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俺と金森先輩

足のギプスが外れエルボークラッチなる松葉杖をついて過ごす頃、学校春休みに突入していた。進級事態は何の問題もなく出来た。

さて、春休みとはこれから迎える新しい生活に備える期間だ。これまでの仲間と別れ、新しい環境に身を投じるための覚悟を決め、そのために心を休める期間だ。

なのに絶賛サークル活動中なのは何かがおかしい。

そもそも今まで俺には春休みに別れれる仲間そのものがいなかったな、そっからおかしいのか。

秋菜は家族旅行、梨木は病気で部室には俺と金森先輩だけになった。

あんまり珍しくも無いが、こうしてみるとやっぱり彼女はおしとやかで物静かだ。

今読んでる本が萌え漫画なのにこんなに様になるなんて凄いです、尊敬します。


「どうかしましたか?私の顔に何かついてますか?」

「いっいえ、何でもありません」


秋菜がお見舞いに来た日以来妙な勘繰りに惑わされることが多くなった。もしかすると今の数言は見られて照れるみたいなのを隠喩してたりとか。

まぁそれこそ勘違いだ。顔をじろじろ見られるのはあまり気分のいいものじゃないだろうしな。

バレンタインの返事。

くれた人全員にするわけで、もしかすると秋菜みたいに俺の事を・・・・・・奴もいるかもしれない。

なら見極める必要がある、気づいてない振りはしない。

だけど探り入れようにもやり方わかんねぇ!

マジでどうしよう。


「足、痛みますか?」

「えっ、いや少し考え事してて」

「もしよければご相談に乗りますよ」


貴女の事ですよ貴女の。


「いや、そのぉ。勘違いかどうかの区別がつかなくて」

「と言いますと?」

「・・・・・・これは俺の中学のクラスメートの話です」


友達が居たことなくてクラスメートに言い換えないといけない辺り悲しいよ。


「はい」

「よく自分に接してくれる女子がいた。でもそいつは今までモテるどころか異性の友達なんて一人もいなかったような奴なんです、だからこいつもしかしたら俺の事好きなんじゃね?とか思ったんですね。そして俺が告白すると同時に玉砕、理由は姉さんでした。そして玉砕したことは一日で学校中に知れ渡りましたとさ」

「はっはぁ」

「その時から俺は姉さんを理由にすべては勘違いだって考えてきたんですけど、最近勘違いで済ますなって怒られて」


あれ、いつの間にか俺のはなしになってる?

まさかこれが誘導尋問って奴か・・・・・・いや、語るに落ちただけですね。


「勘違いでいいと思いますよ?」

「どういう意味で?」

「勘違いでもみな・・・・・・クラスメートさんは自分の気持ちを素直に打ち明けれたんですよね。ならそれは素晴らしいことだと思います」

「でも━━━━━━」

「でも南くんは勘違いの段階じゃ踏み切らないですけどね」

「は、ははは」


一呼吸つくと金森先輩は少し微笑みこう言った。


「私みたいに怖くて告白なんて出来ない臆病者に比べると、勘違いでも告白できる事は素晴らしいことですって、伝えて上げてください」

「はい」


自分以外の誰かに胸のうちをさらけ出すのはやはり金森先輩でも怖いみたいだ。まぁ当たり前か、本音なんて普段は誰にも聞かせれないものばっかりだったりするしな。

聞かれたくない事と聞かせれない事の塊なんて見せたらきっと嫌われる、嫌われたくないから見せれない。

嫌われる勇気じゃないけど、見せるための勇気は本当に湧かないのだ。


「金森先輩の告白かぁ、された奴はどんな反応するんですかね?」

「他のいろんな子にも好意を寄せられてるし、好かれることになれてない人だからまず戸惑って悩みまくると思います」

「・・・・・・いつか、告白できるといいですね」

「ふふっ、そうですね。でも出来れば私は告白されたい人ですから」


裏表を感じさせない笑みはいつもの事ながら少し思考を落ち着かせてくれる。

この人はやっぱり落ち着いてて少し天然で、でも芯のある人だ、やるって決めたらやり通す人だ。そんな人でも告白なんておいそれと出来ないんだから、あの頃の俺はどうかしてた。

俺は本当に答えを見つけれるのかな。


「でもいつまでも待てませんからね、最終手段で襲うってのを用意してます」

「おいおい」

「あくまで私から告白した後の話です。真面目に取り合って貰えなかったら茶化されたらそうします」

「大変ですね、そいつも」

「大変ですよ、その人も」


この人は誰かに好意を寄せていて、告白されるのを待ってる。

でも最悪時分からも告白しに行くと決めた。それがどんな結末になろうとも位の覚悟の眼差しで。

なら俺もそうすべきなのか?


「あっ南くん」

「何ですか?」

「答えを出す人はバレンタインにチョコを渡した人だけじゃないですよ。ほら、大宮さんなんかはお仕事でしたし」

「・・・・・・もっと周りを観察してからにします」

「うん。偉い偉い」


急に頭を撫でられるが骨折のおかげで逃げれなかった。

でも彼女の手は何処と無く心地よくて、良く言えば癖になる、悪く言えば中毒性のあるものだった。


「南くんのお姉さんが依存するのも頷けますね」

「ん?」

「何でもありません。そうだ、今度新歓パーティーやるから絶対に来てくださいね」


彼女の手が離れることに少しの名残惜しさを感じながらも、俺は新歓に行くといった。

今度こそは参加しないとそろそろここに来るのも気まずくなる。去年のあの嫌な時間の再来になる。

それはなんとしても避けたいし、答えも伝えにくくなるだろう。

今度こそは参加する。


「じゃあ私はお先に失礼しますね」

「はい」

「南くん、待ってますからね」


俺の言葉も聞かず言うことを言ってととっと帰りやがった。

これでまた考えることが増えた、なんて事してくれたんだ。

はぁ、取り敢えず俺も帰るか。

松葉杖をつきながら悩む生活はまだまだ続いた。

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