俺の答え合わせ
あれから数日がたった。
姉ちゃんには転んで怪我したといい、貸しを一つ作って納得してもらった。
医師曰く、二ヶ月もあれば骨折は治るそうでギブスもすぐにはずせるらしい。
雪奈先輩は後の検査でPTSDを確認されたそうだ。
男性に対する恐怖から来るパニック障害、そしてその原因を作ったごみくず野郎は今もなお容疑を否認してるらしい。
コンコンコン
やっと来たか。
「どうぞ」
「こんにちは、夏夜くん」
俺は彼女にどうしても聞きたいことがある。
それは雪奈先輩を助けるに至った経緯。
苺さんからしても雪奈先輩からしてもお互いに赤の他人同士。なのに何故雪奈先輩はDVを相談し、苺さんは相談に乗ったのだろう。
「体調はどう?」
「お陰さまで」
「怒ってる?」
「姉ちゃんに貸し作る羽目になりましたからね、それなりに」
「本当にごめんね」
あの日よりも数段真面目な声色での謝罪をふざけるなで弾き返せるほど、俺は怒ってない。
ただ答えが知りたいのだ。
「どうしてこんな事したか知りたそうな顔だね」
「・・・・・・」
「簡単に言うと一種の吊り橋効果的な物を狙ったんだよ」
事態とは全く釣り合わない答えに俺は言葉を失った。
だってそうだ。人一人が一生癒えぬような傷を負ったのに、この人は吊り橋効果を狙ったって。
「君と私で吊り橋効果狙ったの。これをきっかけに君が私を好きになったらなって、でも私としたことが最近になってこのまま行くと君に嫌われるって分かったの。君の事になると少し急ぎすぎてダメだね私」
まだ言葉は出てこない。
いろんな意味で衝撃的すぎて持てる言葉じゃ何も言えない。
それに意味もいまいち理解できそうにない。
俺みたいな特徴と言える特徴がヤンデレでブラコンな声優の姉を持つくらいしかない、村人Aに何で苺さんがそんなことするんだ?
またからかわれてる?
彼女はなんだかんだ言って重要なときにふざける人だ。もしかすると今回もそうかもしれない。
「今年の元日、君に聞いた高校の話も夏夜君の事を知りたかったから。初めて私に会う人は皆私に好かれようと的はずれな努力をする、でも夏夜君は努力も離れるための努力だった。そんな人生まれて初めてで気になって、だからいろいろとちょっかいも出してきた」
「・・・・・・苺さん」
「しばらくすると私は夏夜君が好きなのかなとか思い始めて、その内好きなんだなぁって思うようになった。初めての感覚でわからないことだらけ、それに夏夜君は私の事苦手って言うし」
「すっすみません」
矢継ぎ早に告げられていく事実はどれも信じがたいものばかり。
でもきっとこれは嘘じゃない・・・・・・何て勘違いするな。
あの姉ちゃんを知ってて、それでも俺を好きになって、好かれようと努力する人なんていない。
それは男も女もだ。
こと、誰かを欺くことに関して金森苺さんはエキスパート。
そんな人がこんなバレバレな演技するはずない。
「どこから嘘━━━━━━」
ペシン!
「夏夜君は自分で考えてるよりも何倍も好かれてるんだよ。それを勘違いとか君のお姉さんを理由に否定しないで」
右手で強く叩かれな頬は少しの間を置いてからジンジンと痛み始めた。
こんなにも強く叩かれたのは久し振りだ。
まぁついこの間殴られはしたけど、足が折れるレベルで。
「夏夜君が人を一定距離から近付けないのはお姉さんのせい?それとも暗い過去?」
「・・・・・・」
「これでもう私と会うのも最後なんだから答えてよ」
「その、最後って?」
俺がそう聞くと苺さんが驚いた。
それもうほとんど見せない素を見せるレベルで驚いた。
「君を騙して盾にして怪我も負わせたんだよ?私のかってな思惑でこんな事にしたのに私の事嫌いにならないの?」
「あー。人に嫌われるのは辛いですからね、俺はたぶん苺さんよりもその事についてよく知ってますよ」
「・・・・・・」
「それに俺は他人に起こったりしませんし」
そう。
嫌われるのは辛い。
それは原因が自分にあろうと他の人にあろうと同じで、俺は今まで姉さんって言う理由で嫌われ続けた。
小学校でも中学校でも高校でも。まぁ中学校から後は自分のせいもあるけど。
それでも嫌われものになるのは辛い。
俺はラノベの主人公みたいにぼっちを誇れるほどボッチも極めてないし、嫌われるのに心情を突き通す程の根性もない。
だから誰かを嫌いになる度胸も持ち合わせてないのだ。
「苺さんが俺にどんな感情を抱いてるとか、利用した利用されたなんて一先ずどうでもいいんですよ。俺はいっつも人を小馬鹿にして妹を苛めてるようで妹が大好きな、そんな貴方の事を苦手だと思っても嫌いとは思いません」
「・・・・・・うん、ありがと」
お人好し?
俺の二つしかない長所だよ。
コンコンコン
「秋菜ちゃんがお見舞いに来てあげましたよ」
「返事する前に入ってくんなよ」
「こんにちは」
「うん、こんにちは。じゃあ私はこれで失礼するね」
苺さんと入れ違いに、秋菜がいすに座る。
少し不機嫌そうだ。
「今日何日か知ってます?」
「・・・・・・あっ」
三月十四日だ。
ホワイトデーじゃねぇか今日!
すっかり忘れてて何も用意できてないぞおい。
どうする?何て言い訳する?
「まぁ先輩の事だからそんなだろうとは思ってましたけど」
「すまん」
「でも、皆怪我したのを加味してもう少しだけ待ってくれるそうですよ。だからその日に答えだしてくださいね」
「答えって?」
「バレンタインの答えなんて一つしかないですよ」
バレンタインの答えって好きか嫌いかか?
えっ、ちょっと待って可笑しくないか。
俺のこと好きな奴思いあたらないんですがどうしたらいいんですか?
何て聞いたら殴られかねない。
仕方ない、皆友達にして・・・・・・
『夏夜君は自分で考えてるよりも何倍も好かれてるんだよ。それを勘違いとか君のお姉さんを理由に否定しないで』
あの言葉もし本当なら、万が一に億が一に真実だとしたらそんななげやりな方法は許されるのか?
あぁ、めんどくせ。
「どうしたんですか?」
「秋菜は俺のこと好きか?」
何故かそう聞いてしまった。
聞いて好きじゃないと言ってくれたら簡単に事が済む。
たぶんだから聞いたんだと思う。
「はい」
「・・・・・・分かった」
頬が赤い、俺もこいつも照れてるんだ。
それに、そんな風に肯定されたんじゃてきとうできないじゃねぇか。
「じゃっじゃあ今日ひぁ私も帰りましゅね!」
本当に恥ずかしかったのか、噛み噛みでそれだけを言い残し帰っていく。
俺はこれからこたえをださないといけないらしい。
はぁ、解出さないといけないのは数学だけにしてくれよ。
何とも言えぬ重たい思考を、今日は諦めずに続けて一夜を過ごしてしまった。
夜の病院マジ怖い。




