4:魔族の宗教
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四人が街の南東にあるメインアジトに着くと、管理者の男が出迎えてくれた。
肩の力が抜けたロンゲのイケメンだ。
「来たか、お前達が最後だぜ?」
「また世話になる。よろしく頼む」
「ただいま、って、……どうしたの二人とも?」
「別に……。」
「別に……」
ステラがユウとラプラスを見て首を傾げる。
二人は楽しいひとときが終わってしまったと肩を落としていた。
ちなみにリアも顔がまだ少し赤い。
「まあ、とりあえず入れよ。俺はクルトだ、イルマと二人でこのアジトの面倒を見てる」
ユウはクルトの自己紹介が自分一人に向いているのだと少し遅れて気が付いた。
(そっか、俺とアイナ以外はもうみんな知り合いだもんな。)
「ユウ=トオタケです。よろしくお願いします。」
「おう、よろしくな。今アイナ達が買い物に行ってるし、もう少ししたらメシにできると思うぜ?」
時間はそろそろお昼時だ。
四人はクルトを入口の小さな部屋に残して建物の奥、地下へと続く階段を進んだ。
彼の話では、入口の部屋以外は全て地下にあるらしい。
(へんな物件だな。)
おかげで安く借りられたというから、その辺の評価は需要次第といったところだろう。
「お、やっと来たね。ちょうどステラ分が足りなくて困ってたトコさ」
階段を降りてきた四人に気が付いたイルマがさっそくステラを抱き寄せてなでなでし始めた。
ステラはステラで大人しくなでられている。
その様子を見て、やはり美少女二人というのは絵になるものだとユウは思った。
これが男同士だったら悲惨な光景になるだろう。
……一部の腐った女の子の皆様以外はノーサンキューのはずだ。
「アイナ達が買出しに出てるんだって? 何か手伝うことはあるか?」
「たぶんだいじょぶかなー。女子力高い子達がやってくれるみたいだしー?」
ラプラスの質問にイルマはステラ成分を補充しながら答えた。
そかし、それはつまり暗に自分は女子力が高くないと言っていることになる。
彼女に対するユウの印象もそんな感じだ。
(いいのかそれで……。)
たぶんいいんだろう。
あまりそういうのを気にする性格でもなさそうだ。
「うっへっへ、かわういやつめー」
「えへへ」
その後、イルマは周囲の視線を気にすることなく昼食までずっとステラをかわいがっていた。
ステラもずっと大人しくイルマにかわいがられていた。
本当にそれでいいのかお前達……。
★
王都に到着した日の夜。
幸いにして一人部屋を与えられたユウはベッドで再び本を読んでいた。
魔法袋に入れてしまえば重さを無視して持ち運べるので便利なものだ。
おかげで物置の類は需要は少なく、その分だけ狭くて低価格の住居の割合を増やす要因となっている。
『忘れられた神々』
ユウが手にしている本の表紙にはそう書かれている。
なんとも厨二病を発症しそうなタイトルだ。
(そもそも、こっちにも厨二病ってあるのか?)
神が存在するかどうか別として、少なくとも魔法が実在するこの世界の基準においては、これはおそらく普通のタイトルだろう。
(元の世界だって聖書とかが真面目な本扱いだったもんな。)
目次を見てみると、どうやら三大宗教以外で細々と信仰されている宗教や滅んでしまった宗教について書いてあるようだ。
邪魔な相手を排除する口実にしたり、知能の低い人間をコントロールしたりと、宗教は大変に便利なツールとして使われることが多い。
(ん? 魔族の宗教?)
ユウは魔族が信仰しているとされる宗教のページに辿り着いた。
『クアトラ教』
逆説的にではあるが、その宗教の存在はつまりこの世界に魔族が実在することを示している。
以前のループでアナスタシアの話に出てきた魔族。
それが実際に存在する可能性にユウは興味を引かれた。
どんな宗教なのかとページをめくってみる。
それこそ厨二病を発症しそうな勢いでだ。
早速読み進めてみてわかったのは、どうやらこちらも女神を信仰しているらしいということだ。
ただし、女神教が信仰する女神とは違う別の女神らしい。
女神教の女神が慈愛の神だとすれば、こちらは力と解放の女神だと書いてある。
てっきり黒魔術的でダークな内容かと思いきや、苦しむ魔族達に希望を与えようとする健全な思想らしい。
(あれ? でも前にアナスタシアが言っていたのと、なんか違うような……?)
彼女が話していた内容だと、確か異世界の邪神が送り込んだのが魔族だったはずだ。
ユウの中で両者のイメージがイマイチ噛み合わない。
単に女神教が他の宗教を悪く言っているだけだろうか?
(十分あり得る。宗教なんて自分勝手なもんだもんなぁ……。)
そんなことを考えながら読み進めているうちに、ユウの意識はいつの間にか闇に落ちていた。
……寝落ちというやつだ。
ユウが買った三冊の内、目を通した本はこれで二冊。
つまり一人用の娯楽を早くも三分の二消費してしまったことになる。
同じ本を繰り返し読むのも悪くはないが、やはり初回に比べれば刺激が少ないだろう。
そうすると、やはり残った娯楽の総量は読んでいない本の数にほぼ依存することになる。
最後の一冊はタイトルも何も記載されていない青表紙の本。
どのタイミングでこの最後の娯楽を使うのか。
それが一番の問題だった。




