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私、山本桃華はダンジョン局にアルバイトにやってきた。
アルバイトの内容はとっても簡単。
なんと飴玉を舐めるだけ。
それで時給1200円という凄い話だ。
しかも運が良ければスキルを覚えるというから、受けない理由はない。
「花蓮も来れたらよかったのにね」
スミレちゃんが言う。
「胡桃里さんはアルバイトが忙しいって言っていたわ。仕事の日数も増やしているみたいだし、大丈夫かしら?」
普段は素っ気ない鏡さんも心配そうにしている。
やっぱり鏡さんはツンデレなんだよね。
でも、花蓮ちゃん、絶対アルバイト先の悪口は言わないんだよね。
むしろ褒めてる?
アルバイト先の二歳年上のお姉さんがとっても優しくて頼りになる先輩らしい。バイトリーダーさんかな?
そういえば、バイトリーダーウルフっていう狼がいるらしい。
前に、チーム救世主の皆さんが戦っているのを見たことがある。
あの時の皆さん、カッコよかったなぁ。
それはともかく、花蓮ちゃんのことだ。
「本城さん、花蓮ちゃんが来られなくて残念だったね」
「残念なことありませんわ! なんで私が残念がらないといけませんの?」
「そう言って、花蓮が来られないって聞いて肩を落としてたやないの」
ゆかりんの言う通り、本城さんはわかりやすくがっかりしてたもんね。
同じクラスメートなのにいつもアルバイトばかりで一緒に話ができないって言っていたから、きっと今日のアルバイトならいっぱい話せると思っていたんだと思う。
そうでなかったら、本城さんがアルバイトに来る必要がないもん。
「違いますわよ。私がアルバイトに来たのは、友だちのためではなく、そう、スキルですわ! スキルはお金を使えば覚えられるというものではありませんから!」
「スキルかぁ。でも、本当なのかな? 飴玉を舐めただけでスキルを覚えられるって」
今朝、月見里研究所が発表した論文で世間は少しパニックになった。
なんとダンジョンドロップの中にはスキル玉というとても珍しいアイテムが混ざっていて、それを最後まで舐め切ることでスキルを覚えることがあるという。
ただし、鑑定スキルを使ってもダンジョンドロップかスキル玉かは判別できないらしい。
私たちはその検証のために、アルバイトという形で呼ばれた。
私たちが選ばれたのは、ダンジョン局の生徒への支援の一環らしい。
「ようこそ、ダンジョン学園の生徒の皆さん。ダンジョン局の前原です。ではさっそく仕事の説明をしますのでついてきてください」
と少し疲れた感じの職員さんが私たちを職場に――あれ?
なんだか、周囲の職員さんたち全員しんどそうに見える。
「あの、皆さん、顔色が悪そうに見えるんですけど、大丈夫ですか?」
「うん、いまはちょっと仕事が立て込んでいて、みんな忙しいんだ。嬉しい悲鳴というやつだよ。もう悲鳴を出す元気もないけどね、ははっ」
「はぁ……」
どうやらダンジョン局の職員さんって公務員だけど大変みたいだ。
人員不足なのだろうか?
そう思いながら、部屋に案内される。
「じゃあ、仕事を説明するね。みんなに飴玉を出すから、それを絶対に噛まずに最後まで舐めて。それでステータスを確認して、新しいスキルを覚えていないか確認する」
「スキル玉については調べてきたのですが、ある程度小さくなったら呑み込んだらダメなんでしょうか?」
スミレちゃんが小さく手を挙げて尋ねた。
そうだよね。舐めて溶かすのが重要なら、呑み込んで胃で溶かしてもいいよね?
そう思ったけれど――
「呑み込むのもダメです」
前原さんが言った。
「スキル玉を発見した月見里研究所の発表によると、ゆっくりと唾液で溶かすくらいのペースで身体に馴染ませていくことで、身体への影響が少なくスキルを取得できるようになるそうです。なので、必ず最後まで舐め切ってください」
「わかりましたわ」
「本城さん、だいじょうぶ? 飴の舐め方わかる?」
「馬鹿にしないでくださいませ、明智さん。私、風邪を引いたとき、爺やからのど飴をもらったこともございますわ! 飴を舐めることにかけてはこの本城絆、決してあなたたちに負けませんわ」
飴食い競争じゃないんだから、飴を舐めるのに勝ちも負けもないと思うんだけどなぁ。
「では、どうぞ一つ目を口に入れてください」
みんなで目の前に出された飴を口に入れる。
あ、美味しい。
これ、ミルクティー味だ。
ダンジョンドロップって、市販の類似品もあるけれど、本物の方が美味しいよ。
いいのかな、こんな美味しい思いをしてバイト代まで貰えるなんて。
みんなもコロコロと口の中で飴玉を転がす。
なんか楽しそうだ。
そして、10分ほどかけて1個目の飴玉を舐め終えた。
「では、皆さんステータスを確認してください」
ステータスを確認する。
でも――
「スキル増えてないよ」
「うちもや」
「私もです」
「こちらも覚えていませんね」
「わたくしも覚えておりません」
どうやら全部ただのダンジョンドロップだったらしい。
「では、皆さん、二個目をお願いします」
二個目を舐めた。
あ、これはなんだろ? んー、ニンジン味かな?
