俺の姉ちゃんが何処にいるかはわかる
「・・・・・・姉ちゃん何しに来たの?」
「あなたのサークルを見に来たの」
これ詰んでね?
あの《約束》を使ったとしても秋菜は二回目だから通じないし、それ以外の逃げ道なんて全く浮かんでこないし。
正確には逃げ道が浮かんでも逃げ道を塞がれるところまで想像できる。
一番手短なエンドが最悪のエンドですらある。
そこから離れていくに最悪度は薄れていくが、最悪なのにかわりない。
上の上、上の中みたいになっていく。
「あれ、何で夏夜くんは私以外の女の子と仲良くしてるのかな?」
「・・・・・・」
「南くん?」
こんな時に、こんな時だからこそ思い出される高一の今ごろの話。
あの時も、突然姉ちゃんが部室の扉をノックした。
入学直後の事、俺も含めて五人の一年生だけで新しく部活を作った。
全員男ならその部活は無くならなかっただろう。
そもそも俺が入らなければ、あの雰囲気のいい楽しいクラブは無くならなかった。
俺は一つのクラブを潰した。
「答えなさい。私がいるのに何で他の女と仲良くしてるの?」
「これは・・・・・・」
「サークルですよ」
「貴女には聞いてないわ、だいたい貴女は誰?」
「このサークルの部長を勤めてます、金森林檎です。南くんのお姉様ですか?」
「えぇそうよ、私は夏夜くんのお姉ちゃんで恋人」
一歩ずつ部室に踏み行ってくる度に、ピシッピシッと空気が凍りついていくのを感じさせられる。
「夏夜くんはこう言うが好きなの?」
几帳面に並べられた数々のフィギュアを見て言う。
「別に好きでも嫌いでも━━━━━━」
「でも南くんこの間好きって言いましたよ」
今それを言いますか?
秋菜に関しては部屋の隅にしゃがみこんで震えてるし。
俺も部屋の隅に行っていいですか?
「そう言えば金森さんも眼鏡かけてるわね」
「はっはい」
「だから入ったの?」
「関係ないよ」
「ならなんではいったの?」
「それは・・・・・・」
「すっすみません!」
は?
なんで先輩が頭さげてんの?
わからない。
「私がその、南くんを無理矢理誘ってしまいました。迷惑でしたよね?」
「そんなこと━━━━━━」
「大有りよ、大迷惑とも言うわね」
「姉ちゃん!」
「なに?あなたは黙ってなさい」
・・・・・・くそっ!
なんでここで言い返さないんだよ。
なんで言い返せないんだよ。
「迷惑をお掛けしたこと、心から謝罪申し上げます」
「金森先輩」
「貴女のせいで夏夜くんがいけない方向へ行きそうじゃない、どう責任とってくれるの?」
高一の時もこうやって、ねちねちと部長だけを吊るし上げて自主退学にまでした。
たかだか部活の事なのに。
「いけない方向ってなんですか?」
「二次元の女の子を大好きになったらどうするのって意味」
「なんでそれがいけないんですか?」
「夏夜くんは私だけを愛し私だけに愛される義務も義理も理由もあるからよ」
「私の・・・・・・」
「私の?」
「私の好きなものを馬鹿にするな!」
あの先輩がこんなにも怒ってる。
てかこんな大声出せたんだ、知らなかった。
「貴方が誰であろうと私の好きなものを侮辱することは許しません。眼鏡っ娘もこのサークルも全部全部侮辱することだけ許しません」
「なら夏夜くんを返して」
「嫌です!」
「金森先輩」
このままでは貴女の好きなこのサークルがなくなりますよ?
俺がこのサークルからいなくなれば取り敢えず無くなることは避けれます。
それじゃあダメか?
「夏夜くん、帰ろ?私と一緒ね」
みんなはいいな。
普通に学生を楽しめて。
俺はぼっちライフ無理そうだし。
中にはむしろぼっちになる事を選ぶ人もいる。
俺はたぶんそうしないといけない。
この姉ちゃんがいる限り、誰かと仲良くするなんて少しの間しかできないのだから。
自然に間柄が崩壊するよりも早くこの人が取り壊しにかかるから。
「そう、そう言うこと。夏夜くんはお姉ちゃんのこと嫌いになったんだね」
「そんなこと━━━━━━」
「なら生きてる意味ない」
「えっ?」
「さよなら」
人前でめったに泣かない姉ちゃんは涙をこぼしながそんな事を行った。
俺は姉ちゃんがこの部屋のドアを閉めるまで何も出来なかった。
あまりにも唐突すぎて、珍しすぎて。
追いかけないと。
ガチャ
まだ見える。
追い付けるはず。
「姉ちゃん!」
力の限り叫ぶ。
しかし、姉ちゃんは止まらない。
こんなことをしてる間に差はどんどん開いて行き、俺が大学を出るこにはもう何処にもいなかった。
でもまぁ、俺が生まれてからずっと姉弟してるからな。
絶対あそこにいる。
《続く》




