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俺の家族とお出かけ

あれから二日した今日。

母さんが帰って来て四日が過ぎた日のこと。

俺は母さんと近くのショッピングセンターに来ていた。

それも大学を休まされて。

大学を休まされてだ。

俺がマザコンとか思われないよう重要なことなで二回言った。

そしてこの母親。

日本でもかなりに有名な人で、雑誌やテレビの取材なんかも結構な頻度で受けてる。故にとても良く人目を引く。

それはもう、紳士淑女の舞踏会にティーシャツホットパンツで参加するレベル。

お母さんはそういう脚光を浴びることになれてるが、俺は全くなれてない。

むしろ一人でいる俺にに注目するのさ万引きGメンくらいだ。

だからとてもはずい。


「夏夜はどっちの方が似合うかなぁ?」


ファッションのプロに普段衣装を選んでもらってる母さんもそれなりにセンスは磨かれてるはず。

むしろ下手な服屋の店員を凌駕するだろう。

その人が、俺からすれば何が違うの全く分からない二つの服を見比べてる。


「母さん」

「なぁに?」

「その二つって同じだよな?」

「どこをどう見たらそう見えるのか、お母さんには理解しがたいわ」


どこをどう見ても同じにしか見えない俺には、違って見えることの方が理解しがたいけどな。


「こっちは清潔感があっても近寄りがたい雰囲気出すし、こっちはフレンドリーに見えるのよ」

「同じに見えるのだが」

「あんたは昔から父さんに似てたものね」


あんたに似てたら俺も美男子の仲間入りだったろうに。

はぁ、本当に残念だ。


「ところで夏夜」

「何?」

「この間来た女の子、それとサークルの女の子と春ちゃんの誰が本命?」


さらっと実姉が含まれたのですが母親の貴女としては反対すべきなのでは?


「本命なんていないよ」

「ホモ?」

「ノンケだ」

「夏夜、あんたがどんな性癖でもお母さん笑ったりしないから」

「実の息子がまるで特殊な性癖の持ち主みたいな言い方やめてくんない?」

「で、私としてはこの間来た女の子の活発な子はやめといた方が言いと思うの」


俺もそう思う。

あの人は裏の裏の裏が裏みたいな人だからな。

本性なんて結婚しても一生つかめないだろうし、なにより見透かされてて怖い。

結婚して一週間で胃に穴あける自信ある。


「あんたの性格だと確実に体壊す。ある意味春ちゃんより厄介な子」

「さすが母親、良くわかってらっしゃる」

「私もお父さんもあんまり親らしいことしてあげられなかったけど、親だからね。あんたら子どもの事はあんたら以上に理解してるつもり」

「なら俺が今考えてることわかるよな?」

「息子に母親として服選んであげてるんだから付き合いなさい。たまの休みくらい母親しないと」


楽しそうな母さんを傍目にまた、苺さんからメッセージが届いた。

あれからどういうわけか他愛もない内容のメッセージのやり取りを沢山している。

通知数でいうと一日九百は越える。

でも核心的な内容は今だつかめず。


「よし、決まり。これ買ってくるから店の外で待ってて」

「あぁ」


衣服を数枚持った母さんに言われた通りに待った。


■□■□■□■


「夏夜くん」

「姉ちゃん何?」


あれからすっかり夕食時になり、早くに仕事が終われた姉ちゃんも合流して近くのファミレスに外食としゃれこんだ。


「食べさせてあげる」

「いや、大丈夫」


テーブル席の壁がわに押し込まれ、チーズハンバーグをフォークに刺しそれを俺にも刺す勢いで超至近距離に迫られる。

これは中々に怖い。

ただでさえ怖い姉ちゃんにフォークと言う兵器を装備させたのだから仕方ないだろ。


「春ちゃん、ご飯くらい自由に食べさせてあげなさい」

「・・・・・・はい」

「夏夜も照れてるだけだから、やるなら家に帰ってからね」


照れてません。

第一、何をさせるつもりだババァ?


「だって夏夜くん。お母さんの許可も出たしいいよね?」

「なにも聞こえなーい」

「なら大声で━━━━━━」

「姉ちゃんマジでごめん。最近いろいろあって、たぶんこれからももう一波乱あるだろうから勘弁してください」


その波乱の種からの連絡は姉ちゃんが合流するのをまるで見てるかのようにパタリとやんだ。

盗聴器的なものでもつけられてるのかしら?


「夏夜くんに悲報があるの」


姉ちゃんに悲しみを背負わせるなんてしょっちゅうだろ。


「私お仕事で明後日千葉に二日、大阪二日、福岡に二日づつにくらい行くから、しばらく会えないの」


それは悲報ではなく吉報では?

なんて口が裂けても言えない。


「お仕事頑張れ」

「夏夜分の補充」

「・・・・・・」

「春ちゃん、こういうところでやると他のお客さんに迷惑でしょ」


だから家でやれと。

だてに二十年近く親子やってないからな。

かなり思考が読めるようになったぜ。


「今日は一緒に寝よ?」

「若いわねぇ」

「あんたに比べたら二十年は若いよ」

「今夜夏夜食べてもいいわよ」

「うんっ!」


うっ目が輝いてやがるぅ!


「姉ちゃん、そんな事したら絶対に許さないから」

「夏夜くんは何でお姉ちゃんのお願い聞いてくれないの?」


そのお願いが叶うのと俺の破滅がイコールだからだよ。


「でもそうね、夏夜も男だしヤられるよりヤりたいんじゃない?」

「そうなの?」

「あんたらは本当に親子だよな」

「夏夜は寒い雪の降る七月十七日に橋の下で拾ったから」

「支離滅裂だなおい」

「なら合法━━━━━━」

「違法です」


姉ちゃんをいなしつつの食事は、俺の標準スキル。

とりあえずこれがなかったら我が家での食事はまず無理だな。

うん、生きるための成長って素晴らしい!


「じゃあそろそろお店でよっか」

「夏夜くんのほっぺにソース━━━━━━」

「もう拭き取ったから大丈夫」

「バカ」


バカで結構、なんなら大馬鹿野郎でもいいぜ。

そしてこの会計、俺は家族と来ると地味に一円も払ったことがない。

親と来たときも姉ちゃんと来たときも、『稼ぎが違う』と言われる。

まぁ確かに俺の稼ぎはときどき落ちてるお金拾って有効活用させてもらうことくらいだけどさ。

あぁ、稼ぎと言えば就職。

どうすっかなぁ。

院に進んでまでもやりたいことないし。


「さて、これから呑みに行く?」

「私、明日の仕事に差し支えると困るから」

「お酒苦手」

「はぁ、春ちゃんはともかく夏夜はまだまだ餓鬼ねぇ」


酒なんて百害あって一利位しかないだろ。


「ジュースでいいなら付き合うよ」

夏人(なつと)が聞いたら泣くわね」

「あぁ。父さん、姉ちゃんの事大好きだからな」


好きすぎて、姉ちゃんにすかれる俺に嫉妬するレベル。

海外赴任の時も姉ちゃんと離れたくない(俺には全く触れず)って泣いてたっけなぁ。


「でもお父さん、私にデレデレしすぎて苦手」

「夏人が聞いたら大号泣するわよ」

「あぁ。父さん、姉ちゃんの事超大好きだからな」

「二人とも帰るわよ」

「あぁ」

「夏夜くんと手を繋いで帰ろっと」


俺の有無などいつも通り無視な姉ちゃんに手を握られて三人で家路をたどった。

その夜の母さんの絡み酒は多分、一生記憶から消えないだろう。

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