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12:セールストーク

『君の正当性に興味があるのは君自身だけだ』



 斬られた男の体から鮮血が飛び散る。

 だが今回も死に至らしめるところまではいかなかったようで、男は苦悶の表情と共に地面に倒れこんだ。


「動くな。」


 うつ伏せになった男の首に水の剣を添えて耳元で呟く。

 まだ襲撃者の姿を碌に確認できていない男の顔はすでに青ざめていた。


「な、なんだ、追剥か? 金なら出す! だから助けてくれ!」


 女神教の割には情けない。 

 それがユウの感想だ。

 これがモンドやアスクの街で戦った連中、それにゴーストロッドのあった部屋にいたと連中と同じ所属とはとても思えない。

 

(いや、ちょっと待てよ?)


 ユウは自分の考えを否定した。

 これは演技なのではないかと。


(そんな奴がいつでも自殺できる準備なんてしてるわけないよな。)


 男が腰に付けていた魔法袋に手を突っ込み、例の身分証を探す。


「何をする! やっぱり追剥か?!」


「ユ、ユウさん?」


 背後の出来事に気が付いたアイナが、不安そうな顔で恐る恐る近づいて来た。

 どちらかというと尾行していた男よりもユウの方に恐怖を感じている様子だ。

 アイナの呼びかけを無視して袋の中を漁り続けるユウ。

 傍目に見れば、確かに追剥に見えなくもない。

 男もアイナの存在に気が付いた。 


「……あった。」


 白地に青。

 そして女神教の紋章。

 ユウは男が女神教の人間であることを示す金属プレートを見つけると、それを男の目の前に放り投げた。

 

「お前、女神教だな?」


 そう追及された途端、男の顔が青ざめた。

 まるで救いを求めるような視線でアイナを見る。


「変な真似をすれば命は助けてやる。大人しく――。」


 できれば殺さずに生け捕りにしてアジトまで連れて帰りたい。

 そう思ったユウの言葉が終わるより早く、男は口の中を動かして顎を噛みしめた。

 カリッという小さな音がユウの耳に届く。


(こいつ、またやりやがった……。)


 人の話も聞かずに突っ走る。

 ある意味ではユウの中の女神教のイメージ通りの行動ではある。


「え、やだ……」


 白目を剥いて口から泡をふき始めた男を見て、今度はアイナの顔が青ざめた。

 

「またかダメか。」


 ユウは男が大きく痙攣してから動かなくなったのを確認して剣を収める。


「死んじゃったんですか?」


「ああ。」


「なんで急に……? だって、別に今死ななくたって……」


 アイナはわけがわからないといった様子だ。

 だがそれに関してはユウも彼女と同じ感想を抱いていた。 


(アイナの言う通りだ。いくら何でも、女神教だってばれてから死ぬまでが潔すぎる。)


 それが女神教というものだと言われたら納得するしかない。

 

「とりあえず死体を隠そう。ちょっと手伝ってもらってもいい?」


「え?! 私がですか? ……わかりました」


 アイナは一瞬躊躇う素振りを見せたが、すぐに観念したのか頷いた。

 二人でまだ体温の残っている男を引きずって建物の間まで運ぶ。

 場所は前回のループの時と同じだ。

 そして近くにあった布も同じように被せ、地面を引きずった痕跡が目立たないように足で消した。


「行こうか。」


 ユウは来た方向に向けて歩き出した。


(これで大聖堂は前回と同じ状態になるはず。後はあの見えない敵をどうするかだな。)


 頭の中は既に今夜のことを考え始めている。


「あ、あの、ユウさん!」


「ん?」


 ユウは背後からのアイナの声で思考を中断された。

 何かと思って振り向くと、アイナはさっきの場所に立ち止まったまま少し顔を赤くしていた。

 その理由がわからなかったので彼女の次の言葉を待つ。


「私、まだお花摘みに行ってなくて……」


「あ……。ごめん、忘れてた。」


 そういえばまだそれが残っていたと思い出して、ユウはアイナが元々向かっていた方向に改めて歩き出した。

 アイナと並んで歩く。

 人のいないところを抜け、再び人通りの多い道に出た。

 道の両端には露店が並んでいる。


「じゃあちょっと行ってきますね。ユウさんはここで待っててください」


 アイナが御手洗いの方向を指差して歩いていくのを見送ってから、ユウは道の端に立って周辺の様子を適当に眺め始めた。 


(五分ぐらいだっけ?)


 確か前回はそれぐらいの時間で戻ってきたはずだ。

 順番待ちがあればもう少しかかるかもしれない。


(さて、どうするか……。)


 やはり考えるのは今夜のことだ。

 前回のループでユウ達を殺した敵。

 あれへの対処をどうするべきか……。


 ユウは考え事をしながら、何気無くすぐ横に並べられた商品に視線を向けた。

 地面に敷かれた厚めの布の上には、用途がよくわからないものばかり並んでいる。

 その中で、カゴに積まれた白い玉に目を止めた。

 掌ほどの大きさのそれの表面は細い紐が巻かれて作られていて、そこから一本だけが生えたように伸びている。

 

(なんだこれ? 煙幕玉……?)


 煙幕玉と書かれた値札には一つ三百ジンと書いてある。


「おや兄さん。そいつに興味があるのかい?」


 布の上に座って置物のように動かなかった爺さんがユウに気が付いた。

 

(生きてたのか……。)

「ええ、まあ。見たことなかったんで。何かなーと思って。」


「ああ、そいつは煙幕玉じゃよ。猛獣に追いかけられた時に目くらましに使うんじゃ。ほれ、紐がひとつだけ伸びとるじゃろ? この紐を引き抜いて地面に叩きつけると破裂して煙が出るんじゃ。そしたら獣が目と鼻を塞がれとる間に逃げるんじゃよ」


 爺さんがヨボヨボの体を動かしながら身振り手振りでセールストークを繰り広げる。


「目と鼻を……。これは使えるか?」


 ユウは爺さんから煙幕玉を三個買って魔法袋に入れた。  

 アイナが戻ってくるのを待って、今度こそ帰路に付く。

 帰り道はもちろん前回と同じ。

 あの男の死体がある場所など通るわけがない。


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俺の本物を殺しに行く

メインヒロイン()・・・_(  ´・-・)_
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