメリカがユウトを叱った。

「あんた馬鹿かい! 味が全然違うだろう。食べ慣れないものは敬遠されて当然だよ」


 食文化によっては先入観からメジャーにならない品もある。野沢菜漬けや白菜漬けがそうなのか、だが食べれば美味しいはず。


 メリカが教えてくれる。

「野沢菜や芥子菜は西にある三つの村でしか作っていない。町に運ばれる流通量が少ないのさ。白菜は最近、町に入ってきたが、生産量が少ないのでまだ高い」


 町で芥子菜や野沢菜の漬物を流行らせれば問題を解決できる。問題は野沢菜や芥子菜の流通量の確保できるかだ。


 机の前で考えていても良い案は浮かばない。それにたまには現地に顔を出さないと、評判も悪くなる。


 ユウトはキリンに乗って北西の村に出掛けた。


 北西の村の年寄役は急にユウトがやってきて驚いた。

「庄屋様、いい所に来てくださいました。私のほうから陳情しに町まで行こうとしていたところです」


 村を任せている年寄役が「いいところに来た」とホッとするのなら注意が必要だ。ユウトにとっては、悪い知らせが届こうとしていた状況を意味する。


 野沢菜と芥子菜の相談をしに来ただけなのだが、別の問題も解決しなければいけない。

 問題を解決するのが庄屋の仕事だ。平穏な北西の村が抱えた問題の大きさが気になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