38:初めてのU&B
『数の不利で揺さぶられる。そんな決意を本物とは言わない』
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「なんだこいつらっ……、強い!」
ラプラスが叫ぶ。
彼が打ち合っている敵は一人。
だが相手はラプラスだけでなく、リアも同時に相手にしていた。
先日アルトバで戦ったモンドよりも強いのではないかとラプラスは舌を巻く。
横で氷の魔法剣を振るリアも似たような感想を抱いていた。
この二人がU&Bと交戦するのはこれが初めてだ。
「気をつけて、甘い相手じゃないわ!」
ソフィアがラプラスの声に答える。
「はっ、お前らが弱すぎるだけなんじゃねーの?」
ラプラスと切り結んでいた男が笑う。
どうやら彼らの中でもこの男が一番の軽口らしい。
だが確かにその剣の動きにはラプラス達二人を相手にしてまだ余裕がある。
いや、この男だけではない。
U&Bの前方集団に仕掛けたのは六人。
ブレッド、ソフィア、リア、ラプラス、ジュリエッタ、クリスティ、そこにさらにアイナの護衛に回っているロトも遠距離から矢を放って援護に入っていた。
人数で言えばエル・グリーゼ側が有利なのだが、それでも押しきれない。
「もらい!」
「――! リア様!」
フェイントでラプラスの剣を受け流した敵は、そのまま攻撃すると見せかけて標的をリアに変えた。
「くっ!」
咄嗟に反応して突き出された剣をかわそうとするも、間に合いそうにない。
「エアニードル!」
「――! おっと!」
残り数センチで剣がリアの胸を貫こうかというタイミングで、十字路の向こうからステラの魔法が飛んできた。
男は攻撃を断念し、体を捻ってそれをかわした。
「む……、後ろはやられたか」
ブレッドの相手をしていた大鎌の男が後方集団の様子を確認する。
U&B側の男達は既に五人全員が地にひれ伏していた。
手が空いたステラ達がこちらに向かってきている。
「おいおい! いくらなんでも弱すぎじゃね?!」
「侮るな、俺達だけでやるぞ。……ヒートバウンド!」
ソフィアと魔法の応酬をしていた杖の男が、向かってるステラ達に向かって熱風を放った。
大量の土煙がステラ達の視界を覆う。
「集まって! ランドディフォメイション!」
ステラが魔法で土の防御壁を作る。
ナルヴィと影の薄い二人はその後ろに飛び込んだ。
「ナルヴィさん! ガーディアンフォース!」
さらに周囲をダリアの魔法壁が包み込む。
ブォォォォオオオオ!
熱波に晒された民家の壁が発火した。
他の攻撃魔法に比べれば威力が低いとはいえ、人間を殺すには十分な殺傷能力だ。
「ステラ!」
リアが叫ぶ。
だがステラ達の様子は土煙のせいで一切見えない。
もしかするとやられたのではないかという懸念が彼女の脳裏を掠めた。
「おいおい! こっちの相手もしてくれよ!」
「危ない!」
ギィン!
リアに迫った直剣の男をラプラスが止める。
その奥ではジュリエッタとクリスティが手斧の男と曲剣の男に壁際まで追い込まれていた。
「くっ、まだだ!」
「ちょっと! 待って待って!」
ある時はかわし、ある時は剣で受け止める。
二人共、必死に敵の攻撃を凌いでいた。
だがやられるのはもう時間の問題でしかない。
「させるか!」
バシュシュ!
ロトが二人を助けようと、敵に矢を一本ずつ射掛けた。
弓の付加効果は既に全て有効にしている。
「狙いは悪くない……、が」
「若いな、素直過ぎる」
二人共、造作もなく矢を叩き落とすと再び倉庫番コンビを追い込みにかかる。
ブレッドが援護に向かおうとするも、大鎌の男に阻まれた。
「お前の相手は俺だ。……逃さんよ」
「どけっ!」
突破を試みるブレッドだったが、離れればリーチのある大鎌で、近づけば体術主体に切り替えて攻撃してくる敵に対して攻めきれない。
斬りかかればかわされるか、あるいは大鎌の柄で防がれるか。
そうでなければ強烈な蹴りやタックルで後ろに吹き飛ばされる。
ボッ! ダンッ!
まだ収まる気配を見せない土煙の中から、ナルヴィが飛び出した。
どうやら熱波は無事に凌ぎきったらしく、火傷を負った様子はない。
煙から飛び出した直後に地面を一歩踏み込んで飛び跳ねると、さらに体を捻りながら横に一回転した。
その勢いのままイゴールに迫っていた曲剣の男に斜めの軌道から斧を振り下ろす。
ガキンッ!
男は彼女の全体重が乗った攻撃を剣の柄の部分で受け止めると、即座に剣を捻って受け流した。
その流れのままに逆に撫で斬りにしようと曲剣を振る。
「――ちっ」
斧の手応えが無くなったのを感じたナルヴィは、敵の攻撃に合わせてさらに体を回転させると、曲剣を持った敵の腕を蹴り飛ばした。
着地直後の一歩で距離を取る。
「ふん、やるな」
曲剣の男に焦りの色は見られない。
倉庫番コンビをもう一人の手斧の男に任せ、彼は冷静に標的をナルヴィへと変更した。
「エアニードル!」
「……甘い」
一度距離を取ったナルヴィを追撃しようとした曲剣の男に対し、続いて土煙から飛び出してきたステラが仕掛けた。
男は上体のみを動かして余裕綽々でそれをかわす。
ステラもそれを予想していたのか、一切立ち止まること無く突っ込んで剣を振った。
タイミングを合わせるようにナルヴィも動く。
曲剣の男から見て右からステラ、左からナルヴィが同時に攻撃を仕掛けた。
男は左手で腰の短剣を抜く。
ギィキィン!
激しい金属音と共に、左右からの攻撃をほぼ同時に受け止めた。
「こんっ、のぉ!」
ナルヴィが再び横回転して体重を乗せた一撃を繰り出そうとする。
ステラもまた素早く剣を突く。
「単調な攻め手だ」
男はステラの突きを回避するついでに、両足を踏み込んでナルヴィにショルダータックルを打ち込んだ。
「―ー!」
斧に体重を乗せていたせいで、踏み応えきれずにそのまま後ろに吹き飛ばされるナルヴィ。
男はさらに返す刀、いや、返す剣で間髪入れずステラに襲いかかった。




