俺の話す中学時代の文化祭
「俺の中学は行事に重きをおいてたんだ」
「ほう」
「だから当然文化祭なんかにも積極的で、特に三年生はクラスで自作劇やるんだ」
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「おい南、俺らあっち手伝うから小道具作っといて」
「うん」
あっちで駄弁るから代わりに作っとけと。
ありふれたファンタジーするだけなんだから小道具も何も要らないと思う。
三十分のショートストーリーなのだから尚更。
そしてこの脚本には俺やその他の低カースト者が欠片も携わったようには見えない。
それでも俺は文句を言える立場になく、黙々と準備を進めた。
他の奴らが楽しそうにちんたらと作業を進めるなか、俺は一人でそれを続けた。
そしてそんな俺を予知するかのように決められていた『一人は皆のために、皆は一人のために』というスローガン。
俺は一人、皆という奴等のために作業を進めていたのだ。
「ねぇ」
段ボールをテープでくっ付けて色を塗る俺に誰かが話しかける。
名前は知らん。
「夏夜君も私たちと━━━━━━」
「大宮さーん!そいつ一人でやんのが好きなんだからほっといてやれよ。きゃはは」
「うわっマジそれうけるー」
「てか、一人で黙々と働く俺かっこいいみたいな顔してて私はムカつくんだけど」
「大宮っちもそうもうっしょ?」
「えっあ・・・・・・うん」
こんなに貢献しても貶されるだけ。
それでもクラスのために作業を続けた。
それまではこれでいいと思ってた、あと数ヵ月もすればこんな生活も終わって高校生活を謳歌できると思ってた。
それから数日後の事。
いつものように貶されながら作業を続けてる平和な放課後。
俺の我慢は効かなくなった。
「皆、作業に入る前に聞いて欲しいことがあります」
教卓の前にたち、何事においても自分でしきってきた水元が言う。
担任教師は既に別室で演技練習をする人たちのもとに行ってて居ないし、この状況じゃ彼の横暴はますます酷くなる。
そんなひどい横暴に誰も文句を言わないのは、水元が所謂一群のトップだから。
「このクラスだけ作業が遅れてる。理由は準備をサボってる奴がいる、だから自覚のある奴は俺の前に出てきて欲しい」
そんな事すると俺以外全員だろ。水元も含めて。
水元に野次を飛ばすものは居れど、自分がサボった自覚のある奴は一人もいない。
周りを見渡すと、『お前だろ?』、『俺真面目にやってるから』と誰もが口を揃える。
「南が全然働いてませーん」
どうやら俺は働いてないみたいだ。
一人で押し付けられた仕事こなして、でも罵られて我慢して、それでも俺はサボってたみたいだ。
じゃあ俺がお前らと同じように『皆』と力を合わせてらサボリじゃなかったのか?
皆でやればそれは正当化されるのか?
違う。
誰とやろうとサボリはサボリのはず、なのに何で俺だけ一人で頑張って我慢して貶されて罵られて挙げ句のはてには、実績すら奪おうとするんだよ。
いつのまにかクラスは俺が絶対的な犯人だと決めつけ騒がしさも大きくなっていた。
「南立て」
「水元、お前も殆ど喋ってるだけだろ」
「俺は皆のためにサボリなんてしてない」
ならもういい。
嫌われるならとことん最後まで完璧に嫌われよう。
いじめなんて起きないレベルまで嫌われる。
そう心に決めて俺は水元の目の前におどりでた。
「さぁ、皆に謝ってこれからどうするか言え」
そのいいぶりに思わず笑ってしまう。
「お前にそんなこと言われる筋合いも、皆とか言うやつらに謝る理由もない」
「南お前・・・・・・俺たちが自分の時間を犠牲にしてきた間お前は自分の事を━━━━━━」
「なら俺が作ったものを壊しても三日後の文化祭には間に合うよな」
「・・・・・・」
「お前の作ったもんなか無くても間に合うに決まってるだろばーか!」
馬鹿の叫びに水元の顔が歪む。
こいつは俺が誰よりも作業を進めてた事を知ってるみたいだ。
「なら水元、俺の作ったものを壊してくる。俺はこんな素人の糞つまんねぇ脚本の劇なんてやる前から失敗だと思ってる。おおもとが失敗してるなら仕方ないよな」
「ウチの脚本のどこが面白くないのよ!?」
「魔王にさらわれた姫を勇者が取り戻しにいく、道中様々な敵を味方にし、最後は皆で仲良く。ご都合主義もいいところだし敵が味方になるなんてのはありえない。第一同じ城に暮らす勇者にも気づかれず姫を奪えるなら、最強魔法を勇者の村に叩き込めばいい。辻褄があわなさすぎる。ゴミ原作だよ」
教卓においてある原作の原稿を破り捨てる。
「それに水元の言う皆は、お前の陰口を言ってるんだぞ。水元にだけじゃない、メンバーが違えば矛先も違う。それがお前の言う皆か?」
「違う」
「一人は皆のために、皆は一人のために。そんなの理想論でしかない、俺は俺を貶める皆のためにどうやってやる気を出せばいい?教えてくれよ」
「・・・・・・」
「所詮お前らの言う仲間意識なんてそんなもんなんだよ、でも皆で力を合わせようとするのは一人で失敗するのが怖いからだ。一人で失敗するのが怖いから人を集め徒党を組み誰かを蔑む。結局お前らにとって皆は逃げ道でしかないんだよ」
「だからなんだよ、意味わかんね」
「分からないんだったら喋んな。てか俺が謝罪じゃなくて俺に謝罪だろ」
その言葉に水元は怒りを露にし始めた。
必死に俺をにらむもたいした迫力もない、姉ちゃんに比べれば何も怖くない。
教室を見回すと余すことの無い憎悪の視線。
そんなのは全て無視して俺は宣言通り、自分で作った道具の数々を使い物にならなくした。
文句の声があがれど無視。
そうして残ったのはたったの五本の剣。
背景すらも残らなかった。
そして俺はスッキリしない気持ちのまま教室を後にした。
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「案の定劇は大失敗。文化祭終わりのホームルームじゃ泣き出す奴までいたな」
「夏夜えげつないな」
「まぁ俺はこんなことするまでもなく嫌われてたんだけどな」
「何でや?」
「あの歳の子どもに、何でそいつを嫌うかなんて聞いてもまともな答えは返ってこない。アニメやドラマでそうしてるからきっとそうなのだろうみたいな思考回路なんだから」
俺もそうだった。
当時読んだ小説でにたような状況の主人公と全く同じ事言ったのに、今となってはただの黒歴史なんだから。
「それそろ五限目始まるし行くわ」
「ウチはもうちょいゆっくりしてくわ、じゃあな」
「バイバイ」
料金分ぴったりの金をテーブルに置き店を出た。
やっぱり昔話なんてするもんじゃない。




