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俺の本当で本物

もう本州では桜が咲いてる時期、俺は解答に迫られていても学生と言うことに変わりはなく、今日もこうしてまた講義に出席してきた。

今日は中々時間を取れなかった新歓をやるらしく、流石にそれをパスすることもできない。

でも今の俺の状況で部室にいくのは中々に辛いものがある。はぁ、結局俺は誰を選ぶんだ?

金森先輩、それとも秋菜か中谷か。

自分が一番好感の持てる人で連想すると金森先輩なんだけど、好感度がそのまま好きになるのはギャルゲだけの話し。


ガチャ


「あれ、金森先輩は?」

「お家の事情です。サプライズじゃなかったら究極気まずいところでしたね」

「そうだな。ところで他のは?」

「蜜柑は私にここに残れって言って海那ちゃん連れて帰りました」


あいつ確信犯だろ。


「ところで答えでそうですか?」

「・・・・・・自分の気持ちが一番わからん」

「そうですか」

「聞いてもいいか?」

「何をですか?」


これを聞いてしまえば何かが変わる気がする。

自分の本当の本物の気持ちが何がかを理解する手懸かりになるはず。


「何で秋菜は俺なんかを好きになってくれたんだ?」

「何ででしょうね」

「・・・・・・」

「世の中なんて理由無いことだらけですから、これも理不尽の一貫として考えてもらってもいいですよ」


いつもの席でだるそうに机に持たれる秋菜は微かに頬を染めながらも確かにそう言った。

右手で携帯を弄りながら、普段と何ら変わらない。


「私が夏夜先輩の事を愛してやまない、そう言う事実だけでいいんです。後は夏夜先輩の気持ち次第ですよ」


俺の気持ち次第か。俺の気持ちに則って答えを出すとすればまぁ間違いなくそれなんだろうけど、本当にそれだけで言いのか?


「夏夜先輩」

「何だ?」


秋菜は携帯を机においた。

依然として机に突っ伏し、上目遣いでこちらを見つめてくる。


「好きです結婚してください」

「・・・・・・」


まず間違いなく俺はこの瞬間の事を少なくとも十五年は忘れない。

いつも通りの日常的な風景で、普段通りの態度の秋菜の口から出たその言葉はあまりにも自然すぎたからだ。不自然さなんて、違和感なんてどこにもない。

自然でありのままで、なんの不思議もなく俺に入ってきた。

小説なんかのドラマチックで時間が止まったかのように思える展開じゃない。平穏な日常にこの事実が紛れ込んでもきっと、誰もが同じ時間で同じ空間にいると感じれる。

でも違う。俺の欲してやまない平穏なのに心から喜べない。


「私じゃ無いんですね」

「えっ」

「女はそう言うの目敏いんですから。随分と前から私も、きっと蜜柑ちゃんや中谷先輩も気づいてました。気づかないのはいつも本人ばかりで、ならどさくさに紛れてなんてのも考えましたけど無理でした」

「・・・・・・」

「林檎ちゃんが・・・・・・好き、何ですよね」


少しだけ震える声に伏せられた顔。

そんな彼女の言葉はしっくりと来た。そう、最後のピースがはまったような気分だ。


「たぶん」

「これからも、私と馬鹿やってくれますか?」

「俺は馬鹿なんて一度もやった覚えねぇよ」

「夏夜先輩は鈍感なだけじゃなくて記憶力もおろそかなんですね」

「裏口入学かを疑うくらいアホの子に言われたくない」

「はははっ」


つい先日、大宮は言った、結末は二通りだけじゃないと。

確かにその通りかもしれない。結末がいつも二通りなら、失恋させた相手とこんな風に、いつも通りの会話何てしてない。

そうか、俺は金森林檎先輩が好きだったのか。

彼女の親からの心象は底辺の下を行き更にはうちの姉ちゃんと言う最大の砦が待ち構えてる。

修羅の道になることは目に見えてる。きっと俺も彼女も傷つく。

本当にそれでいいのだろうか。


「また余計なこと考えてる顔ですね」

「余計なことじゃないから」

「私、そろそろ帰ります。ちゃんと気持ち伝えれたらお話聞かせてください。憧れの先輩方ののろけ話きたいしてますから」


軽い足取りで俺の横を通りすぎ部室を出ていく。

のろけ話か。

それよりも先にやることがある。最大の難関の一つもそこにある。

これからの俺の毎日が平穏なものでなくなるのは目に見えているが、逃げることはしない。

どうせ姉ちゃんからは逃げらんねぇし。

とりあえず作戦を練ろう。

その日の帰り道、ついに俺の住む街にも桜が咲き始めた。

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