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2:ワッフルは普通においしい

『さあ、運命を相手に一勝負しようじゃないか』



「と、いうわけで今日から俺達の仲間になるユウだ。よろしくな」


「ユウ=トオタケです。よろしくお願いします。」


 レジスタンス組織エル・グリーゼのリーダーの男、ブレッドがメンバーの前でユウを紹介した。

 この倉庫にいたのは全部で九人。

 全員が自己紹介をしてくれたがユウは全ての名前を覚えきれなかった。

 覚えられたのはとりあえず三人だけだ。


 まずはリーダーのブレッド。

 次にサブリーダーのソフィア。

 彼女は最初に会った六人の中で一番年上の金髪美人だ。

 そして……。


(あの黒……、褐色の子がナルヴィか。)


 ユウは黒いという表現を脳内で自重した。

 客観的に表現するならば黒というほど黒いわけではないのだが、ちょうど『日に焼けて黒くなった』という印象なので『黒い』と言ってしまいそうになる。

 とはいえ相手は女の子。

 肌の色を気にしているなら触れないほうがいいだろう。

 ナルヴィは不機嫌そうな顔で腕を組み、ユウから視線を逸らしていた。

 これはこれでかわいいから困る。

 

(別に黒でもいいんだけどな……。)


 ユウ個人としては黒い子もアリだ。

 どこぞの連中が『白人最高!』とかやってくれたおかげで、肌の色の話をすると人種差別だ何だのと下らない要素がついてきてしまうが、やはり本来は全色揃ってこそだ。

 白黒黄色、ついでに赤青緑に紫も。


(そういえばスライムっ娘っていうのもあったな。)


 じゃあシースルーもだ。

 髪の色と同様に色の違いを楽しむのがいいのだというのに、まったくあいつらは何もわかっていない。

 寿司だって色んなネタを楽しむのがいいんだろうに。

 ユウは一人でそんなことを考えていた。


「これからみんなで買出しに行こうとしてたんだ。ステラ達はどうする? 移動で疲れてるだろうし、別に休んでてもいいぞ?」


「わたしも手伝う」


「ステラが行くなら私達も行こう。荷物持ちは多いほうがいいからな」


 リアが親指でラプラスとユウを交互に指差す。

 彼女の言う『私達』というのはもちろん彼女自身にユウとラプラスを含めた三人のことだ。

 それを聞いたユウはステラと一緒に行動できそうなので安心した。

 ラプラスはもちろんだが、ユウもリアの従者として行動することになるため、彼女次第でステラと別行動になることも十分にありえるからだ。


「それじゃあソフィア達とロト達のところに二人ずつ入ってやってくれ。備蓄は余裕があったほうがいいだろうからな」


 リアとラプラスは金髪美人のソフィア達の担当する生活用品組に、ユウとステラは紫髪の少年達と同じ保存食の組に入ることになった。

 ちなみに弓矢を背負った紫髪の少年の名前はロトだ。


「……で、早速一緒になったわけね」


 若干のあきれが混じった顔でナルヴィがユウを見た。

 どうやら元々の保存食担当はロトとナルヴィの二人だったらしい。


「それを俺に言わないでくれませんナルヴィ先輩? 別に自分で決めたんじゃありませんし。」


「わかってるって。ていうか別に私のこと呼び捨てでいいよ。敬語も似合ってなくてキモいし。ほら、さっさといくよ?」


「お、おーらい……。」

(キモイって言われた……。)


 敬語が似合っていないと言われてショックを受けたユウを、ナルヴィが面倒そうに促す。

 先を歩いていたステラが振り返ってその様子をジト目で見ていた。

 一緒の歩いていたロトがそれに気が付く。


「どうしたんだステラ?」


「別に……」


「?」


 ナルヴィがそんな二人に合流した。


「……どうしたの?」


「別に」


 ナルヴィの問いに対してもそれだけ答えると、ステラは再び出口に向かって歩き始めた。

 そんな彼女の後姿を見て、ロトは頭の上に疑問符を浮かべて首を傾げている。

 ナルヴィも同様に頭の上に疑問符を浮かべて首を傾げた――、振りをしている。


(ふーん。そういうことね)


 彼女は内心で舌を出した。

 如何にもいたずらが好きそうな、心の中のもう一人の彼女自身がものすごく悪そうな顔をしている。


「俺達も行こうぜ?」


 ロトに促されてナルヴィもステラの後ろを歩き始めた。


(きもいって言われた……。元の世界でもそこまで言われたことないのに……。)


 ガラスのハートをナルヴィに砕かれたユウは、そのさらに後ろを付いていく。

 全員が一斉にアジトを出ると目立つので担当の組毎に少し時間をずらして出発した。

 ユウ達は三番目だ。

 前をロトとステラが、後ろをナルヴィとユウが並んで市場に向かう。

 何も知らない人が見ればダブルデートのように見えなくも無い。


(高そうな弓だな。)


 ユウは前を歩くロトが背負っている弓を見た。

 装飾が施された金属製の弓は、売れば結構な値段になりそうである。

 横を歩くナルヴィをちらりと見ると、彼女が背負っている斧も安物には見えないことに気がついた。

 そういえばステラが腰に差している剣もだ。


(俺のこの剣も分不相応ってほどじゃないのか?)


