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第百四話 バンパイア・ロード

 目の前の男がフードを取った。フードの下には綺麗な顎鬚を蓄えた凛々しい顔がある。年齢は四十くらい、短い黒髪をしていて丸顔。目だけは爛々と赤く肌は青白い。典型的な吸血鬼だ。


 吸血鬼は胸に手を当て、恭しく頭を下げる。

「私はバンパイアの王。イベル・ハーメルと申します。私の眷属が支配を離れて襲ってしまった事態をお詫びします」


 ユウトは横にいたママルにそっと尋ねる。

「吸血鬼の眷属が主の支配下を離れて命令に背くなんてありますか?」

「ないでしょうね。奴はこちらを舐めております」


 当然の答えが返ってきた。先ほどの吸血鬼化したオーガはハーメルの命令で襲ってきた。だが、解せない。いかに吸血鬼化したオーガであろうと、フブキには敵わないとハーメルは知らないわけではない。


 フブキは武器を仕舞わなかった。フブキが険しい口調で問う。

「会談の予定は明日だが、戦う気なら相手になろう」


 額に手を当てハーメルが業とらしく困る。

「おっとそうでしたか? どうやら配下の手の者が日時を間違えてしまった。こちらは予定時刻になってもお越しになられないので、こちらから出向いた次第でございます」


 フブキが声を張って尋ねる。

「白々しい。それで、人質はどうした? 時刻になっても来ないから殺したか?」


 ハーメルは笑って答える。

「人質を取ったなどとはいいがかり、彼らは客人です。きちんとできる限りのお持て成しをさせていただきました」


 ハーメルが指をぱちんとならすと、冒険者の一団が現れる。冒険者の一団はゆっくりとユウトたちに歩いてくる。


「止まれ!」とフブキが威嚇するように叫ぶ。ハーメルが再び指をパチンと鳴らすと、冒険者たちが糸の切れた人形のようにどさりと倒れる。ハーメルが笑顔で言い繕う。

「長く立っていたので貧血を起こされたようですね」


 堂々と嘘を並べるハーメルは事態を楽しんでいた。ユウト側の冒険者の一人が呪文を唱える。冒険者がユウトを見る。

「人質は吸血化していません。操られていた魔法が切れたものと思われます。どうしますか?」


 意識のない人質の冒険者を救助すればユウト側の冒険者の手が塞がる。吸血鬼はまだ多数、闇に潜んでいる。庇いながら戦いはできない。ハーメルはこちらの戦力を削ぎにきた。

「会談が終わるまでこのままでいいです」


 無理に相手の都合の良い状況に付き合う必要はない。相手は狡猾なバンパイア・ロード、油断をすれば全滅もあり得ると悟った。

「俺が庄屋のユウトです。人質はあとで連れて帰ります。それで、俺を呼んだ理由はなんですか?」


 上機嫌にハーメルが笑う。

「アインが気にかけていた人物に一目会いたかっただけですよ」


 ハーメルはオーバー・ロードを知る者か。ハーメルも山に暮らす者ならオーバー・ロードのアインと面識があってもおかしくはない。


 微笑みを浮かべハーメルが申し出る。

「一つ提案があります。東南の村を私にください。もし、願いを聞いていただけるのなら、私はユウト殿にお味方しますよ」


 ハーメルは意地が悪い。こちらの答えがNOだと知っていて聞いてくる。

「村には封じられた騎士がいます。俺がどうこうできる権利はないですよ」


 つまらなさそうな顔をしてハーメルが答える。

「なんと、村の一つもどうこうできないとはいささかがっかりです。では、私はいままで通りに山の民として、人間側と戦いましょう」


 ハーメルが空中に浮いてさっと後退する。闇から何かが走り寄ってくる気配がする。

 ユウト側の冒険者が即場に光の魔法を展開する。暗がりから人間やゴブリンが武器を手に現れた。敵は目が赤いので全員が吸血鬼化している。


 吸血鬼がフブキに襲い掛かる。数が多いのでフブキでも危険だと焦った。冒険者は警護対象のユウトを守るべきかフブキの加勢に行くべきか迷った。


「フブキさんの加勢にいってください」

 ユウトの指示を聞いて冒険者が駆けだす。冒険者たちと吸血鬼は混戦になった。ユウトがハラハラして見ていると、ママルが突如何もない空を突いた。空間が揺らぎ、ハーメルが姿を現す。


 ママルが拳と蹴りを次々と繰り出す。ママルの連続攻撃をハーメルは巧みに捌いていく。ハーメルも突きを繰り出すが、ママルには当たらない。ママルの掌底がハーメルの顎を捉えていた。ハーメルは大きく後退して距離を空けた。


 高速での攻防だが格闘戦ではママルに分があった。ハーメルが楽しそうに発言する。

「素手で私の顔に傷を付けるとは、なかなかやりますね」

「お前さんも本気じゃないね。婆だと侮ると痛い目みるよ」


 ハーメルが牙を見せて笑う。

「ではこれではどうでしょう? これが貴方にかわせますか?」


 ハーメルの姿が消える。どこに行ったかとユウトが目で追うが見えない。背後に気配を感じた。悪寒がする。振り向けばハーメルが立っていた。


 やられた、ユウトを守るものはいない。ハーメルの赤い瞳と目があった。背中に汗が流れる。やられると、と思った瞬間。ハーメルの胸を矢が貫いて飛び出した。


 闇に潜む誰かがハーメルを弩で狙撃していた。フブキが極秘裏に雇って先に派遣していた暗殺者だ。矢は少し心臓を外れていた、だが威力は充分だった。


 ハーメルが姿勢を崩す。ハーメルの視線がユウトから外れた。ユウトの体が後ろに引っ張られた。ママルがユウトを後ろに飛ばしてハーメルの前に立つ。


 ママルの手刀がハーメルの首に決まる。ハーメルはママルの一撃で首を刎ねられた。地面に転がったハーメルの頭部が何かを言おうとした。だが、ママルが無情にもハーメルの頭を踏み砕いた。ママルが険しい顔で言い放つ。


「外道は黙って死んでおれ」

 ハーメルが討たれると、吸血鬼は逃げ出した。だが、背を向けた所でフブキと冒険者の一斉攻撃をくらい全滅した。ハーメルの体が灰になり消えていく。


 再生にしばらく時間がかかるが、ハーメルは滅びたわけではない。また、必ずやってくる。バンパイア・ロードのハーメル、やっかいな敵がまた一人、増えた。

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