93 オーガの変異種
朝から新事実を知ってしまった私は、再びワイバーンの背に乗って空の旅人となっていた。
今日の予定は西の辺境都市の第10部隊の駐屯地まで飛んで移動することになっている。そこで、今回問題になっている常闇から出てきた魔物の情報を得て、翌日討伐に向かう手筈になっているのだ。だから、今日はヒラヒラのゴスロリドレスじゃなくて、きちんと隊服を着て腰には太刀を携えていた。
しかし、ルディに抱えられワイバーンに乗っていることには変わりはなかった。これはやはり、私のワイバーンが必要だと思う。
空の旅を楽しみたいのだけど、今の私はとても気になることがある。いや、今現在進行系で現状が進んでいる。
上空を飛んでいるため、眼下の景色は普通では人の姿など確認出来ない。だから、私は遠見の魔術で眼下の景色を見ていたのだ。
「ルディ。下に降りよう」
「どうした?アンジュ、気分でも悪いのか?」
まぁ、時々空気が薄すぎて、頭痛や気分を悪くする者が出てくるようだ。だけど、私は周りに結界を張っているのでそんな事は起こらない。
いや、それよりも。
「違う。多分アレだよ。あれが、常闇から出てきた魔物」
私は、眼下の森に一筋の線を引きながら爆走するモノを指して言った。
「このままだと、さっきいたジジェル?の街に突っ込んでしまう」
私はそう言って、ルディの手を振り払って、ワイバーンから飛び降りた。後ろでルディが叫んでいるけど、今回は許して欲しい。あ、今回もだね。
私は重力の聖痕を爆走するモノに支点を置き、急降下する。その間に身体強化と自分の周りに更に強固な結界を張っておく。
そして、太刀の柄に手を添え、爆走するモノたちに接触すると同時に抜刀した。
『あっぶねーなぁ。いきなり攻撃してくるなんて頭おかしんじゃねぇーか?』
『元々、言葉も通じないようですから、頭がおかしいのは仕方がないのではないのですかね』
爆走する者達は、私の太刀を直前で避け、距離を取り立ち止まった。そのモノたちの一人は眼を見張るような真っ赤な髪に2メルは超えていると思われるほど大柄で、着物を着崩したように右半身を出し、筋肉質な体に描かれた青い入れ墨を見せつけている。そして、頭からは赤い二本の角が生えていた。
もう一人は対象的に青白い長い髪を背中に流し、細身の体格で着物のような衣服と胸当ての防具を身につけていた。そして、頭からが青い二本の角が生えていた。
私はクレーターになった地面から身を起こし、対象的な二人のモノたちに視線を向ける。
「『ねぇ。あなた達、酒呑童子と茨木童子であってる?』」
『!』『!』
私が日本語で話しかけると、二人の鬼は警戒感を顕にし、腰に佩いていた刀を抜いた。
そう、前世の妹に見せられたスチルそのままだった。イケメン酒呑童子と美人茨木童子だった。ここまで来ると、この世界に疑問しか湧いてこない。
やっぱり、陰陽師の方が良かったのではないのだろうか。それなら、敵側を使役するという選択肢も出来ただろう。
安倍晴明が駄目なら役小角でも!!
『お前は誰だ!』
『言葉が通じる···ここはどこです?いきなり見知らぬところに居て困っているのです』
酒呑童子は殺気を振りまいて、私を敵視しているけど、茨木童子の方はどちらかというと現状把握を優先したいようだ。
「『ここは異界。日ノ本じゃない』」
乙女ゲームの世界だよとは言わないでおく、きっと通じないだろうから。
「『常闇という穴が大きくなりすぎると、異界からこの世界に魔のモノを引っ張り込むらしいってことぐらいしか私は知らない』」
『常闇ですか』
『だから、テメーは誰だって聞いてんだ』
茨木童子は考え込むように腕を組んで首を捻っているが、酒呑童子は私が誰か言わないことに苛立っているようだ。だけど、私が誰かなんて彼らにとって些細なこと。
「『だから、あなた達が取れる行動は2つ。その常闇から日ノ本に戻るか、私に殺されるかのどちらかね』」
私が陰陽師なら役小角の前鬼と後鬼のように使役するっていう選択肢もあっただろうけど、私はただの小娘に過ぎないからね。
『ああ゛?!』
酒呑童子は私の言葉が気に入らなかったのか。クレーターの底にいる私との距離を一気に詰めて、その大柄な体にふさわしい大太刀を振るってきた。
私は、その大太刀を太刀で受け止め弾き返す。
酒呑童子は己の大太刀が弾き返されたことに驚きを顕わにした。きっとこんな矮小な私の何処にそんな力があるのだろうと思っているのだろう。
『だから、テメーは誰だって聞いているんだ!何故、俺の名を知っている!』
あ、そっちですか。それは知らない人から名前を呼ばれたら気味が悪いよね。
「『私?私が誰って、あなた達にとってどうでもいいことでしょ?そうだね。私はあなた達が生きた時代よりも未来の日ノ本で生きた記憶があるってことで納得してくれる?』」
まぁ、実在したかどうかは私はわからないけれど、安倍晴明が彼の居場所を占い、源頼光に討伐されたという話が残っており、元となる朱丹という人物がいたとも残されていたので、何かしらの人物はいたのだろう。
しかし、彼の姿を見る限り彼らの存在は何者かの手によって作られた存在かもしれない。スチルと全く同じ容姿ってあり得ないでしょ!




