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第百十五話 会談の行方

期間が開きましたが再開しました。

 会談の場所は寺院で行う。寺には本堂があり、大人数を収容できる。また、街の寺はユウトが建立した寺だが、寺では地徳派、天徳派の武僧も修行しにくれば受け入れている。


 天哲教では年功序列の決まりはない。だが、天哲教発祥の地では年長者を敬う風習が色濃く残っているので、老いた武僧は敬われる。


 結果として地徳派にしても天徳派にしても、寺院の武僧の誰かが先輩であり敬意を持たれている。なので、会談を仕切る人徳派として寺での開催はやり易い。


 人徳派の僧正であるユウトが地徳派の一団を迎える。地徳派の一団は良く言えば壮麗。悪く言えば華美である。僧服は新品だった。


 素材こそ綿だがサテン生地なので金が掛かっている。装飾品に金銀こそ使っていないが、真珠や珊瑚を使用して。


「信徒の寄付で成り立つ寺なんだから、贅沢なのはどうかなのか?」と疑問に思う。

 ユウトは馬鹿ではないので意見はしない。


 次いで天徳派の一団を迎える。天徳派はうって変わって質素な服装である。使い古された布に装飾は一切なし。履物も藁を編んだ物である。地徳派とは外見からして違いが大きい。こちらはちょっと、公の場では相手に失礼にならないかと不安になる。


 天哲教の開祖はこのような格好で過ごしたとあるので、原点回帰だ。

 ユウトなら恥ずかしく思うかもしれないが、天徳派の僧侶は堂々としていた。


 天徳派と地徳派では話が始まる前から合わないように見えた。

 多くの高僧が見守る中ユウトが議長となり会談を始める。


「かねてから懸案でありました。大僧正の空位を巡る議論を始めましょう。まず、大僧正を置く決断はよろしいですか?」


「当然です」「是非もありません」とウンカイとアモンは大僧正を置く判断をよしとした。


 問題はここからだ。

「それでは誰が適任かを名前を挙げてください」


「私がやりましょう」「私が相応しい」とウンカイとアモンが我こそはと名乗りを上げる。


 全僧侶の視線がユウトに集まった。兼ねてから決めていた通りにユウトは判断を告げた。

「私はウンカイ様を推挙します」


 ざわめきも動揺もない。ここまでは三派とも事前情報から予想していた。予定調和だ。

ここでユウトは切り出す。


「三日後に再度採決をとりますが、まずは議論をいたしましょう」

「畏れながら申し上げます」とまず地徳派の僧侶がウンカイこそ相応しい理由を挙げる。


「されど」と今度は天徳派の僧侶が意見する。「ああだ」「こうだ」と議論が始まる。


 ユウトは議論を見守り人格攻撃になりそうなときだけ注意する。

「それは本筋から外れます。意味なき批判は控えてください」


 ユウトにしてみれば地徳派のウンカイで決めたい。だが、無理に押し通せば反発が強く、教団が割れる。なので、天徳派を蔑ろにしない形を取る必要があった。


 ユウトの考えが決まっていなければ、ウンカイは論陣を張ったであろう。正当性と利点を高々に主張したはず。だが、ユウトの協力があるのでウンカイにには勝ち筋が見えている。


 無理に天徳派を煽って、勝ちを汚したくないのかウンカイは静かだった。


 アモンのカリスマ性が強いのか天徳派は熱心にアモンの素晴らしさを説く。だが、地徳派は揺るがない。人徳派ではユウトがウンカイ支持を決めている。


 ユウトを良く思っていない人徳派の僧も多いが、ウンカイに懐柔されているのか議論をふっかけはしない。


 天徳派は熱く議論をしたいが、地徳派も人徳派も乗ってこないので焦りが見える。このままいけば、天徳派に発言の場を与えつつ、最終日にはウンカイで纏められそうな気がユウトにはしていた。


 ただ、アモンに動きがないのが気になった。アモンは天徳派の高僧の発言が行きすぎないように窘める以上の発言はない。かといって、大僧正を決める議論を既に諦めているようには見えない。


 議論は部下に任せて涼しい顔のウンカイだがアモンの動きには警戒している気配があった。昼食時間になった。


「派内の意見を調整するため」の名目でウンカイ、ユウト、アモンは別々に昼食を摂る。


 人徳派の高僧と食事をするが、誰もユウトに意見を尋ねない。

 人徳派のトップとしては寂しいが、気楽で良かった。


 食後のお茶を飲んでいると、初めてリーが話しかけてくる。

「僧正様は大僧正をウンカイ様に決めるおつもりですか?」


 最終の意思確認だと思った。トップの腹積もりが違って、最後に慌てふためきたくないとみえる。


 ユウトは軽い調子で答えた。

「私はウンカイ様で決めたい。もちろん、異論があれば聞きますよ。あるなら遠慮なく言ってください」


 畏まってリーは応える。

「僧正様に意見するなど徳の足りない私には恐れ多いことです。僧正様の御心のままに」


「良く言うよ」とユウトは心の中でうんざりした。

「自分たちの思い通りにならないと屁理屈ばかり言うのにさ」と思ったが、そんなことは言わない。


 ただ、「うむ」とだけ返事をしておく。リーの言葉で安心したのか人徳派高僧の顔は安堵していた。


 人徳派内では既に議論が百出の上で結論が出ている。午後の討論も高僧により活発に行われる。ただ、ユウトを含む三僧正はほとんど口を挟まず、意見の聞き役になった。


 日が暮れてきたところでユウトは議論を止める。

「同じような内容が増えてきましたので、今日の議論はここまでとしましょう。まだ、採決の日まで時間があるのでよくお考えください」


 地徳派は形勢有利なので異論はない。人徳派もユウトも含む高僧も余計な口出しをしない。天徳派が何か言うかと思っていたが違った。アモンが穏やかかな顔で口を開く。


「今日の議論はここまでとしましょう。こちらの主張はわかっていただけたと思います。明日は他派の意見をもっとお聞きしたい」


 言葉通りなら殊勝な心掛けだが、ユウトは疑がっていた。

 これは、夜になにか切り崩し工作をしてくるかもしれない。


 何か仕掛けて来ても問題はない。たとえ一晩でユウト以外の人徳派の高僧が意見を変えても、人徳派の代表はユウトである。ユウトだけが決定権があるので意見を曲げなければよいだけ。


 帰宅後、庄屋の残務しながら天徳派からの来客に備えたが、誰もこない。おかしいな、とは思いつつも次の日に差し障りがあると困るのでユウトは夜更けに眠る。


 何事もなく朝になり朝食を摂っていると、ママルがやってくる。


 苦い顔でママルが告げる。

「僧正様、問題が起きました。アモン様が行方不明です」


 決定される前に逃げたかと思うと、ママルが言葉を続ける。

「アメイ様より極東の国の諜報員が暗躍しているとの報告がありました。また、ムン導師から昨日、ウンカイ様の近辺で邪教徒がうろうろしていたとの知らせも受けています」


 嫌な考えが浮かぶ。ウンカイが邪教を唆してアモンを抹殺した。

 邪教が極東の国と協力してアモンを攫った。


 極東の国が主導でアモンを誘拐して、邪教徒にウンカイを始末させようとした。

 どれも考えられるが、どの場合もユウトに打撃となる。


 人徳派が仕切った会談である以上はユウトが解決しなければならない。

「アモン様の捜索を開始してください。ウンカイ様の警護を怠たらないようにしてください」


「仰せのままに」とママルは応えて下がった。

明日は6時10分に更新します。

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