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俺のデートと決断の一つ

大宮さんに連れ出された場所は水族館だった。思えば小学校の遠足以来ここにも来てなかった。

十数年ぶりに来たなここ。

そんな風な感傷に浸りなが入館する今の今まで、寒くて上着のポケットに突っ込んでた腕を大宮さんが組んできている。

四月も中旬なのにまだまだ寒い日が続くらしい。


「ベタだけどこう言うのもいいよね?」

「そうだな、俺も久ぶりに来たわここ」

「実は私は初めて、小学校の遠足でも来なかったし中学高校も知ってるでしょ。一度来てみたかったんだ」


巨大な鮫や小魚の大群が泳ぎ回る大きな水槽に出迎えられ、アーチ状の水槽に囲まれた通路を進んでいく。

その間も組まれた腕はそのままで、ささやかながらも柔らかいものに触れている。

そうしてアーチを抜けると両脇をいくつかの水槽で区切るエリアに出た。

昔の俺がこれやアーチを見て何を思ったかは覚えてないが、今は刺身にしたらうまそうとしか思えないな。

まじこの蟹とか焼いてみたい。


「夏くん美味しそうとか思ったでしょ」

「何でわかったんだよ、エスパーか?」

「夏くんの事ならずっと見続けてきたんだからさ、わかるよ」

「・・・・・・ずっとって、いつから?」

「中学二年の文化祭からずっと」


と言うことはだ、大宮には俺の黒歴史や古傷をかなり知られてるわけだ。結構信頼してる金森先輩にも話してないようなこともこいつは見てきたわけだ。

なら助けろよとかはいわねぇけど、一声掛けるくらいして欲しかったな。昔の俺はそれだけで気が・・・・・・晴れねぇな。

掛けられたら掛けられたで、何で俺なんかにって要らぬ勘繰りをしてしまい傷を増やしそうだ。


「あの頃は私もハブられるのが嫌とかで声かけるにかけられなかったけどね」

「まぁ、そんなもんだろ。俺も高校生とか中学生の時は自分はもう大人だからとかって考えたりしたもん。今思うと一生で一番ガキな時期なのにな」

「うんそうだね、でも私後悔してるんだ。どうして今まで夏くんの味方してあげらんなかったんだってね」


色とりどりな熱帯魚を見ながら大宮はそんな事を言った。


「学生時代なんてあとから思い返すと死にたくなるようなことしてて後悔すんのが普通だ」


そう、彼らの大半の学生時代は酸いも甘いも全てキラキラと輝く物なのだ。 失敗も挫折も後悔も、後々死にたくなるくらい恥ずかしいことをやってても十年もしたら『そんな事もあったな』で片付く。

例えそこに犠牲がいても同窓会なんかで会ったりすると普通に挨拶して酒飲んでるもんだ。

そんな後から改竄も捏造も無かったことにも出来る記憶なんて無くても良い。


「大宮」

「どうしたの?」

「高校時代、楽しかったか?」

「うん、それなりに」

「そりゃ良かった」


そうでないと煌めく記憶の犠牲になった俺が報われん。

他愛のない話を続けてるうちにクラゲだったりクリオネだったりがいる筒状の水槽が立ち並ぶエリアにやって来た。

このクリオネ見た感じきれいだけど捕食するとき悪魔なんだよな。


「夏くんはさ、好きな人いるの?」


少し前にもこの質問をされて俺は姉ちゃんと答えた。

しかし今回は前回と状況が違う、真面目に答えないといけない。

俺が誰が好きか、自問自答をすると真っ先に出てくるのが金森先輩の顔なんだよな。

でもそれが本当に本当の心か確証もないし、俺は彼女の親にはとても嫌われてる。

そんな俺が金森先輩と恋仲になってもいいのか?


「わからん」

「じゃあまだチャンスありだね」

「・・・・・・大宮はどうして俺なんかを選んだんだ?」

「さぁ」


さぁっておい。俺も人の事言えねぇけど。


「理由はきっと沢山あると思う、でもどれもしっくり来ないんだよね」

「そうなんだ」

「だって夏くん特別見た目が良いわけでも頭が良いわけでもスポーツ万能って訳でもないじゃん。歌も並みだし演技も素人そのもの」


確かにそうだけど今言うかな。

そりゃ俺は大宮に比べたら取り柄なんて無いよ、今言った通り心技体、何れとっても並みのレベルだよ。

わざわざ再認識させてくれてありがとよ。


「でもちょっとした気遣いも出来るし気づいてくれるでしょ。どうでも良いことにすごい時間かけて悩むってことは、大切なことならなおのこと悩むってことでしょ。夏くんは自分が取り柄のない欠点だらけの人間だって思うかもしれないけどさ、周りが凄いだけなんだから気にしちゃダメだよ」


捲し立てるように次から次へと言葉を繋いでいく。

こんな返答も仕草も予想外も良いとこだぜ。


「それにさ、きっと理由も意味も後からついてくるから。だから私と結婚を前提に交際してください」


お椀クラゲの水槽の前でプロポーズされた。

した本人は膝を震わせ顔を真っ赤に染めている。俺の眼をじっと見つめる瞳も何度もみてきたが、これほど力のこもった眼は初めてだ。

今ここで答えを出さないといけない。すぐに決めてしまわなければいけない。

このプロポーズを受けるか否か。


「じゅっ、いや三分で良い。三分だけ時間をくれ」

「うん。待ってる」


彼女は本気だ、本気で結婚を前提にしてる。

しかし一向に答えは出ず時間だけが過ぎていく。その間も大宮は姿勢を変えず真っ直ぐに俺を見続ける。


「夏くんの事だから私の納得の行く理由とか考えてるんでしょ」

「・・・・・・」

「だから言ってるでしょ、理由なんて後から付いてくるって」

「そうだな」

「わかったらさっさと答えて私を楽にしてよ」


既に俺の答えを知ってる風に言う。きっと彼女は察しているのだろう、何年も周りの目を気にして片想いの相手も助けれなかった彼女は察することに長けている。

その場の空気を察し、相手の大まかな答えを察し、そして自分の気持ちを介さない。

俺が答えやすいような言葉も彼女の優しさなのだろう。


「大宮とは付き合えない」

「ふぅ・・・・・・じゃあイルカショー観に行こっか」


俺の予想した反応の外過ぎる反応に思わず固まってしまう。

少し深呼吸したと思ったら急にイルカショーを観に行こうと、いつもの調子で言われたのだ。

恐ろしいメンタルの強さだなおい。


「同級生としてのアピールはもう諦める、これからは友達としてアピールするから覚悟してね」


俺の前を数歩先に行く大宮は振り返り、いたずらっぽい笑みでそう言った。


「寝取りも辞さない気持ちです」

「・・・・・・あぁ」

「夏くんは人付き合い歴短いから知らないだろうけど、告白されて相手振っても、一ヶ月もすればまた相手ははなしかけてくるんだよ。結果はハッピーとバットの二通りじゃなくてその中間ってのもあるから」


そしてまた俺の手を引っ張ります歩き始める。きっと大宮は俺に振られることを予見していた、だから覚悟も対策もできた。

結局俺は大宮の手の上で踊らせてただけか。

そう思うとドッと疲れが込み上げてくるもデートは終わらず、それからも大宮ははしゃぎ続けた。

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