俺のサークルの部員勧誘
受験の合格発表が行われるなか、俺はどういうわけか燕尾服を着てだて眼鏡もかけて、サークルの勧誘をしていた。
いや、どういうわけとかないか。
うちのサークルの馬鹿が発案者だよ。
なんなのあいつ、だいたい非公認サークルが勧誘解禁される前からコスプレで勧誘って何だよ。
だいたい俺はそう言うの嫌いなんだよ。
サークルで勧誘のために楽しんでメイド服やら執事服やらって本職を馬鹿にしてんのか?
そう言う調子に乗った頭の悪い大学生みたいなノリ一番嫌いなんだよ。
「あっ」
カシャ
「南さん久しぶり」
「ちょっと待て、写真より挨拶があとだろ海那。てか写真消せ」
「この度潮風海那は・・・・・・合格しました」
「そうか」
受験票を握りしめ俯き涙を流す彼女の頭を撫でる。
「じゃあうちのサークル見に来るか?」
「はいっ!」
泣いている女性を燕尾服で誘導するのはすげぇめだった。
移動の間の羞恥を堪えてやっとの思い出で部室にたどり着く頃には、海那も泣き止んでてくれた。
おかげで部室に入りやすくなったよ。
ガチャ
「一人連れてきましたー」
そう言えば、こいつと部員って面識あったな。
「って、まだ誰も戻ってないか」
「南さん、このサークルって・・・・・・」
「一応、オタサーらしい。それらしいことなんて全くしてないから、全力でオタサー楽しんでる人に申し訳ないけど」
「こっちじゃこんなの流行ってるんですね」
「こっちって言うか日本でって言うか世界中でって言うか」
金森先輩が持ってきた眼鏡っ娘の本やフィギアを見て言う。
そしてどういう訳か俺を見てすごく痛々しい奴を見る顔をした。
「南さんのそれもそう言うの?」
「違う、これは仕方なく着てるんだ」
「・・・・・・まぁいっか。あっこれ面白そう」
はぁ、妙な誤解されたな。
「ひゃうっ!」
「どっどうした?」
「世界中で女同士の恋愛流行ってるの!?」
「いやまぁ、世界中かは知らんが百合の作品はわりかし多いと思うぞ」
てか金森先輩の好みの眼鏡っ娘が出てるからって十八禁の本部室においとくなよ。
その本を拾い上げもとの場所に戻す。
変な勘違いされても面倒なだけだ。
ガチャ
「あっ南くん戻ってたんですか?」
「はい、一人連れてきましたよ」
「また女の子ですか。どうして南くんの側には女の子が多いんですかねぇ」
それは俺に男友達が居ないから必然的に、そっちの方が多く見えるんだよ。
「あっ貴方は去年の夏の」
「えっ・・・・・・あー!あの綺麗な人」
「綺麗だなんてとんでもないです」
「そうだ、お母さんに電話しないと。少ししつれいしますね」
電話を片手に出ていく海那と入れ違いで秋菜が戻ってきた。
異様に疲れた顔してるけど、お前の場合何があっても基本的に自業自得だから。
「夏夜先輩は私がこんなに疲弊して帰って来たのにどうしたか聞いてくれないんですか?」
「その質問にはたったの六文字で簡単で単純で明瞭な答えを出せるけど聞きたい?」
「可愛すぎたですね」
「惜しい。答えはどうでもいい、ですね。だいたいお前がやるって言ったことだろ」
いやまぁ可愛いけど。
何か悔しいから言わねぇよ。
「可愛くないですか?」
「不細工には見えないから安心しろ」
「素直に誉めればいいのに」
「南くん、私はどうですか?」
金森先輩は、可愛いよりも綺麗とか優雅とか気品に満ちてる続くってイメージが強いな。
着る人が違うだけでこんなに違うなんて。
「綺麗ですよ」
「しょ、しょうですか」
「林檎ちゃんにだけあまい、ずっこい!」
「うるせぇよ。勧誘はどうだったんだ?」
「あと一歩で男性恐怖症でした」
「・・・・・・お疲れ様です」
「新入生より在校生の方が怖かった、特に不良っぽい人。めがギラギラしてて」
これで懲りるといっては少し不謹慎だが、少しは頭の悪い発想について自問自答するようになるだろ。
「次からは痴漢撃退スプレー的な物を持ち歩いて行動します」
「筋金入りだったか」
「何ですか筋金入りの撃退スプレーって、超強そう!」
本気でわかってない秋菜に金森先輩は苦笑いを浮かべる。
こいつはどうやって大学に入ったんだ?
