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天王寺、あべのハルカスの近くに大阪で唯一の押野グループのホテルがあった。
そこのレストランに招待された。
ナイフやフォークやスプーンが何本もある。
なんで一回の食事にフォークが二本もあるのかわからない。
えっと、これって外側から使うんだっけ? 内側から使うんだっけ?
「別に私たちだけだからマナーとか気にしなくていいわよ。ベータたちもそういうのには疎いし、気にしないわ」
押野さんは砕けた口調で私たちに言ってくれた。
「あの、ベータさんたちともここで食事をしたりするんですか?」
「彼らとはレストランより部屋で食事をとることが多いわね」
部屋ってことはルームサービス?
流石にベータさんと二人っきり……ってことはないわね。
「最初に食べたのはラーメンだったわね」
ラーメンっ!?
え? ホテルなのにラーメンとかあるの!?
もしかして、押野さんの冗談なのかな?
「話は食事の後にしましょう。飲み物は何にする? ホテルのメニューはそれね。あと、それ以外にとっても美味しいぶどうジュースもあるわよ?」
「じゃあ、うちはぶどうジュースでお願いします」
「私もそれで」
「私も」
「私もぶどうジュースでお願いします」
みんなぶどうジュースを注文。
直ぐにワイングラスに入ったぶどうジュースが運ばれてくる。
氷は入っていない。
少しトロっとしている感じの濃厚そうなぶどうジュースだ。
果汁百パーセントかな?
一口飲む。
とても美味しい。
え? 美味しい以外の言葉が出てこない。
「とても美味しいです。完熟のぶどうをぎゅっと絞ったみたいで、果実の旨味と甘味が口いっぱいに広がってきます。でもただ甘いだけではなくて、後からくるほのかな酸味が絶妙なバランスを作っていますね」
鏡さんが的確に私が言いたかったことを伝えてくれた。
そう、それが言いたかったんだよ。
「喜んでもらえてうれしいわ。メニューにも出せないから、共有できる人が仲間以外にいないのよ」
「メニューにも出せないって、もしかしてとても貴重なものなんですか?」
「いいえ、このジュース、実は魔法の水筒から出しているのよ」
「魔法の水筒からっ!? でも、魔法の水筒って、魔石を入れたら水が出てくるアイテムですよね?」
「特別な魔法の水筒があるのよ」
へぇ、さすがトップレベルの探索者。
そういうアイテムも持っているんだ。
……あれ?
さっきからスミレちゃんの様子がおかしい。
とても美味しかったけど、口に合わなかったのかな?
最初に運ばれてきたのはパンとキノコの入っているサラダだった。
パンはちょっと硬めだけど美味しいな。
フォークはどっちを使ったらいいかわからなかったので、押野さんの方を見て、彼女が選んだフォークを使う。
さっきは美味しくジュースを飲めたけど、緊張するな。
これだとせっかくの料理の味も――え? なに、このキノコ? それに玉ねぎもとても美味しい。
私だけじゃなくてみんな驚いてる。
「どう? 美味しいでしょ」
「はい。特に玉ねぎとキノコが美味しいです。これもダンジョン産ですか?」
「ええ、そうよ」
やっぱり、ダンジョン産の食材は美味しいって聞いたけど、普通の食材とは全然違うんだ。
ダンジョン学園のダンジョンで手に入る食材って、今のところトカゲの尻尾くらいだもんね。
その後も美味しい食事に舌鼓を打った。
あまりの美味しさにマナーとかそういうのがどうでもよくなる。
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「どういたしまして」
「あの、押野さん。それで話ってなんでしょうか?」
「顔合わせが一番の目的ね。大阪のダンジョン学園のたった六人の生徒。そのうちの四人がうちのダンジョンを利用しているから。ダンプルがどういう意図であなたたち四人を選んだのかはわからないけど、将来有望そうなら唾を付けておきたいじゃない?」
「そのために? 私たち、まだ一年生だし、大学にも行くなら就職はだいぶ先になりますけど」
「あら? 私だって大学生だし、ベータたちもまだ高校生よ。それに、あなたたちの同じ学年の胡桃里さんは既にうちと正式に雇用関係を結んでいるわ」
あ、そうだった。
花蓮ちゃんがダンプル学園長の紹介で働きに行った場所が、偶然にもEPO法人天下無双専属の鍛冶師さんのところで、最初はアルバイトだったのにあっという間に正社員(正しくは正会員らしいけど)になっちゃったんだった。
「それに、あながち無関係ってわけじゃないしね。うちで雇ってる探索者の身内があなたたちの中にいるわけだし」
「え?」
私たちの身内の中に天下無双で探索者として働いている人がいるって本当に!?
でも、私と鏡さんは一人っ子だし、ゆかりんは双子の妹がいたそうだけど既にこの世にはいない。
あとはスミレちゃんのお姉ちゃん……え? そういえば、スミレちゃんのお姉さんって高校三年生で探索者をしているって言っていた。
もしかして――
私はスミレちゃんの方を見た。
彼女も息をのむ。
そして、押野さんはスミレちゃんの方――ではなく、鏡さんの方を見て言った。
「神楽坂鏡さん。貴方のお父さん、うちでいま働いているわよ」
「――っ!?」
そう言われて、鏡さんの表情が強張った。
え? 鏡さんのお父さんがっ!?
「その様子だと知らなかったのね。まだ体調が優れないから雇用契約を結んだだけで、本格的に探索者として戦えるのはこれからになるけど。一度会ってみたら? 手配するわよ」
「すみません。父とはまだ――」
「そう。気が変わったらいつでも言って」
押野さんはそう言ってから、私たちにジュースのおかわりを勧めてくれた。
私たちはありがたくそれを頂く。
でも、鏡さんのお父さんって何者なんだろ? 探索者だって聞いていたけど。
それでも、天下無双で雇ってもらえる探索者――うぅ、気になるよ。
それに、なんだかスミレちゃんの様子もおかしいみたいだし。
美味しくて実りがあったけれど、しかし疑問を残す食事会は幕を閉じた。
スミレ「お姉ちゃん、今日チーム救世主の押野さんに出会って、一緒に食事をしたんだけど」
アヤメ「そうなんだ、凄いね」
スミレ「そこで飲んだぶどうジュースの味、お姉ちゃんがいつも友だちから貰ってくる自家製ぶどうジュースの味がするんだけど」
アヤメ「え!?」
スミレ「どういうことだと思う?」
アヤメ「それは……」
スミレ「やっぱり、私って味音痴なのかな……」




