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結局、私たちも職員室に呼び出され、事情を説明した。
紅先生は深いため息をついている。
「トレジャーボックスからスライムなんて前代未聞だわ……どうしたらいいのかしら」
「あの、ダンプル学園長に聞くのはどうですか?」
ダンプル学園長はダンジョンの管理者だ。
このダンジョン学園のダンジョンにキューブがいるかはわからないけれど、何か知っている可能性が高い。
「それが、学園長室に行ったけどいないのよ。最近、学園にも来ていないみたいだし。もうすぐ文化祭もあるのに」
「まぁまぁ、茉留ちゃん。問題ないやろ? ほら、こんなにかわいいんやで?」
ゆかりんがころりんの頬を突いて言う。
紅先生は疲れた表情でころりんを見た。
そして、ため息を吐く。
「暫く職員室に預かります。ここなら教職員のどなたかが常にいますからね。その間に上に問い合わせてみましょう」
「上って、ダンプル学園長はいらっしゃらないんですよね?」
鏡さんが気になったように尋ねた。
学園長がいないのなら、副学園長? それとも教頭先生? 学年主任?
そう言う人を私は知らないんだけど。
「防衛省ですね」
あぁ、そういえばこの学園って、文部科学省じゃなくて防衛省の管轄だったっけ。
考える。
イメージ的には、自衛隊のイメージしかない。
怖いイメージだ。
そんな人にころりんの処遇を任せるとなると――
「茉留ちゃん! まさかころりんを軍事兵器に使うつもりとちゃうやんな!?」
「スライムは軍事兵器に使えませんよ」
「あ、そりゃそうや。こんなにかわええんやもんな」
ゆかりんがころりんの頭を撫でる。
「安心してください。公にはなっていませんが、アメリカではすでにスライムのテイムに成功し、ダンジョン外でのテイムに成功しています。絶対とは言えませんが、そのノウハウを元に飼育できるはずです」
「え!? アメリカでスライムってテイムされてるん!? どうやって!? 捕獲玉でテイムした魔物ってダンジョンの外に持っていかれへんやんな!?」
「公になっていないと言っているでしょ。その方法は言えません」
「そんなぁ……」
ゆかりんが残念がるけど、私はそれでよかったと思った。
スライムをテイムしてダンジョンの外に持ち出す方法が公になったら、ゆかりんが見境なくスライムをテイムする未来が目に浮かんだ
「話は終わりよ。教室に戻りなさい」
「待って、茉留ちゃん! ころりんをもう少しだけ」
「待ちません。授業に集中しないなら、防衛省から飼育の許可が貰えても教室で飼うことを認めませんよ」
紅先生がころりんを没収してそう言った。
ころりんを人質――ならぬスライム質に取られては言うことを聞かないといけないと、ゆかりんは教室に戻り、表面上は真面目に授業を受けた。
一時間目の授業が終わって休み時間に職員室に行くと、カブトムシとかを飼うプラスチックの容器にころりんが入っていた。
ご飯だろうか? 細かく刻んだ葉っぱが入っていた。
そのうちのいくつかがコロリンの身体の中に入っている。
食べているようだ。
「先生、スライムって草食なんですか?」
「人間が食べられるものなら何でも食べます。ただ、お肉や味の強いものを食べさせると臭くなるそうで、食べさせるなら普通の草や葉っぱがいいそうです。スライムは歯の代わりに粘液を出して丸のみできるサイズに小さく切ってから食べますがこの子は特に小さい個体で、粘液もあまり出ないようなので、食べやすいサイズに切ってあげないといけませんね」
「これはなんの葉っぱですか?」
「これは――」
「柿の葉だよ!」
私が即答した。
だって、柿の葉寿司に使われている葉っぱだもんね。
鹿も食べるし、漢方薬の材料に使われることもある。
「はい、山本さんの言う通りです。食堂にあったのを貰ってきました。他にもいくつか葉っぱを用意したのですが、これが一番合ったようです」
「へぇ、柿の葉が好きとは気が合うね、ころりん」
私は葉っぱは食べないけど、柿の葉で作ったお茶なら実家で飲んでいる。
味はほうじ茶とウーロン茶の間くらいで、ビタミンCが豊富でお肌の美容にもいいらしいし、みんなにも是非飲んで欲しいな。
「はい、休み時間は十分しかありませんよ」
「茉留ちゃん、防衛省の人はなんて言ってるん?」
「前代未聞の事態ですので、協議中です。結果が出たら伝えますから教室に戻りなさい」
と、その日は職員室と教室をいったりきたり。
次の休み時間には、花蓮ちゃんと本城さんも話を聞いて職員室にやってきて、お昼休みもみんなで職員室で食べることになった。
そして終わりのホームルーム。
「防衛省から連絡が来ました。正式に学園での飼育が認められました」
「やったぁぁぁ!」
ゆかりんが大喜び。
スライムをずっと飼いたいって言ってたもんね。
「今日は一緒に寝ような、ころりん」
「ただし、学園の敷地から外に出すのは禁止だそうです」
「えぇぇぇぇぇえっ!?」
「これでもだいぶ譲歩していただいたんですよ。放課後は学園の敷地内にある寮か宿直室で面倒を見ます」
「先生! うち、今日から寮に住みます! そこでころりんの面倒を見ます!」
ゆかりんが手を挙げて言った。
お父さんとお母さんに連絡をしなくてもいいのかな?
「認められません。寮の申請は一週間以上前に出してください」
「やったら、来週から寮に住みます。申請用紙ください。それと、桃華ちゃん! 今日、うちを桃華ちゃんの部屋で泊めて!」
「うん、いいよ」
私は即答した。
友達とのお泊り会みたいでたのしい。
「よかったな、ころりん。これで今日から一緒に住めるで!」
……もしかして、寮の申請が認められるまで一週間ずっと泊まる気かな?
さすがにそれは――
でも、喜ぶゆかりんを見て、やっぱりダメとは言えない私だった。




