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俺の先輩と苺さん

あー、呑みすぎた、頭痛い。酒だけで呑んだせいか二日酔いがひどい。まぁ記憶が飛ぶほど呑んだ訳でもないがな、だからこうして苺さんの家のソファーで寝転んでると顔が熱くなる。

誰かにすがりながら泣いたのはいつ以来だろう。

・・・・・・。

昨日の俺の馬鹿野郎、ふざけんなマジで何斜に構えてんだよキモいんだよ俺!

もしタイムマシンがあったら間違いなく俺は取り合えず昨日に戻るね、そんで十発くらい自分にいれてからもと小一まで戻る。

こう、何て言うんだろう。

マジでいろんな意味で死ねよ昨日までの俺。

ほんと死んでくれ。


「人んちのソファーで悶える気分ってどう?」

「最悪ですよ、てか起きたんなら教えてくれてもいいでしょ」

「朝起きて寝室から出てきたら知り合いの大学生が柄にもなく悶えてる、観察の余地あり」


腰にあててない方の手で爽やかな笑顔と共にサムズアップ。まるで部活を終えた学生の設定を演じる制汗剤のCMのようだ。


「泊めて貰いましたし、俺が朝ごはん作ります」

「毎朝━━━━━━」

「言わせませんよ」

「むぅ、ケチ」

「うるせ」


失礼しますといい冷蔵庫をあけると殆ど何も入ってなかった。あるのはスライスチーズにハムに八切り食パンが三枚、あとは卵と液体薬か。

何故こんなとこに液体薬が?


「昨日買い物いく予定潰れちゃって」

「・・・・・・すんません」

「台所の棚のなかに粉末スープあるよ」

「因みに聞きますけど何か食べたいものってありますか?」

「夏夜くん手製の味噌汁を毎日かな」

「まぁ見た感じハムエッグとトーストしかないよな」


ケチャップとかすらないのはどういうことだろう。さいわい最低限の調味料は台所の端に置いてあるからいいけど。かなり適当に朝食は完成した。

その朝食をテーブルに運ぶとどういうわけか苺さんがにやけてた。


「何にやけてんすか?」

「結婚したらこんな感じなのかなって。たぶん子どもができるまでは共働きで、朝も忙しいからてを抜いた朝食を毎日交代で作る」


バレてた。


「しばらくしたら子ども、できれば女の子がいいな。子どもを授かって私が退職して、家庭を守り始めるの。きっとすれ違いなんかも多いんだろうな」

「・・・・・・心に決めた人がいますから」

「ふーん。お姉さんふられちゃった。いただきまーす」

「はい」

「うん、林檎はいい夫を持ったね」


いや、俺はきっと林檎さんとそんな仲にはもうなれない。あれだけ好き勝手言ってさんざん傷つけたんだ、嫌われてるに決まってる。


「林檎はね」

「ん?」

「林檎のは昔からよく人を見る娘だったから、きっと今回も頭が冷えたら全部気づくと思うよ」

「どうですかね」

「お姉さんに相談してみない?」

「・・・・・・相談があります」

「ふっふっふ、人生の大先輩に何でも聞いてね」


大きな胸を張る彼女の笑顔は珍しく、完璧に作りきれたものではなかった。


■□■□■□■


どういう訳か俺は苺さんの部屋に隔離された。いや、どういう訳じゃないか。

苺さんが金森先輩を呼び出したのだ。手元には無線機代わりの携帯が、リビングの苺さんの携帯と繋がっている。

まもなくすると金森先輩はやって来た。微かに聞こえる足跡は間違いなく彼女のものだ。


『で、話って何ですか?』

『まぁまぁ。コーヒーでいい?』

『はい』


やばい、何もないのに泣きそう。

不安で不安で恐くて。自分勝手にも程がある。

コトっと言う音が二つすると彼女らはまた話始めた。


『夏夜くん私にちょうだい』


はぁ!?


ガタッ!


しまった、思わず立ち上がったら体がついてこなくて転けてしまった。てかあの人何言い出してんの、こんなの打ち合わせにねぇんだけど。


『何の音ですか?』

『さぁ、本でも落ちちゃったかな。で、いいの?』

『・・・・・・私に聞く意味がわかりません』

『だって林檎も夏夜くんもお互いの事好きだし?』


今までみんな気づいてたのかと思うとかなりはずいものがあるな。


『そっそんなことありません。それに彼も私の事を嫌いって言ってましたし』

『でも本当は気づいてるんでしょ?』

『・・・・・・知りません』

『林檎は昔から嘘が下手だよね』

『でも今回だけはどうしても許せません』

『どうして?』

『自分が諦めることと私を傷付けることを一緒くたにしてるかです』


違う。違うんです、先輩。

俺だってあんな事言いたくなかった、自分の本音をぶちまけたかった、でめあの時の俺にはもうそんな勇気も力も残ってなかった。

それが最善と信じて疑わない位に追い詰められてた。


『それだけ?』

『・・・・・・はい』

『ここで許してしまうと彼の決意を無駄にするから』

『姉さんは何でも分かるんですね』

『大好きな妹の事だもん』

『私は姉さんの事嫌いですけどね』


何だかんだで苺さんもシスコンだからな、それに加えて超人的なスペック。何でもお見通しってのは便利だな。


『でも私は林檎の事好きだよ。それと同じで嫌われてても好きでいるのは勝手なの、それに夏夜くんは自己犠牲隠してるつもりだから、気づいてないふりして攻め落としちゃったら?』

『嫌です』

『そっか』


そうか・・・・・・。

本当に嫌われちまったのか。いやこれでいい、元々そのつもりだったんだ、わざわざ修羅の道なんて選ぶ必要ない。人に嫌われるなんてなれてる。今までなん十回も重ねてきた経験だ、今さらどうってことないだろ。

他人に嫌われてることにはなれてるはずなのに、何故か気分が沈む。

他人、じゃなくなってんのかな。

俺にとってもう先輩は赤の他人から片想いの相手に変わってたんだった。

そんな人に嫌われる経験なんてねぇよコンチクショー。


『気づかない振りなんて元からありません。姉さんに言われるまでもなく攻め落とすつもりですから』

『ふーん、じゃあ私も負けないようにしないとね。大分不利だけど』


金森先輩は出会ったときから本当によく俺をかき乱してくれる人だな。たったの三十分でこんなに浮き沈みするなんてはじめて過ぎる。

でも何はともあれ、嬉しいな。


『じゃあ私お買いもしてくるし留守番よろしく』

『えっ!?』


えっ!?


『私の部屋に夏夜くんいるし話したかったらどうぞ。じゃあ』


パタパタと小走りする音と、姉さんと叫ぶ声が頭の中でこだました。打合せ通りなんてレベルじゃない、なんで事前に決めた流れ無視すんのあの人。

玄関の閉まる音がする。どうやら本当に行ってしまったらしい。

どうしよう。何て言い訳しよう。


ガチャ


「おはようございます、南くん」

「おっおはようございます」


《続く》

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