ガチャ
「疲れたー、先輩労ってください」
「金森先輩の方が労い上手だと思うけど、梨木」
「まぁ夏夜先輩はそんなもんですしね」
どついたろか?
「電話終わりました」
「今日の収穫は一人だけですね」
「あぁ、貴女は去年の夏の人」
「そういうはらぐ・・・・・・策士っぽい人」
「腹黒いでいいよ、覚悟があるなら」
梨木ってこんなこと言う娘だったっけ?
「もっと皆さんとお話ししたいんですが、下宿探しとかいろいろあるんで一度家に戻りますね」
「そう言うことなら仕方ないですね。また何時でも遊びに来てください」
名残惜しそうに去る海那に金森先輩が笑顔で送り出す。
きっと俺には一生かかっても恥ずかしくて言えないであろう言葉を添えて。
何とも言えない感覚は決して嫌なものじゃなくて、仮に言葉にするんだったら幸せであってるはず。
「仕方ありませんし、今日はこれで引き上げましょう」
「この後皆で遊びに行きませんか?」
引き上げるって意味わかる?秋菜。
撤収だよ、帰りたいんだよ。
「秋菜、行くとこ決めてから言ってちょうだい」
「蜜柑の言うことなんてお見通し、私先輩方の歌声聞きたいです」
「却下」
「私はいいですよ、そう言うところ行ったことありませんから行ってみたいです」
「却下、俺は疲れたしせっかくの休みなんだから帰って寝る」
「先輩の休日しょうもないですね」
どこがたよ、最高で最適な休日の過ごし方だろ。
どこかに出掛けるなんて時間と体力と金の無駄遣いにしかならんし。
バイト禁止されてる学生としては、浪費は避けたい。
ときどき俺の財布に五万円くらい増えてるけどちゃんと返してるから、浪費なんてしたくない。
「夏夜先輩だめですか?」
「俺は歌声のプロだから料金が発生しちゃうんだよ」
「・・・・・・うわー」
「うん、今のは自分でもひく」
何だよ歌声のプロって。
「でもまぁ、先輩がそんなに行きたくないんだったら私諦めます。三人で行きましょ」
いやー、人付き合いって大変。
遊びひとつ断るだけでこんなに機嫌悪くされるなんて本当に面倒。
まぁお許しも出たしさっさと帰って寝るか。
ブーブー
出たくない方の携帯に着信。
と言うことはあの二人のどちらか、いや十中八九苺さん。
なら先にみんなからは離れた方がいいな。
「埋め合わせはちゃんとするんでゆるしてください、じゃあ失礼します」
部室を出て携帯の着信を受けながらも早足で遠ざかる。
異性からの連絡ってもっと心踊る物だと思ってたのに。
「はい、夏夜です」
『私だよ』
やっぱり苺さんか。
「どうしたんですか?」
『そろそろ君にも話しておかないとね、だから今から言うところに三十分後に来て。遅れたらきっと後悔するよ』
この人遅刻の代償に何させるつもりだよ怖いよ。
そうして告げられた住所は大学近くの駅から五駅ほど離れた繁華街の喫茶店。
どうやらそこから雪菜先輩の家に行くらしい。
ようやく訳のわからない行動の答えを知れるのかと思うと、苺さん関係だってこともあって不安しかなかった。
『じゃあね』
「はい」
いつもと同じ調子の苺さんからの通話も終わり、恐る恐る俺はその場所に歩き始めた。
《続く》




