18:あいつ、爆発するらしいぜ
『何が正解か誰にもわからない、そんな世界を突き進む勇気が私にもあるだろうか?』
★
「どうする? あそこを通らないとゴーストロッドのある部屋にはたどり着けないぞ?」
ラルフがリアの顔を見た。
「そうだな……」
「周りには誰もいなそうだよ? 今ならあの人だけなんとかすれば行けるかも」
口元に手を添えて考える素振りを見せるリアと強行突破を提案するステラ。
ラプラスは黙ってその様子を見ている。
リアの判断に従うつもりなのだろう。
(そうか、そういうことか。強行突破しようとしたんだな、たぶん。)
その様子を見ながら、ユウは前回のループで何があったのかを想像した。
周囲を見渡しても敵の姿は見当たらない。
てっきりブレッド達の時と同じように奇襲されてやられたのかと思ったが、おそらくはこちらから仕掛けて返り討ちにあったのだろう。
(ロトがいないから厳しいのか。)
ここからサントスの立っている場所までには、まだ少し距離がある。
だからこそこうして小声で話していられるわけだが、この位置から奇襲を仕掛けるのは難しいだろう。
魔法を使うのは目立ち過ぎるし、近距離からの攻撃は近づく前に見つかってしまう。
ロトがいたなら静かに射殺すこともできたかもしれない。
(いや……、ロトでも無理かもな。)
前回のループでサントスが何度も魔法をかわしていたのを思い出した。
弓矢でも結果は同じかもしれない。
ユウがそんなことを考えている間にもリア達はどうするかを話し合っている。
奇襲を仕掛ける点では既に意見は一致していて、具体的な手順を相談していた。
しかし彼女達はまだサントスの強さを知らない。
前回のループではユウがブレッド達と一緒に戦って手も足も出なかった。
直接確認したわけではないとはいえ、おそらくステラ達も内容は同じようなものだったに違いない。
このまま仕掛けたところで、勝ち目があるとは到底思えなかった。
「あのさ。」
ユウが小声で手を挙げた。
何か案があるのかと、他の四人が一斉にユウを見る。
「俺が囮になるよ。」
「……囮?」
リアが『何を言っているんだ、お前は』と言いたそうな目でユウを見た。
「あ、そうか。一人があいつをおびき寄せて、そこを襲えば……」
ラルフがユウの言葉を成功させるための手段として解釈した。
「いや、アイツは襲わない方がいい。」
だがユウはラルフの言葉を遮り、自分の魔法袋から女神教のプレートを取り出した。
昼間の男から奪っておいた物だ。
女神教の紋章の方をステラ達に見せる。
「実は……、昼間に女神教の奴からあいつの情報を聞き出したんだ。」
――もちろん嘘だ。
(どうしよう。咄嗟に言っちまったけど、この後なんて言ったらいい? 困ったぜ……。)
平均水準に達しているかも怪しい脳みそをフル回転させて、この後に続くそれっぽい理由を考える。
「アイナと買い物に言っている間にか? それでここを通るのに反対していたんだな。だが、どうして黙っていたんだ?」
そのことを知っていれば、ユウの提案通りにこのルートは使わなかったとリアは暗に仄めかした。
「そうだよ。言ってくれればよかったのに」
「それは……、ごめん。」
ステラに言われると弱い。
ユウはつい謝ってしまった。
「でも、俺だって信じてなかったんだよ。一応は敵側の言うことだったからさ、逆に罠なんじゃないかと思って。」
「……それもそうだな」
今まで黙っていたラプラスが口を開いた。
本人としてはユウへの助け舟のつもりでの発言だ。
そしてそれは実際に意図通りの役割を果たした。
「……まあいい。それで? あいつの情報というのはなんなんだ?」
リアは頭の中を切り替えて話を進めることにした。
実際、ここに長居するわけにいかないのは事実だ。
(どうするどうするどうする! なんて言えばそれっぽい? 実は魔王だった? だから何だよ! 実は味方だった? んなわけねえよ!)
冷静な顔を装いながらも、ユウの背中は嫌な汗でダラダラだ。
(はっ、そうだ!)
ユウは自分の言葉を待つステラ達を見て思わせぶりな表情を作り直すと、出来立てほやほやの嘘を口にした。
「あいつ、殺すと爆発するんだ。」
「……へ?」
「ば、爆発?」
予想外の答えにラルフとステラが目を丸くしていた。
リアとラプラスも戸惑いの表情を浮かべながら互いの顔を見合わせた。
「アスクでメインアジトを爆破されたりしただろ? あれの正体は人間を爆弾に変える魔法なんだ。そしてあいつにもその魔法が掛けられてる。」
ユウは真面目な顔を取り繕って言葉を続けた。
どこからボロが出るかと内心では冷や汗モノだ。
「そう、なのか? 特に魔力は感じなかったが……」
リアも一応は魔法使いなので、敵を見る際は魔法の付与を受けていないかどうかはちゃんと確認している。
先程のサントスを見た時にはそんなものは特に感じ取れなかった。
「特殊な魔法だからわからないらしいんだ。ホーリーウインドの中でも狂信者中の狂信者だけが使うらしい。」
「でも……。じゃあどうしたらいいの? 生け捕り?」
ステラはあくまでもサントスと戦うことを前提に話を考えている。
しかしそれではマズい。
「あいつが自分で舌でも噛み切ればそれで終わりさ。」
「でも、向こうだってここで爆発は起こしたくないんじゃないか? 一応は女神教の本拠地なわけだろ?」
ラルフが予想外に鋭かった。
リアは念のためにもう一度サントスの様子を見て、魔力が感じられないことを確認している。
「どうしようもなくなったらやるさ。 そういう奴らだっていうのは知ってるだろ?」
「まあな」
どうやらラルフはそれで納得したらしい。
「で? 具体的にどうすればいい?」
リアもまだ少し首を傾げていたが、ユウの話を受け入れることにしたようだ。
彼女がそうした以上、忠犬ラプラスに関しては言及する必要もない。
「俺が囮になってあいつを引っ張り出す。その間に先に進んでくれ。俺はあいつを撒いてから追いかけるよ。」
「……いいのか?」
「そうだよ。別にユウくんが一人で囮になんかならなくたって……」
リアはユウに確認の視線を向けた。
パーティが先に進むために犠牲になると言っているようなものだ。
自分を心配してくれる彼女の言葉を、ユウは心地よく感じだ。
「別に死にに行くわけじゃないんだし、今はそれが一番確実なんだ、そうしよう。」
(……ステラが助かるなら喜んでやるさ。)
「わかった。……死ぬんじゃないぞ?」
「わかってるよ。」
「そんな……。でも……」
リアの言葉に頷いたユウ。
だがステラだけはまだその作戦に納得していないらしい。
「大丈夫だって。絶対に後から追いつくからさ。」
「……うん」
ここでユウが殺された場合は再び死に戻りが発生することになるので、生還は必須である。
ユウは一度深呼吸をした。
「よし、それじゃあ早速やるか。」




