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鏡さんは魔法が使えるから遠距離から安全に戦うこともできるのに、何故か武器には籠手を選んだ。
紅先生は少し逡巡し尋ねる。
「お父さんの影響ですか?」
「はい」
鏡さんは頷いた。
鏡さんのお父さんって、日本でもトップランカーの探索者で、鏡さんを捨てたっていう?
そのお父さんも、武器に籠手を使っていたのかな?
鏡さんはお父さんが自分を捨てた理由を知りたくて、ダンジョンに潜った。
だから、お父さんと同じ戦闘スタイルを取ることで、それを知ろうとしているのかな。
もしも、鏡さんがそのお父さんのようになったら――大切なものを捨てちゃうようになったら。
私たちのことなんてどうでもよくなるのだろうか?
私は心配になった。
武器を選んだら、その武器の持ち方を先生から教わった。
「山本さんは右利きですね? でしたら、左足を前に出しましょう。これが基本の形です」
「こうですか?」
「もう少し腰を低くしましょうか。これを左前半身構えと言います。人間の弱点である心臓を最も前に出すという意味では危険な形ですけれど、その弱点を槍のリーチの長さが補ってくれます。そのため、槍が折れて短くなったり、急遽他の武器を使うことになったときは危険なので、他の形も覚える必要があります。では、その形になって、素振りをしてみましょう。もっと身体を捻って」
と先生は槍の扱い方を教えてくれた。
その教え方は上手で、まるで剣道の師範に教わっているみたいだ。
剣道を教わったことはないけれど。
私が素振りをしている間に、先生は一周回って同じように武器の使い方を伝えていき、さらに私の番になると上段之構という上から突く方法を教えてくれた。
「浅い階層の敵は構えを知らなくても倒せる敵ばかりです。ですが、そこで適当に倒していたら、その適当な形がそのまま構えとして定着し、強い敵に対応できなくなります。しっかりと反復練習をしてください」
「はい!」
私は授業を終えるとその足で購買部に行き、訓練用の槍を購入した。
訓練用といっても、先端部分が尖った黒曜石という石になっていて、十分殺傷力があるから気を付けるようにと言われた。
「やっぱりボウガンは高いですね」
スミレちゃんが矢を見ていう。
確かに槍の二倍くらいの値段になっている。
「これは生産部の子が作った弓と矢だね。普通に買えばその数百倍はするよ」
購買部のおばちゃんが説明をしてくれた。
そう言えばボウガン用の矢を作ったって言ってたな。
ボウガンは今日の授業で作ったのかな?
「素人が作ったものだけど、ちゃんと先生が最後に調整してるから使う分には問題ないよ。まぁ、スキルも何も使っていない武器だから威力は大したことないよ。もしポイントに余裕ができたら正規品を買いな」
「はい、ありがとうございます」
スミレちゃんが礼を言ってボウガンを買った。
あれ? そういえば、ゆかりんは来なかったけど、武器買わなかったのかな?
そう思って、ダンジョンに向かうと、ゆかりんが剣を持っていた。
「その剣、もしかしてゴブリンソード!?」
昨日、鏡さんが持っていた剣だ。
購買部には売っていなかったはずだけど。
「ええやろ? 鏡ちゃんに売ってもろてん。換金所に売るつもりやったみたいやから、その値段でな。購買部で売ってる石の剣より切れ味も良さそうやし」
「由香里、まさかあなた最初からそのつもりで剣を選んだの?」
「そんなわけないやん。たまたまやって。でも、剣って使う人が多いのは事実やから種類も多いし、ダンジョンでも最も拾える武器らしいで」
「使う人が多いから拾える確率も多いんだ。それで、鏡さんは?」
「鏡ちゃんなら、なんかメリケンサックみたいなもん手につけてダンジョンに潜っていったわ。三階層で試してみるんやって」
「めりけん……さっく? メリケン粉みたいなもの?」
「ちゃうちゃう、こういうのや」
親指以外の四本の指に指輪みたいに嵌めて使う武器なんだ。
確かにこれで殴られたら痛そうだな。
そうか、鏡さん、もうダンジョンに潜ったのか。
私も負けないようにしないと。
「それでな、さっき考えとったんやけど、三人で二階層に潜らへん?」
「由香里、私たちはまだレベル3ですよ?」
「武器も新しくしたし、行けると思うんよ。とりあえず、スライムをコツンとして武器の扱いになれたらでいいから」
ゆかりん、スライムと戦うのあんまり続けたくないんだな。
でも、私も鏡さんに追いつくのなら、確かに深く潜りたいかも。
「私も行きたい!」
「……はぁ、仕方ありませんね。ただし、無理と思ったら引き返すんですよ?」
「決まりやね」
三人で話し合い、まずはスライム相手に新しい武器を試してみた。
私の槍は授業で使った槍よりも軽くて使いやすい。
これなら練習通り行けそうだ。
三人で顔を合わせて頷き、私たちは階段を下りて二階層へと向かった。
二階層といってもこれまでと変わらない。
とりあえず魔物を探して通路を歩く。
出て来たのは――キノコ?
「歩き茸ですね」
「二階層では割とポピュラーな魔物やで。うちからいってもいい?」
ゆかりんが歩いてくるキノコに向かって剣を振った。
しかし、剣がその身体に弾かれる。
「かった……弾力があるから、力入れても斬れへんわ」
弾かれたといっても、歩き茸にはダメージがあるらしい。
ふらふらとしている。
「次、私が行きます」
槍で突く。
歩き茸の身体に槍が刺さった。
やった、これなら――
「って抜けないよ!」
槍が歩き茸に刺さって抜けない。
私は槍を振り回すが全然外れない。
そういえば、授業の時も槍が抜けなくなったら危ないから突く場所は考えるようにって言われていたのを思い出す。
「ちょ、桃華ちゃん、振り回さんといて」
「山本さん、そのまま壁に殴りつけたらどうですか?」
「それだ!」
私は壁に向かって歩き茸のついた槍を当てた。
すると、それが致命打となってようやく歩き茸は倒れた。
「まさかキノコ相手にこんなに苦労するなんて」
「やっぱりレベルが足りないんじゃないでしょうか?」
「そやね。スライムより経験値は高いみたいやけど、スライムの何倍も苦労したら割に合わんわ」
ゆかりんも頷いて、一階層に戻ろうと決めて振り返った。
そこで私たちと目が合ったのは、三匹のゴブリンだった。
えっと、これって危なくない?




