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ダンがく~dungeon high school~  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中


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 突如として異世界からこの世界にやってきた謎の生命体ダンポン。

 彼によって、この世界のあちこちにダンジョンが作られた。

 ダンジョンの中では様々な物が見つかった。

 これまで人類が味わったことのない美食の数々。

 石油や天然ガスに変わる新しいエネルギーの魔石。

 どんな病気や怪我でも治すことができる幻の薬。

 その結果、日本の、いや、世界の常識が大きく変わったようで、実はあんまり変わっていなかったりする。

 相変わらず、太陽は東から昇るし、学校は普通にあるし、学校に遅刻したら怒られる。


 そんなかつての日本の日常と、かつての日本から見たら非日常が混在した世界になって十年が経過した九月のはじめ。

 通学路はまだ夏の余韻が残っていた。

 それでも早朝の風は爽やかで、木々の葉は微かにざわめき、太陽が東の生駒山の上から優しく顔をだしている。

 その静寂を切り裂くように私――山本桃華(やまもととうか)は食パンを手に持って通学路を走っていた。

 奈良の吉野から転校して初めての登校日。

 昨日は生まれて初めて一人でビジネスホテルに泊まり、緊張して眠れないからとダンジョン配信動画ばっかり見ていた結果、スマホの電池が切れてアラームが鳴らなくて、寝坊した。


 校門を通過し、下駄箱で上履きに履き替え、教室に向かおうとして、その場所が分からないことに気付いた。

 誰かに聞こうにも、他の生徒がどこにもいない。

 え? まだチャイム鳴ってないよね? なんで生徒がどこにもいないの?

 もしかして、もう遅刻してるの?


 と思っていたら、トイレから一人の少女が出てきた。

 銀色の短い髪をヘアバンドで纏めた女の子だ。

 私と同じ一年生だろうか?


「あ、あの!」


 声を掛けると彼女が振り返った。


「なに?」

「1年1組の教室ってどっちかわかりますか?」

「あっちに行けば直ぐに見つかるわ」


 彼女が廊下の先を指差して、私はお礼を言ってそちらに向かった。

 彼女の言う通り1年1組の教室は直ぐに見つかった。

 教室の前で深呼吸をする。

 人間、第一印象が大事だって、お婆ちゃんが言っていた。

 笑顔を作って、元気よく挨拶をしよう。


「はじめまして、山本桃華です! 奈良の吉野から転校してきました! 今日からよろしくお願いします!」


 と挨拶をする。

 ってあれ? クラスメートが二人しかいない?

 そして、二人が私を見てじっと固まっている。

 私、何かやっちゃった? 変なこと言っちゃった?


「なぁ、桃華ちゃん……」


 タレ目の優しそうなクラスメートが私に声を掛ける。


「は、はい」

「なんで手に食パンを持ってるん?」

「え?」


 あ……朝ご飯に食べるために食パンを持ってきたのはいいけれど、全然食べていなかったことを思い出す。


「朝ご飯です。焼く時間もなかったので、トーストではなく生の食パンです……あれ? パンだから火は通ってるはずだから、生の食パンって表現はおかしいのかな?」


 私はそう言って、生なのか生じゃないのかわからない食パンを食べます。


「どっちでもいいんちゃう? 生食用のボイル蟹とか生食用の茹ダコも売ってることやし――あ、うちは明智由香里(あけちゆかり)。ゆかりんって呼んで」

「もぐもぐ……ゆかりん、よろしくお願いします!」

「私は東スミレです。由香里とは前の高校の同級生です」

「スミレちゃん、よろしくお願いします……もぐもぐ」


 あぁ……同級生だけど、スミレさんはゆかりんさんのこと普通に名前で呼んでるんだ。

 ゆかりんはおっとりした感じの優しそうなウェーブのかかった髪の女の子。

 スミレちゃんは背の低いしっかり者のロングヘアの女の子です

 

「……ごくん」

「元気だねぇ。席はどこでもいい――って言っても前二つしか空いてないから、好きな方に座って」


 ゆかりんさんが温かい目で私を見ると、そう教えてくれました。

 左の席に座り、鞄から持ってきたものを出して確認します。


「筆記用具よし! ノートよし! 教科書よし! 携帯用警棒よし! お弁当よし! 体操服入れよし! タオルよし! 陀羅尼助(だらにすけ)よし!」

「そういうのって、普通家を出る前に確認するものじゃ……ダラニスケ?」

「朝寝坊しちゃって。でも、前日から準備をしていたので忘れ物はないはずです……あ! ハンカチ忘れた……痛恨の極み……」


 私はそう言って机に倒れ込んだ。

 越部駅近くのラ〇フで厳選に厳選を重ねて買ったウサギのハンカチ、今日お披露目の予定だったのに。


「このクラスって四人しかいないの?」

「そうみたいやね」

「1年1組は探索科で四人。1年2組は生産科で二人。一学年たったの六人だって」

「え!? こんな広い学校なのに!?」

「入学希望は全国から千人以上いたみたいです」


 スミレさんが教えてくれた。 

 入学希望者数が多いって言うのは聞いていたけど、そんなにいたなんて。

 そして、六人しか合格していないなんて知らなかった。


「もしかして、二人ともかなり凄い人?」

「それって、自分のことも凄い人って思っているみたいやで。まぁ、凄いって言ったら、生産科にはトヨハツ探索のところのお嬢様がいるみたいやけど」


 とゆかりんが扉を見る。

 すると、入ってきたのは、さっき私に教室の場所を教えてくれた女の子だった。

 彼女は私の隣の席に鞄を置いて、椅子に座る。

 同じクラスだったんだ。


「あの、さっきはありがとうございました。山本桃華です。これから三年間お願いします」

「神楽坂鏡よ。よろしくね」


 彼女は抑揚のない声でそう言ってくれた。

 やっぱり綺麗な人だな。


「あの、さっきはありがとうございました」

「それはもう聞いたわ」

「鏡さんは……覚醒者なんですか?」


 覚醒者っていうのは、だいたい私たちくらいの年齢の人が突然魔力に目覚めた状態の人のことをいう。そういう人たちはたいてい、鏡さんのように髪の色が変わってしまう。

 もしかしたら地毛かもしれないし、染めているだけかもしれないけど、念のために尋ねた。


「ええ、そうよ。光の覚醒者ね――あの人と同じで忌々しい髪よ……」


 鏡さんはそう言って顔を顰めた。

 あの人って誰のことだろう?

 と思ったら、ジャージを着ている若い女の先生が入ってきた。


「はい、みなさん集まってますね。今日から皆さんの担任になる紅茉留くれないまつるです。では、さっそく移動しますので、学校案内にあった体操服と特殊警棒を持ってついてきてください。忘れてる人はいませんね」


 先生がそう言うと、全員が鞄から特殊警棒を取り出す。

 やっぱり、全員ちゃんと持ってきてるんだ。

 でも、特殊警棒が必要ってもしかして――


「では、始業式の前に、みんなでダンジョンに行こうと思います。皆さんにとっては初めてのダンジョン探索だと思いますが、危険はありませんので緊張せずについてきてください」


 やっぱりそうだ。

 それにしても、始業式より前にダンジョンって、やっぱりこの学校は凄いと思う

 さすが、日本でも僅か二つしかないダンジョン学園だ。

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