以前のループで会ったダーザインの使っていた剣が家宝レベル、それには及ばないかもしれないが三人の武器もきっと結構な値段のはずだ。


「どうしたの? 何か言いたいことでもあるわけ? あ、黒いって言うのはナシね」


 ナルヴィがユウの視線に気が付いた。


「いや、みんな良さそうな武器持ってるなと思って。」


「はぁ? 命掛かってるんだから当たり前でしょ? だいたい、あんただってすごい高そうな剣持ってるじゃない。……これいくらよ?」


 ナルヴィが不思議そうな顔でユウが腰に差した剣を覗き込む。

 これはアルドに貰った剣だ。

 レアリティは高いがそれに見合うだけの有用な特殊能力がない……、らしい。


「いくらだろう? もらい物だから正確にはわからないな。」


「え、こんなのくれる知り合いがいるわけ? あんたすごい人脈もってんのね」


 ナルヴィが目を丸くした。

 こういうところは素直にかわいいと思えるから不思議だ。


「人脈ってほどじゃないさ。森で迷ったときに助けてくれた人達に貰ったんだ。」


 ユウは森の迷宮で迷ったときのことをナルヴィ達に話した。


「ふーん。こっちの世界にもそういうのがあるのね」


「こっちの……?」


 ユウはステラがこの世界とは違う異世界出身であったことを思い出す。


「もしかしてナルヴィも別の世界の人なの?」


「私も、っていうかEGはみんなストラの出身よ」


「いーじー?」


「エル・グリーゼの略。ストラは私達の世界の名前ね」


 またナルヴィに何か言われるのではないかと内心で身構えたユウは肩透かしを食らって少し驚いた。

 案外普通に話ができる少女なのかしれない。


「私が子供の頃住んでたところの近くにも、入ったら二度と出てこられない森っていうのがあったわそういえば。……よく覚えてないけど」


「ふーん。」


 ナルヴィがなんとなく悲しそうな雰囲気を漂わせたのでユウはそれ以上聞くのを躊躇った。

 視線を泳がせて周りをみると、いつの間にかかなり人通りが多くなっている。


「でも……」


「ん?」


「リーンでそんな剣をポンとくれるなんてやっぱり金持ちかもね。ストラと違ってこっちは出物の数も少ないし、値段もかなり高いから」


「リーンって何?」


 再びユウの知らない単語がナルヴィの口から出てきた。

 今度は普通の調子で聞いてみる。


「この世界のこと。こっちはストラに比べていい武器が全然出回ってないのよ。たぶん平和で需要が少ないからあんまり作られてないんだろうけど。最初にこっちの武器屋を覗いたときはホントに目が飛び出るかと思ったわ。あんな値段じゃステラみたいなガチのお嬢様でもなきゃ買えないっての」


 有事の方が武器の需要はあるはずなのだが、彼女達の世界ではそれ以上に供給が多いのだろう。


「ふーん。」

(ステラってやっぱりお嬢様なのか。)


 貴族であるリアに友人扱いで迎えられている時点でなんとなくわかってはいたが、やはりといったところだ。


「ナルヴィの世界は平和じゃないの?」


「全然よ」


 ナルヴィが両方の手の平を上に向けて天を仰いだ。


「U&BとMAっていう、ストラでダントツにでかい二大陣営が全面戦争の真っ最中。おまけに私達みたいに巻き添え食らった人達が各地で抵抗してたりするから、正直どこにいってもゆっくりできないっての。世界中の観光スポットが壊滅した感じ?」


「大変なんだな。ユーアンドビーとかエムエーっていうのも何かの略称なのか?」


「そうだよ? U&Bはユニコーンアンドバイコーン、MAはムーンアルミラージの略ね。あれに比べたらこっちで女神教に喧嘩売るのなんて楽勝よ。戦力の桁が違うっての」


 そんな話をしていると、前を歩いていたロトとステラが立ち止まった。


「そろそろ市場だけど……。ユウくん、はぐれないでね?」


 振り向いたステラが保護者みたいなことを言う。

 ……実際に今はそれに近いのだが。

 上目遣いで心配する彼女にユウはドキリとした。


「イエスマム。とりあえず付いていったらいい?」


「イエス……?」


 ユウの返答の意味を掴みきれずにステラが首を傾げた。


「二手に分かれるか。ここは市場の北側だから、片方は東でドライフルーツ、もう片方は西で乾パンを買ってから南で合流して最後に干し肉を買って帰ろう」


 ロトがそれぞれの方向を指差す。


「じゃあ私は……」


 ユウくんと一緒に。

 ステラがそう言うより先にナルヴィがユウの手を取った。


「じゃあ私達は西に行くわ。ほら、いくよユウ」


「え?! おい引っ張るなって。」


 ナルヴィが強引にユウの手を引いていく。

 彼女の口元には若干意地悪そうな笑みが浮かんでいた。

 どう見ても確信犯だ。

 間違いなくわかっててやっている。


「え? ちょっと、ナルヴィ?!」


 ステラが追いすがろうとして手を伸ばしたところで二人が人混みに飲み込まれた。


「えっと、ステラ?」


「……大丈夫。なんでもない」


(ステラが怖い……)


 普段はのんびりとした雰囲気であるステラの声が明らかに座っていることにロトはビビりまくる。

 ユウ達と合流するまでの間、彼がステラの機嫌を伺いながら買出しをすることになった。



(さーて、これぐらいでいいかな?)


