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月曜日の朝、私は普通に新聞配達をしてから学校に登校。
まだ始業時間まで時間があるけれど、今朝はダンジョンには潜らず、みんなで昨日集めたトレジャーボックスの開封作業をすることにした。
「そういえば、トレジャーボックスの一番の当たりって何なの?」
「そうね。配信クリスタルだったら、今は値段が高騰してるから十五万円ね」
十五万円っ!?
私の新聞配達の月給よりも多い。
「あとは経験値薬。昔はかなり高かったらしいけど、いまは値段も暴落したわね。トレジャーボックスから手に入るものだと、二十万円くらいかしら?」
鏡さんが言う。
二十万円……凄い。
そんな大金があったら、あんなことやこんなことも。
「うちらって換金はできないんよね? ポイントに交換はできるけど」
「それでも十五万円分のポイントは大きいよ! 大体のものは売店で買えるもん!」
「でも、売店だとお菓子や文房具、日用品、あと本なども取り寄せてもらえば買えますが、服とかは買えませんね」
「それがね、これ見てよ!」
私が取り出したのは昨日の帰り、たまたま立ち寄った本屋で手に入れた一冊。
探索者コーデという名の、ダンジョンで使える装備品の服でのコーディネート特集が組まれていた。
値段は高いけれど、丈夫で特殊な効果がり、なによりオシャレ!
「昨日、寮の学校マニュアルを読んでたんだけど、外部の企業が提供している装備品も売店で取り寄せてポイントで購入することができるの。まぁ、値段は高いけど、それでもダンジョンでも使えて、外でも使える服が手に入るのって素敵だよね」
さすがにずっと体操服のジャージでダンジョンに潜るのもどうかと思っていた。
私が欲しいのは、このHATT製の探索者コーデ一式! 19万8000円!
現実だと絶対に手が出ないお値段! というか、そもそも値段を見た時点で自分には縁がないものと諦める。
でも、ここだと違う!
ポイントさえ稼げば手に入る!
「桃華ちゃん、盛り上がってるところで水差すようで悪いんやけど、はよせんとホームルームの時間になるで」
「あ、そうだった」
とはいえ、ここで作業的に黙々と開封作業をするのはつまらない。
いざっ!
机の上に置いてあるトレジャーボックスの蓋を開けると、箱が消えて中身だけが机の上に残った。
残っていたのは――黒い石。
「……魔石だ」
「黒い魔石、買い取り価格は四百円ですね」
ハズレだ。
こんなのダンジョン学園のダンジョンでも結構見つかる。
出鼻を挫かれるってのはこのことだよ。
昔は買い取り価格が五百円だったのに、いまは供給過多になって買い取り価格が下がったらしい――くすん。
「うちも黒の魔石やな」
「私は白い魔石です。これなら四千円ですね」
「私は薬ね」
鏡さんの上には緑色の液体が入った薬瓶が置かれていた。
「経験値薬っ!?」
「あとで生産科で鑑定してもらうつもりだけど、この色はたぶん解毒ポーションよ」
解毒ポーションの相場は三千円らしい。
黒の魔石よりはいいよね。
「よし、私も二個目……グヌヌヌヌ、また黒の魔石だ」
二回連続ハズレ。
「リアルで『グヌヌヌヌっ』てはじめて聞いたわ。あ、うちは今度は白の魔石や」
「私は薬ですね。これは回復薬でしょうか? 昨日、てんしばダンジョンで貰ったものと同じですね」
「こっちは指輪……? 魔道具かしら? 大した効果はないと思うけれど、これも鑑定する必要があるわね」
スミレちゃんの回復薬は値段は高くない。黒の魔石と同じくらい。
たとえ、特別な力がなくても、サイズフリーのダンジョン産の指輪はそれだけで価値があるから、きっとお高いんだと思う。
「こうなったら、神頼み! 吉野の脳天さん、どうか力を貸してください」
「脳天さん?」
「脳天大神様! 首から上の願い事にご利益があるの! 高校受験も脳天さんにお願いして合格できたんだから」
首から上だと、頭の病気とかって思われるけれど、むしろ入試合格や学力向上のご利益を前面に押し出してる気がする。
「首から上のご利益でしたら、今回は意味がないのでは?」
「そんなことないよ。ダンジョン配信の配信者の人気って八割は顔と喋りで決まる。どっちも首から上でしょ? だから配信クリスタルが出るかもしれない。それに経験したことって脳に蓄えられるから、経験値薬が出るかもしれないよ!」
「こじつけやなぁ」
「さっさと開けなさい。本当に先生が来るまでに終わらないわよ」
鏡さんが急かしてくるので、私はトレジャーボックスの蓋に手を掛けた。
この手応えは!
