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てんしばダンジョンの五階層に来た。
「……ここが約束の地」
私は感動して手を握った。
「約束の地ってなんなん?」
「チーム救世主がこの場所で結成されたのよ」
私の代わりに鏡さんがゆかりんの質問に答えた。
アルファさん執筆の自伝に書かれている。
チーム救世主の初期メンバーであるベータさんとガンマさんが探索しているときにアルファさんとここで運命の出会いをし、チームを結成した――というのはチーム救世主ファンとしては当然の知識だ。
ということは――
「もしかして、鏡さんってチーム救世主の隠れオタクなん?」
「尊敬はしてるわ。彼らのような探索者になりたいと思って色々と調べている。三人が初めてここに来てキューブを狩ったときは、アルファさんはその目にもとまらぬ早業で、ベータさんはその類まれなる幸運値で、ガンマさんは比肩するもののいない魔法の才能で、山のようにトレジャーボックスを手に入れたって自著伝『光の階段、始まりのエレガンス』に書いてあったわね」
「待って、鏡さん! 私、そこまで読んでいないから! ネタバレやめて!」
「あら、そうだったの? だからキューブのことも知らなかったのね」
うん、新人探索者の自著伝としては異例の三十万部突破(電子書籍込み)の大ベストセラーだからね。初版本が発売直後直ぐに売り切れて、私の手元に届いたのはつい最近のことだからまだ序盤部分しか読めていないんだけど、さすが鏡さんはちゃんと読んでるんだね。
「え? でも……チーム救世主が結成されたんって、確か夏休み前やんな」
「夏休み前じゃなくて五月のことだよ」
「……五月って……確かベータさんとガンマさんは四月生まれだから、探索者として戦っていた期間は私たちと変わらないわけですが、本当にそこまでの実力があったのでしょうか?」
「うちもチーム救世主のことは好きやけど、それはちょっと懐疑的やなぁ。ああいう自著伝って、少し大袈裟に書いたりするものやし」
ゆかりんとスミレちゃんは少し懐疑的な様子だ。
だったら――
「同じ探索者歴一ヶ月の私たちが、チーム救世主の皆さんと同じようにトレジャーボックスを山盛りに手に入れたらあの自著伝が真実だったということになるんだよね! 頑張るよ!」
「今の私たちならリザードマンやゴブリンに負けることはないわ。全員でキューブ狩り対決をしましょうか」
鏡さんがそういう提案をしてくる。
「おもしろそうやね」
「私はどちらでもいいですよ」
ゆかりんは賛成、スミレちゃんはどちらでもいいという感じ。
怪我をする可能性もあるダンジョンにしては緊張感の欠ける話だけど、でも私たちのレベルは十分に安全マージンを満たしている。
回復薬も持っているし、危険はほとんどないと言ってもいい。
つい最近までの私だったらそれでも怖かっただろうけれど、覚醒者になった私ならば――
「うん、やるよ! キューブ狩り対決!」
「じゃあ、これ。みんなの分の地図よ」
鏡さんが私たちに紙に書かれた地図を配ってくれる。
地図にはいろいろと書きこまれている。
「この階層の地図よ。キューブを追い込むのに適した場所が書かれているわ」
「これ、鏡さんが用意したの?」
「ええ。浅い階層の地図はダンジョン局のホームページからダウンロードできるわよ」
ダンジョン学園のダンジョンにそういうサービスはないから知らなかった。
だから、五階層に来るまで鏡さんは真っすぐ来られたんだ。
地図を見ている様子はなかったから、全部暗記してきたのだろう。
さすが鏡さんだ。
でも、ここまで用意周到なところを見ると、つい考えてしまう。
もしかして――
「もしかして、神楽坂さん。今日のてんしばダンジョンの探索、とっても楽しみにしていたんですか?」
スミレちゃんが私の考えていたことをそのまま尋ねた。
「…………そんなことないわよ。準備は探索者の基本ってだけ」
そっぽを向いてそう言った鏡さんは、少し照れているように見えた。
図星だったのかな?
鏡さんの意外な一面が見えたところで、キューブ狩り対決は幕を開けた。