 ナルヴィはステラ達が見えなくなったのを確認してから、肩で息をするユウの手を離した。


「はぁ、はぁ、急になんだよ……。」


「なに? これくらいでもうへばったわけ? 体力無さすぎでしょアンタ」


「しょうがないだろ、普段はそんなに運動してないんだから」


 ユウの返事を聞いたナルヴィが怪訝な顔をする。


「……まさか、ホントに貴族でしたなんて言わないでしょうね?」


「残念ながら平民だよ。それで? 何買うんだっけ?」


「乾パン。それぐらい覚えときなさいよ。そんなんじゃステラは落とせないわよ?」


「――!!」


 ナルヴィの呆れ声にユウは心臓が止まりそうになる。


「べっ、べべべべ別に俺はステラのことなんてなんとも……。」


 もちろん嘘だ。

 ステラはユウが彼女にしたい女の子ランキング単独首位。

 ぶっちぎりの独走状態である。


「バレバレの嘘ついてどうすんのよ……」


 ナルヴィが横目でユウを見る。

 声だけでなく顔まで呆れた様子だ。


「言っとくけど、アンタがステラを落とすのはラプラスがリアを落とすより難しいわよ?」


「え? なんで?」


 ナルヴィが腕を組んで横目のままでユウを見上げる。

 身長はユウの方が高い。


「そりゃあステラはいいとこのお嬢様だからねぇ……。社会的ステータス皆無のアンタが釣り合うと思う?」


「そ、それは……。でもほら、やっぱり本人の気持ちが一番大事だし……。」


「ラプラスは本人が結構やり手だからまだ可能性あるけど、見るからにポンコツのアンタじゃねぇ……」


「う……。」


 ナルヴィの視線が横に流れる。

 そこにワッフルの屋台があるのを確認すると、彼女は悪そうな笑みを浮かべた。


「少しぐらいなら協力してあげてもいいけどー?」


「……え? マジで?」


「どうしよっかなー」


「お願いします! ナルヴィさん! いや、ナルヴィ様!」


パン、と両手を合わせてユウはナルヴィに頼み込んだ。

彼女の視線はずっとワッフル屋に向いたままだ。


「あー、あのワッフルおいしそうだなー」


 ……棒読みだ。

 ものすごい棒読みだ。


「ワッフルがたべたいなー」


 わざとらしく言いながらチラチラとナルヴィがユウに視線を向ける。


(奢れということか……。)


 ワッフルの値段は四百ジンと書いてある。

 リアから小遣いとして二万ジンを貰っているので、買おうと思えば買える。

 だが……。


(どうする? これは俺の全財産。虎の子の財産をこんなところで減らすわけには……。)


 ユウは唐突にアルティメットな選択を強いられることになった。

 買うべきか買わないべきか、ユウの頭の中で二つの選択肢がぐるぐる回る。

 ステラと同性の協力者が得られるというのは非常に大きい。

 だがここで奢れば今後も同じようにタカられる可能性が高い。


「ユウくーん、わたしワッフルがたべたいなー」


「へっ?」


 ダメ押しとばかりにナルヴィが思考過多で固まっているユウの腕に抱きついて、渾身の営業スマイルを向ける。


 ……あざとい。

 とんでもなくあざとい。


 何も知らない男なら決して無視できないかわいさなのだが、彼女の普段の振る舞いを知っている人間からすればあざとい以外の何者でもない。

 というかそもそも話の流れ的に不自然すぎる。

 だが脳がオーバーヒートしかけていたユウは、彼女の笑顔とボディタッチの前に呆気なく陥落した。

 

「よーしまかせろー。」


 四百ジンを出してナルヴィのためにワッフルを買う。

 流石に自分の分も買うのは踏みとどまったのはささやかな抵抗か?

 ステラへの一途な思いがユウを踏みとどまらせた、ということにしておこう。


(ちょろすぎでしょ……。童貞だなコイツ)


 色仕掛けへの耐性ゼロのユウにナルヴィも引き気味に半笑いした、その時だ。


 ――ドンッ。


 遠くで爆発音がした。

 ナルヴィが途端に真剣な表情になる。


「ナルヴィ、今の……。」


「うん、アジトの方向みたい。もしかしたら何かあったのかも」


 周囲の人々には動揺も混乱もない。

 市場の騒がしさに紛れていたため、爆発音に気が付いた人間は少なかったらしい。

 気が付いた人々も爆発が近くではないことがわかると、すぐに元の行動に戻った。

 ナルヴィは急いでワッフルを口に放り込む。


「急ぐよ?」


「ああ。」


 二人は足早に市場の西に向かって歩き出した。


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俺の本物を殺しに行く

メインヒロイン()・・・_(  ´・-・)_
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