これも美味しいよ。
・
・
・
「では、次17個目お願いします」
これ、思っていたより大変だ。
飴玉を早く溶かすために口の中を転がし続けるんだけど、顎や舌が疲れてきた。
あと、口の中の味覚が甘味で麻痺している。
もう、いま舐めている飴玉が何味かなんてわからない。
そしてなにより、全然スキルを覚えられない。
これまで5人全員で80個の飴を舐めているのに、1個も覚えていないのだ。
本当にスキル玉ってあるの?
私だけでなくみんなも辛そうだ。
そして、やっぱり17個目もスキルを覚えられなかった。
少し休憩して、虫歯予防のためにと用意してくれたうがい薬でうがいをし、水分補給をする。
「うぅ、ただの水のはずなのに甘いです。もうドロップ缶に入れなくてもドロップ缶のジュースが作れてしまいます」
「食べたくないのに舐めさせられる苦痛……わたくし、もう二度とフォアグラを食べませんわ」
「そんな宣言せんでもうちはフォアグラとか食べたことないんやけど。そろそろスキル覚えたいわ」
「飴玉を舐めるだけでスキルを覚える。そう都合のいいことはないということね」
みんな諦めムードだ。
ここはムードを作り続けて15年、ムードメーカーの私が場を和ますよ!
「あの、みんな。陀羅尼助を口の中にいれると、苦味で少し甘味がマシになるよ!」
と陀羅尼助を口の中に入れて言うが、みんな生暖かい目で見て何も言ってくれない。
あれ? いいアイデアだと思ったのに。
「皆さん、18個目ですが、この中に当たりがある可能性が高いです」
「あの、根拠はなんですか?」
「こちらの五個、チーム救世主のベータさんが選んでくださいました」
チーム救世主のベータさんっ!?
ベータさんといえば、幸運の尖端異常者で、その幸運値は世界随一とも言われています。
その人が選んだダンジョンドロップ。
憧れのベータさんが選んでくれたダンジョンドロップってだけでも値千金なのに、スキル玉である可能性が高いなんて。
みんな頷いて、そして18個目の飴玉を口に入れた。
甘い。
でも、あのベータさんが選んでくれたってだけで何百倍も美味しく感じる。
身体に力が漲っていく。
もしかして、これがスキルを覚えるってこと?
あぁ、そっか。
もう舐めているときから答えはあったんだ。
私、わかっちゃった!
絶対スキルを覚え――
「スキルを覚えましたわ!」
私のはハズレだった。
当たりを引いたのは本城さんだった。
でも、ハズレでよかったかな。
だって、スキルが基礎鞭術らしいから、一番本城さんに似合っていると思う。
※ ※ ※
その後、二十個までダンジョンドロップを舐めても、結局スキルは覚えられなかった。
確率一パーセントか。
ベータさんの力を借りてこの確率なんだから、本当はもっと低そうだ。
5時間のバイトで6000円貰った。
たぶん、飴玉を20個舐めるだけで6000円も貰えるなんて社会を舐めている! とか旨い事言う人がいるかもしれないけれど、個人的には大変な仕事だった。
でも、これで大変とか言っていられないよね。
だって、花蓮ちゃんの仕事はきっともっと大変だと思うから。
「ってことがあってね……あれ? どうしたの、花蓮ちゃん」
昨日のアルバイトの話を2組の教室でみんなで話していたら、花蓮ちゃんの表情が優れない。
「あの、あたし、昨日休憩中にバ先の先輩からダンジョンドロップを貰って二人で一個ずつ舐めたんっすけど」
「へぇ、花蓮ちゃんも舐めてたんだ」
「そうなんだ」
「それで、時短テクっていう便利なスキルを覚えちゃったんっすよね。先輩も持ってるスキルですごく便利で――」
え?
一個舐めただけでスキルを覚えた?
……え?
私、二十個舐めても一個も覚えられなかったのに。
みんなが白い目になる。
スキルを覚えられた本城さんも同じ目で花蓮ちゃんを見ている。
「あたしは悪くないっすよ。というか、時短テクを覚えても仕事の量が増えるだけで楽にならない――あの、みんなその目はやめてほしいっす!」
花蓮ちゃんは何も悪くない。
それはわかっているんだけど……なんだろう。
凄くズルいって思えるよ。




