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8:お花摘みって最初に考えた奴誰だよ

『その愚かさが君の限界を示している』



 ユウは目を覚ました。

 視界の先にはエル・グリーゼの面々がいる。

 直後にアイナの声が聞こえてきた。


「とりあえず、今晩が勝負なのは間違いないんですよね? それじゃあ、お昼と夜は力の付きそうなもの作りますね!」


 その言葉で、ユウは自分がどの時点まで戻ったのかを理解した。


(当日の昼前……。思ったより戻らなかったな。)


 死に戻りで戻る時間が少ないということは、それだけ打てる手が少なくなるということを意味している。


(今は十時ぐらいか。)


 大聖堂で戦ったのは確か深夜の一時頃だったと思い出す。

 つまり今から約一五時間後だ。

 それまでに戦力差四倍のあの状況を突破する手を打ち切らなければならない。


(そもそも、なんであんなことになったんだ? どう考えても待ち伏せだったぞ。)


 まさか毎晩あの人数で守っているわけでもあるまい。

 となると、今晩ユウ達が潜入することを予め知っていたことになる。

 

(いや、ちょっと待て。おかしいだろ。俺達ですら知ったのは今日の朝だぞ?)


 つまり今さっきということだ。

 仮に潜入の情報が何処かから漏れたのだとすると、これから夜までの間ということになる。

 

(なんだ? 何が理由で――。)


 ミーティングを終えてメンバーが出て行く部屋の中で、ユウの視界にアイナが入った。


(まさか……。)


 彼女の姿を見たユウは一つの可能性を思いつく。


「なあアイナ、買い物って一人で行くのか?」


「はい、そのつもりですけど……。なんでですか?」


 アイナは何か問題があるのかと聞きたそうな顔でユウを見た。

 ……かわいい。 


「いや、一人だと大変かと思ってさ。よかったら手伝うよ。」


「え、いいんですか? だって……、ユウさんも今夜行くんですよね?」


 彼女の反応ももっともだ。

 万全を期すという意味では、今は休んでおくのが正解だろう。

 

「お昼食べたら休もうと思ってさ。それまで時間あるし。」


「はあ……。じゃあお願いします」


 アイナは渋々といった様子で受け入れた。

 実際、ユウに手伝えることがあるのかといえば難しいところだ。

 魔法袋があれば荷物持ちは不要だし、買う食材の選別もアイナに任せた方がいいだろう。


「じゃあ、早速行きましょうか。ゆっくりしてるとお昼になっちゃいますし」


 そう言ってアイナも部屋を出て行く。

 ユウもそれについていった。

 部屋に残っているのはブレッドとソフィアの二人だけだ。


「……アイナに乗り換えたのかしら?」


「さあな」


 

「うーん、王都はお肉が高いなあ……」


「そうなの?」


 ユウはアイナと一緒に棚に並んだ肉を覗き込んだ。

 この世界で肉を買ったことがないユウには相場がわからない。


「そうですよ? だいたいアスクの二割ぐらい、こっちの牛肉なんて三割も高いです」


「そうなんだ……。」


 女子力、いや、ここでは主婦力というべきか。

 アイナのシビアな一面を見たユウは威圧感を感じた。

 流石に普段の食費の管理も早々に任されているだけの事はある。 


(戦闘要員としては俺以下でも、こっちは中々……。)


 戦闘要員としてもサポート要員としても微妙なユウ。

 少なくともサポート要員としては優秀なアイナ。

 ということはつまり――。


(マジでいらない子は俺だけか……。)


 ――ということになる。


「はあ……。」


 ユウは素で肩を落とした。


「……? どうしたんですか?」


「いや、俺だけ全然役に立ってないなと思ってさ。アイナだって俺よりも後に入ったのに、普段の食事とかもうほとんど任されてるし。」  


「そんなことないですよ。だって、私を助け出してくれたのはユウさんじゃないですか」


 アイナがユウに微笑む。

 

「私、あの時はもうダメだと思って諦めかけてたんですよ? 実際、ユウさんに助けて貰えなかったらどうなってたかわかりませんし」


 あのまま生贄としてU&Bに捕まったままだったら。

 彼女にとって、それはあくまでも仮定の話でしかない。

 だがユウは知っている。

 助け出されなかった場合に彼女がどんな運命を辿るのか。

 だからこそ、その言葉をリアリティを持って受け入れることができた。


「あれは、単に役割分担っていうか……。俺が戦えなかったから消去法でああなったようなもんだし……。」


「それでも、ですよ? 捕まって殺されそうになっていた私をユウさんが助けてくれた、私にとってはそれが全てですから」


「アイナ……。ありがとう。」


 目の前の少女の励ましに、ユウは目頭が熱くなった。

 別にこんなやり取りをするためにここまで付いてきたわけではないのだが、アイナにこう言ってもらえただけでも付いてきた価値はあったと思った。


「さっ、早く買い物を済ませて帰りましょう。きっとみんなお腹を空かせてますから」


「ああ、そうし――。」


 そうしよう。

 そう言おうとして言葉が止まった。


「……。今度はどうしたんですか?」

 

「いや、なんでもない。行こうか。」


「じゃあ、お肉買っちゃいますね。今日は奮発して牛肉です」


 アイナがグッと拳を握りしめる。

 彼女的にはとても大事なことのようだ。

 その後、他の材料も買って回っていく。

 事態が動いたのはその帰りだ。


「すみません、ちょっとお花摘みに行ってきていいですか?」


(お花摘み? ……ああ、トイレか。)


 そういう類のやり取りに慣れていないユウは反応が遅れた。


「俺はここで待ってるよ。」


「じゃあ、ちょっと行ってきますね」


 アイナの後ろ姿を見送った後、ユウはさり気なく周囲を確認した。


(さっきまで俺たちを尾けていた奴が見当たらない……。ってことはやっぱりアイナの方に行ったか。)


 ユウの考えた可能性はこれだ。

 彼女を尾行した敵がアジトを発見、監視を始める。

 そして夜になって出ていったのを見て中央教会に連絡、ゴーストロッドを狙っているのは明らかなので待ち伏せの体勢を整える。

 地下から侵入してゴーストロッドのある部屋まで行くのはかなり遠回りになるはずなので、普段から中央教会に出入りできる人間であればこれで十分間に合うはずだ。


(戦闘力じゃアイナは俺よりも下なんだ、尾行に気づかないのも無理はないか……。)


 サポート要員としての貢献度を考えれば、ここで彼女を責めるのはフェアではないように感じた。

 

(ここは俺がアイナを助けるところだろ。)


 ユウはアイナが向かった方向へと少し遅れて走り始めた。

  

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俺の本物を殺しに行く

メインヒロイン()・・・_(  ´・-・)_
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