来る、来るよ、この波動!
間違いない、大当たりの――
「黒の魔石が二個入ってましたね」
「当たりが出たらもう一個やな」
「実際、トレジャーボックスの中身の三割は黒の魔石らしいわよ。ほら、私も出たし」
鏡さんが開けたトレジャーボックスには黒の魔石が入っていたけれど、それでも鏡さんは二回当たりを引いている。
三回連続黒の魔石は辛いよ。
「山本さん、気を落とさないでください。次はいいものが出ます」
「スミレちゃん! そうだよね、ありがとう」
「三度目の正直もハズレやったけどな」
ゆかりんに言われて私は落ち込んだ。
スミレちゃんが「由香里、そういうことは言わない方がいいです」って言ったけど。
でも、そうだよね。二度ある事は三度あるって言うし、三度あったら四度、五度と続くのかも。
期待しないで開けていこう。
先生が来たら終わっちゃうし。
「あれ? 青い魔石――ううん、魔石にしては丸い――それに動いて……」
魔石が動いてる?
そんな信じられない光景に目を奪われそうになった、その時だった。
「桃華ちゃん! それ! スライムやん!」
「え? えぇぇぇぇっ!?」
普通のスライムよりも遥かに小さい、ピンポン玉サイズのスライムは飛びあがり、ゆかりんに体当たりを――じゃなくて胸に飛び込んだ。
攻撃じゃなくて、懐いてる?
「……トレジャーボックスの中から魔物が出るなんて聞いてないよ」
私は呟いた。
「でも、D缶の中からドラゴンが生まれたという話は聞いたことがあります。去年もこれまで発見されていないトレジャーボックスの中身が発見されたという話はありますから、魔物が入っている可能性も」
「……D缶の中からドラゴン」
鏡さんが何かを考えるような仕草で小さく呟いた。
しかし――魔物か。
この大きさだと、倒しても経験値はあまり貰えそうにないなぁ。
「桃華ちゃん! この子、うちに譲ってくれへん!? トレジャーボックスから出たもん全部あげるから!」
「え!? えぇぇ、いや、そんなの悪いよ。それより、飼うの?」
「そりゃそうやん。うち、スライムを飼うの昔から夢やから」
ゆかりんのスライム愛は聞いていたけど、こんな小さいスライム……あ、でも小さいからカワイイか。
結局、ゆかりんが出した白の魔石と交換で、スライムはゆかりんに渡すことになった。
「よろしくな、ころりん」
「ころりん?」
「そや、コロコロしてるからころりんや」
ゆかりんにころりんか。
可愛い名前だな。
とスライムを見ていたら、先生が教室に入ってきた。
いつの間にか始業のベルが鳴っていたらしい。
「はい、ホームルームを始めますよ。それはトレジャーボックスですか? 開封はホームルームの後にしてください。それと明智さん、そのスライムみたいな玩具は鞄に入れてください」
「先生、これは玩具やのうて――」
とゆかりんが説明をしようとしたらころりんが机の上にジャンプした。
「本物のスライムです」
「……明智さん、いますぐ職員室に来なさい。そのスライムも連れて」
ホームルームは中止になり、ゆかりんは先生に連れていかれて職員室に向かった。
もしかして、学校にスライムを持ち込んだことで怒られたりしない……よね?




