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俺の告白は姉ちゃんに向けられる

適当に拾ったタクシーを走らせ十数分。

俺の家の近くに徒歩十分ほどでつく、浅い川がある。

水の深さは脛程までしかなく、その川にかけられた不釣り合いな橋は姉ちゃんがよく来ていた場所だ。

ここからの夕陽は綺麗なんだよ。

落ち込んだとき、姉ちゃんは度々ここに来ては俺が迎えにくるまで例え親が来ても動こうとはしなかった。

だから今回も俺が迎えに行く。

そしたらあのサークルは抜けるから忘れてくれと頼み込もう。

完璧。

これ以上誰も傷つかずにすむ。

金森先輩や秋菜は今まで通りサークルを続けれるし、姉ちゃんの機嫌はなおるはず。


「渋滞ですか?」

「はい、抜けるのにはまだまだ時間かかりそうですよ」


何でこんな時に渋滞なんだよ。

でもここからなら走ればすぐだし。

よし、走ろう。

こんな微妙なところで渋滞しやがってこの野郎。


「ここでいいです」


代金を払い、タクシーを降りた俺は走り出した。


■□■□■□■


いつもの鉄橋。

姉ちゃんが落ち込んだり拗ねたりしたら俺が必ず迎えに来てた。

落ちかけの太陽が俺の知る限り一番綺麗に見える場所で、姉ちゃんが俺に唯一弱味を見せてくれる場所だ。


「はぁ、はぁ」


基本的にインドアな俺に、全力で走れる持久力を期待するな。


「ついた」


姉ちゃんは手すりを越えて五十センチくらいの余った鉄の板のような所に体育座りで座っていた。

やはり顔は夕陽の方向に向いている。


「姉ちゃん、そんなとこ座ってたら危ないよ」


この橋をわたる通行人が何人も姉ちゃんを二度見する。


「姉ちゃん?」

「・・・・・・もの」

「えっ?」

「夏夜くんに嫌われたんだもの!」


狭い隙間で器用に動き回る人だな。

俺だったら体育座りからいきなり立つなんて怖くてできないぞ。

それも振り返りながら。


「貴方に嫌われたんじゃ生きてる意味ない。だからね、私のことはもう忘れていいよ」

「・・・・・・」

「私はこの体を残してこの世を去るから」


外野がガヤガヤと五月蝿いはずなのに不思議と俺の耳に入ってくるのは姉ちゃんの声だけだった。

空を飛ぶカラスの鳴き声も、吹き付ける風の音も、流れる川の音も全て聞こえない。

その代わりに、姉ちゃんの声だけは何度も何度も頭の中で木霊していた。


「それで私は貴方の心に生き続けるの、なんて素敵なんでしょう」


両手を自分の頬にあて、とても惚けた顔をしている。

なぜこの状況でそんな幸せそうな顔出来るんだよ。

俺の事情なんて全部無視かよ。

わかってたけど!

ちょっとは考えてくれよ。

姉ちゃんがいなくなったらこれから俺は独りだぞ。


「さよなら」


俺は柵を乗り越えて落ちていく姉ちゃんの手を掴んだ。

片手は先程まで姉ちゃんが座っていた板をつかみ、片手は姉ちゃんの小さくて柔らかい手を、絶対に離さないように握りしめた。

片手で俺と姉ちゃんの体重を持ち上げるなんてのはまず無理。

人間二人分の命なんて重すぎる。


「離して」

「ふざけんな!」

「ふざけてないもん」


ふざけてるだろお前!

何だよくそっ。

いつもみたいにヤンデレてくれた方がまだ楽だぞちくしょー!


「姉ちゃんがいないと困るんだよ」


もう手の握力も尽きてきた。

頭も回りすぎて考えがまとまらねぇ。


「貴方には金森さんも冬華ちゃんも秋菜さんもいるでしょ、今さら私一人居なくなったって関係ないわ」

「関係ないわけないだろ」

「何で?」

「だって俺は・・・・・・俺は南春華がこの世で一番好きだから、だから簡単に消えるとか言うなよ!俺の隣にいてください!」


こんな状況でもドン引きだよ。

実の姉にガチ告白なんて俺も血迷ったかな?

しかもこんな死にかけの状況で。


「もぉ、お姉ちゃんに本気で告白なんて初めて聞いたわ」


俺も初めて聞いた。

そろそろ手の力が・・・・・・てか見てる奴助けろよ!

何?パニックなの?

俺に比べたらそんなもんパニックでもなんでもねぇ、ただのパニックだろうが!

なに考えてんだ俺?


「大丈夫ですか!?」


中学生くらいの双子が、人の壁を割って入ってくる。

男子中学生よ、ありがとう。

数分後、俺と姉ちゃんは無事に助けてもらえた。


「はぁ、助かった」

「何してかは知りませんけど」

「あの告白」


聞かれてた?

てか交互に喋んな鬱陶しい。


「「良かったっすよ」」


恥ずい。

そして男子中学生達はなぜか傘を三本持っていた。

幸い、雨はだいぶ前からやんでおり手が滑るなんてことはなかった。

てかあそこでてを滑らしてたらたぶん俺報われない。

軽くフジツボ絶滅阻止戦線で激辛麻婆豆腐食うレベル。

久し振りにあのアニメ見てみようかな?


「姉ちゃん」

「ごめんなさい」

「帰ろうか?」

「うん」


この橋は姉ちゃんが俺に弱味を見せてくれる、唯一の場所。

こうして長過ぎた一日を、姉ちゃんの出ているラジオを聞きながら終えた。

あの人はやっぱり強い。

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